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第185話 呑気

「ひゃああああ!!!」



ナエカの絶叫を辺りに響かせながら、エリーナとナエカは屋根の上に降り立つ。


激しい風が吹き荒れ、制服の裾がはためきバタバタと音を立てた。


あまりの風の激しさに、ナエカは思わず目を瞑る。しかし、前方に人影を発見し、なんとかゆっくり目を開く。



「あ、エリーナとナエカだ!!」



「わあ、すっげぇ!」



「きてくれたよ! やったぁ!」



子供達はざっと五人。やって来たエリーナとナエカに気付き、興奮して大はしゃぎしだす。


おもちゃでも見つけたように、大喜びで二人の元に集まってきた。


すぐ後ろに魔人が見えてる状況なのだが、なんて呑気だとエリーナは困った表情になった。子供はとことん無邪気だ。



「──あれ」



店員はナエカの姿を見つけ、目をパチクリと見開いた。



「こんなとこでお会いできるとは」



「こんにちは、店員さん」



ワタワタしながら、ナエカは頭を下げる。


店員さん、という言葉に首を捻りながらも、エリーナは店員に神妙な顔つきで近付いた。



「剣の団の団長、エリーナ・バンディアですわ。この子は同じく、剣の団のナエカ・シュヴァンです」



子供達を降りるように説得していたらしい彼は、エリーナの困った様子を察したのか、微妙な表情を向けてきた。



「すんません……。降りろ降りろって、ずっと言ってたんですけどねー」



「この建物の方かしら?」



「いや、ここに知り合いが住んでて、コーヒー豆を譲る約束してたんですけど」



約束の時間になっても会えず、困っていたら魔人の着地する衝撃で出られなくなった。


他に誰かいるのか、と心配になって建物をくまなく探すと。


聴こえてきたのは、子供の明るいはしゃぎ声。



「この子達がここに忍び込んで、こんな屋根の上で遊んでたみたいで。なんかこういうの、一難去ってまた一難……違うな、災難?」



「あらあら、災難でしたわね」



エリーナがフフ、と笑いながらそう答えた時、ドン!!と大きな音が床を揺らすように響いた。



「わああ!!」



「ぴゃあ!!」



子供達も、流石に驚き声をあげる。


地上で残された、三人の作戦が始まったのだ。


その頃地上では、ショウリュウが再び札を取り出し構える。神様を見据えて。



「もう一回いくぞ!」



「よっしゃあ!!」



「ばっちこ~い!! ウフッ」



ショウリュウがバッと、前方に向かって何枚も札を放つ。その前には、三人の後ろ姿があった。



タヤバル!(追い風!)



ゴオオオオオオ!!!



札から放たれた風は、一気に二人を押し出し空中まで飛ばす。


同じ呪文でも、以前アイリと街を駆け抜けた時に放った風とは、明らかに威力が違う。行き先は神様。


二人は無表情の神様に向かい、大きく飛び上がった。



「うぉりゃあああ!!! 光弾玉ライトバーニング!!」



ギギギイイン!!!



レオナルドの技が炸裂し、魔人の肌が激しく音を鳴らす。その後ろから僅かにタイミング遅く、カリンが飛び上がった。



「カリンちゃあああんぱああああんち!!!!」



ドゴォオオオオオン!!!!



カリンの拳が、魔人の腹にベコッとのめり込む。



「あらあら、これは思ったより早く片付くかもね」



目の前の光景とカリンの技の威力に、エリーナは笑みをこぼす。そろそろ、壺の魔人が割れてしまいそうだ。



「ナエカ、今から子供達を地上に下ろしていくから、残っている子達とその人を頼むわよ」



「え?」



一度に三人運ぶには、その内の一人に、他の一人に掴まってもらう必要がある。子供にそれを要求するのは難しかった。


つまり、一度に下ろせるのは二人まで。三回は地上とこの場所を往復する事になる。


──その間、ここを守る人間が必要だ。



「は、はい!!」



ナエカは、本人にしては力強く答えた。エリーナに頼まれる、光栄な事だ。


エリーナはにっこり微笑むと、子供二人の手を握って一気に飛び降りて行く。



「行くわよ!!」



「わあああああ!!!」



驚く子供達の絶叫のバックに、魔人が軋む音が重なって最早混沌の状態。


先程まで元気だった子供達も、流石に顔を強張らせる。


チラッと瑠璃色に目を向けると、神は何かしら抵抗する事もなく、未だに真っ直ぐそこに立つ。攻撃を受け、激しく軋みながらも。



「……イツマの神」



「え?」



いつの間にか、店員がナエカのすぐ隣に立っていた。ナエカは驚きで隣に振り向く。



「物が何年も大事にされると、心を持つようになって、その心が呼び寄せると言われている神様なんですよ」



青年はそう言って、笑みを浮かべた。



「あれが、神様?」



「ええ」



店員は笑みを絶やさず頷く。



「初めて見たな〜。こんなに大きいなんて知らなかった」



ナエカは、チラッと店員の方を見た。



子供のように、はしゃぐ目をしていたのだ。



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