第184話 罰
「壊すだって、あれを!? 壊していいんすか!?」
レオナルドはそう叫ぶように言葉を放つと、仁王立ちするその神様に、恐る恐る身体を向けた。
ギギギギギ!!
「!!!」
レオナルドのその声に反応したのか、アパートメントを向いていたその首が再び動き、今度はレオナルドの方へ向く。
周りの警官達も、神様の動きに一斉に慄く。
「ま、また動いた!!」
『どう動くか分からん』
「おい、ジェイジー。壊していいって本当なんだろーな」
『アイリちゃんが、よう分からんけど……そない言うとるんや、それと』
「……!!」
ショウリュウの問いかけにジェイがそこまで言いかけた時、その場にいた団員全員、そしてバートまでもがハッと顔色を変えた。
近くの影が、ぐにゃりと動く。
「今のは……」
一人、二人。いや違う、人ではない。
こちらを刺すような気配は、今まで何度も感じたものだ。
沈黙がその場を貫く。口を開いたのは、エリーナだった。
「それと、何かしら?」
『分かったやろ?……その近くに、見えざる者がおる。あのかみさまが大きくなったんはな』
誰のせいなのか。
エリーナがキッと顔を引き締め、前に立った。
「──そう、ならば役割分担ね」
「いいんですか、エリーナさん」
心配して駆け寄ってきたヨースラに、エリーナは笑みを向ける。
「今はアイリを信じてみるわ。バートさん、よろしいかしら?」
貴方の壺なんだけど、ごめんなさいね。
口調こそ丁寧だが、どこか有無を言わせぬ雰囲気にバートはため息をつく。
「……お手並み拝見、とはこのことか。やれるなら、やってみせることだ」
エリーナは、そんなバートにありがとうございます、と言うとチラッとヨースラに視線で合図を送る。
ヨースラはコクリと頷くと、バッと明後日の方向に飛び出していった。
「ヨーちゃん!」
「シキ、ヨーについて行ってあげて」
エリーナから思わぬ指名を受けたシキは、キョトンとしたものの、ハイハイ、とヨースラを追いかけて行く。
見えざる者は、バートがここに来る話をどこからか聞きつけてきたのか。
「さて、ナエカ」
「え!?……は、は、はいぃ」
これまた思わぬ指名で、ナエカはその場でビクッと飛び上がる。ピッと姿勢を正した。
「一緒に行くわよ。みんな、任せるわね」
「お、おい!! 任せるって、待てって!!」
ショウリュウの静止を振り切り、エリーナはナエカの手を掴むと、地面を蹴って一気にジャンプした。
子供達が待つ、屋根まで。
「はっ!!」
「きゃあああ!!」
上へ、上へ、上へ。
目の前を早送りで流れる建物の壁に、ナエカは絶叫を上げた。
心臓がブワッと跳ね上がる。何度も何度も。
「ひゃあああああ!!!」
建物の遥か上へ、一瞬で飛び上がり綺麗な放物線を描く。
二人の姿は、そのままアパートメントの上に消えて行った。
「あーあ」
残されたカリン、ショウリュウ、レオナルドは上を見上げそれを見送ると、おずおずと目を見合わせる。
後ろには、目を光らせるバート一人。
ギギギギギ。
今度は、ナエカの声に反応したらしい。神の首が再び一瞬動き、アパートメントの方に向きを戻す。
案外、律儀な神様だ。
途方もないその大きさ。やはり、ジェイの言う通り神を思わせる雰囲気だが、壊してよいものなのかどうか。
ショウリュウは再び魔人を見上げ、ため息をつく。
「任せるって、俺達だけでぶっ壊せっつーことか?」
「バチが当たったらどうすんだよぉ!」
「かみさまはきっと優しいから、大丈夫だよぉ! ウフッ」
あくまでも、カリンは楽しそうだ。
余裕たっぷりに、軽い笑顔を浮かべるが、その目の奥がスッと冷えていく。
カリンは、魔人の衝撃で倒れてしまったらしい街灯を、軽く片手で手に取った。
「怒られたら、ごめんなさいしよーね」
流石に、先輩は肝が据わっている。
ショウリュウとレオナルドは、もう一度目を見合わせた。
「……」
ショウリュウは懐から札を取り出し、レオナルドもグローブをはめ直す。
「俺が風で、上まで押し上げる。それであいつ叩け」
「おっしゃ」
「了解〜。ウフッ」
そして、レオナルドは神様に向かい一気に駆け出した。
「……よっしゃぁ!! 行くっすよ!!」