第171話 一緒
【パレス 大広間】
「彼は異能機関に連行されていったよ、手下の彼等もね」
ハーショウが告げた言葉に、広間に集まった一同は揃って複雑な表情を並べた。
「ジェイ君、君の推測通り、ミゴブロフトの職員だったよ。エリーナ君にも、僕の方から全て伝えたから。君達は心配しなくていい」
「連行って、そのセロマって奴はどうなる?」
「始末はこちらでするから、大丈夫。彼がどうなるかは……聞かないでくれるかな」
「始末、か」
物騒な言葉に、ショウリュウは顔を顰める。
政府に喧嘩を売ったも同然。どんな末路かは分からないが、少なくとももう、表舞台には戻って来れないだろう。
想像したのか、ナエカはヒイッと声を上げ、唇を震わせる。
バタン。
広間の扉が開き、ドナと共にトニー、ララ、そしてマヤ教会の神父が入って来た。
霞が晴れたような、穏やかな笑顔で。
「いやいや、皆さん! この度はまことに、ありがとうございました、助かりました」
朗らかな神父の声に、団員達も笑顔で返す。
「わざわざここに来てくれたの〜? ウフッ」
「待たせてもうたのに、無事で良かったですよ」
「いやいや、とんでもない! 皆も信者の皆さんも元気で、感謝しておりましたよ」
「本当に、なんとお礼言えばいいか……」
瞳を潤ませ、ジェイに向かって深々と頭を下げるララ。ジェイはいやいや、と手を振った。
「巻き込んでしまったんは、こっちの方ですわ。お礼やったら、この子らに」
「おえ?」
視線で指名されたナエカ、レオナルド、ベルはきょとんと顔を見合わせる。
「皆さん助けたの、この子らやし」
アイリ達がセロマの手紙を見つけ、教会の人達を見つけだしたから。
ジェイが駆けつけた時には、教会の人達はもう救出されていたのだ。だからこそ、まっすぐルノの元に向かうことが出来た。
「ありがとうね、お兄ちゃん達」
真っ直ぐなトニーの言葉に、ナエカもレオナルドも照れてしまう。
「えへへ」
「そちらも、大変なことでしたな」
トニーは見えない目で軽く見渡し、何かに気付いたのか首を傾げた。
「あれぇ、もしかしてさぁ、ルノいないの? ここに来たら会えるかなと思ったのに」
「こ、こら!」
ナエカが喋るようなことを口にするトニーを、ララが慌ててたしなめる。
この子は恐ろしい。見えないのに、この場にルノがいない事が分かるのだ。
「見えとるみたいやん」
「ルノくんは、まだ上で寝てるのかい?」
あの後気を失ったルノは、医務室──ではなく、何故かオーガストの部屋に運び込まれた。
ポカンとする後輩達の前で、ジェイとヨースラの二人がかりで。
「あれじゃあ、ルノさん当分動けないでしょうね」
神妙に言うヨースラに、ジェイもうんうん、と頷く。
「結構無茶しとったみたいやから。しばらく目、使われへんやろな」
「目?」
能力を使い過ぎ、リュートを起こしてしまった。身体が鉛のようになり、動けなくなり、意識も飛んでしまう。
──更に、ルノの場合は。
「ルノ、目が使えないの?」
「あいつは目に力集めとるからな、力使い過ぎたら目もおかしくなる」
視力も落ちてしまうのだ。しばらくの間、ぼんやりとしかその目に映らない。
その話を聞いたトニーは、にっこりと笑う。
「じゃあ、ボクと一緒だね」
周りが、目をパチクリとまばたきさせる。その言葉に、ヨースラが微笑みかけた。
「そうですね、一緒ですね」
それを合図に、皆に笑い声が溢れていく。
穏やかな皆の中で、カリンは一人考え込んでいた。
「うーん」
──大丈夫かなぁ。ルノちゃんってばリュートに慣れ過ぎちゃって、いつも変になっちゃうから。
もっとも、ここしばらくはリュートを起こしていなかったけれど。怪我は相変わらずだが。
その時、神父がおや、と声を上げた。
「そういえば、アイリさんはどうしましたか? アイリさんにも、お礼を申し上げたいが」
「え」
皆でキョロキョロと、広間を見渡す。
パレスに一緒に戻ってきたはずなのだが、いつの間にか姿が見えない。
「あれ、姫ってばどこに行ったんだろう」
「ジェイちゃん、どこにいるか分かる?」
「言うとくけど、俺ももうすぐリュートすんで」
そう言いながらも、意識を集中させる。パレスを出たわけではなさそうだ。
そして。
「あかーーーん!!!」