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第169話 光線

大きく強く太く、そして美しい光線だった。



ドン!!!



天からの黒き光線が倉庫を貫き、倉庫の天井は音を立て、一気に崩れていく。



「な……な……」



セロマはただただ立ち尽くし、呆然とダイヤを見上げたまま。


太く膨らんだ光線はそのまま真っ直ぐ、セロマに直撃した。身体が、塵のように吹き飛ぶ。



「なあああああ!!!」



凄まじい勢いで吹き飛ばされ、身体が宙を舞う。


ドゴッ!!!


本来なら、四方を塞ぐ壁にぶつかるところ。だがそこに壁は無く、あえなく地面に叩きつけられる。



「な、なんだと……?」



全身がビリビリと震え、止まらない。


反射の能力で跳ね返せる、力の容量を超えたのだ。限界がある事は、彼自身が去年証明してしまっている。


床に伏した状態でなんとか顔を上げ、セロマは呆然と辺りを見渡した。



「こ、こんなはずは」



倉庫の天井、そして四方の壁が完全に破壊されていた。周囲のコンテナも、一部が破壊され崩れていく。


視界が大きく開き、頭上からオレンジの太陽の光が差し込む。まるで外にいるかのよう。


全ては、一撃の攻撃だけ。


何事かと駆けつけたアイリ達四人は、僅かに倉庫の跡を残しただけの空間を、唖然と見つめた。



「ルノ」



ふらつき今にも倒れそうなルノの体を、慌ててジェイが支えた。


力無く、全身で寄りかかる。その顔は土気色で、立っているのもやっとのようだ。



「……遅い」



ようやく口から出た言葉に、ジェイはニヤリと微笑む。



「すまんな、ちょい手こずってもうたわ。あれ、ストックどんだけ使うたん?」



「多分、ほとんど」



「あちゃー、やってもうたな」



そんな二人の会話を、セロマはただ聞いていた。間抜けにも、ポカーンと口を開けたまま。



「あんな物、いつの間に……」



セロマは鈍い体でググッと頭を動かし、頭上に視線を向けた。


倉庫の真上に鎮座する、美しいダイヤ。力を放出しきり、徐々にバラけていくように消滅していく。


間違いなく、ルノの黒曜の能力によるダイヤ。


とても、あの一瞬で造ったとは思えない。一年前のあの時のダイヤも、あれ程の大きなダイヤではなかった筈。


呆然としたままだったが、ようやく正気になり顔を上げ、ジェイの方をびっと指さす。



「そうだ、お前は何故ここにいるんだぁ!!」



突然大きな声を出したセロマに、ジェイはキョトンとする。



「何言うとんねん」



──そんなの、考えたら分かるやん。


涼しい顔のジェイに、セロマはぐぬぬと口元を歪める。



「まさか……あの場所がどこか分かったのか?」



「ああ、分かったで?」



「なっ!」



あまりにもあっさり告げるものだから、セロマはギョッとする。



「トニー君のおかげでな」



部屋の外に届かなかった、ジェイの力。だが、部屋の中にいたトニーには届いた。


ジェイの力が使えなくなかったわけではない。これはあの施設を囲うように、血の能力を封じる結界が張られていた為だ。



「俺の能力まで封じるような結界張れるのは、一人しかおらんで。マジェラのお姫様や」



マジェラを率いるマジェラ商会の会長、ユウギリ。その一人娘であるツクヨミ。その結界の力は、当代一と称される。



「そのお姫様が、初めて商会の仕事したって記事なっとんたんや。ミゴブロフトって爆薬とか造ってる製薬会社に、結界張るの依頼されたってな」



今朝、ショウリュウが気怠そうに眺めていた記事がそれである。まだ幼い姫は依頼に出向いた事が無く、今回が初めての出陣。


爆薬を取り扱う会社として、見えざる者に襲われて爆薬が漏れる事を心配したのだろう。


ジェイとトニーが閉じ込められたのは、まさにミゴブロフトの関連施設だったのだ。



「場所が分かれば後は簡単やったわ。あの部屋はポップミュー薬の保存場所やろ? カンスタの段階やからか、薬は撤去されとったけど、薬を冷やす為に管にポズスード液が流れとる。その管をちょいと壊してやな、空気に少し触れさせて──」



早口で飛び出す横文字の連続に、アイリを筆頭に周りが目を白黒させる。


だがそこまで説明されると状況が見えてきたのか、セロマはあっと顔色を変える。



「ま、まさか、あの施設を破壊したってのか!?」



「まぁ、せやな」



セロマは身を乗り出し興奮すると、鬼の首を取ったようにしたり顔を浮かべ、その顔を赤く染めた。



「はは、馬鹿だな! あんな重要な施設を壊すだなんて、団の責任が──」



「弁償はせなあかんやろな」



表情を変えずにあっさりと返され、セロマはグッと口を噤む。


そんなセロマに、今度はジェイがしたり顔で返す。



「せやけど、ミゴブロフトかてそない悪いようにはせんやろ」



「は?」



ツクヨミが結界を張っていたということは、あの施設に入ろうとすると、それなりの手順が必要な筈だ。


それこそ、外部の人間が簡単には入れないように。それだけ大事な物だからこそ、結界を張るのだから。



「つーまーり」



ジェイは、チラリとセロマの後ろに控える手下の者達を見やる。



「ミゴブロフトの中に、あんたの手下がおる!!」



図星だったのか、後ろにいた者達は揃ってビクリと反応した。あたふたとあからさまに動揺を見せる。



「そこ突っついたら、向こうもきちんと対応するんちゃうか? あんたんとこの人に、反逆者おんでってな」



団は仮にも、政府が設立した機関。その団員を攫って閉じ込めたとなると。


どんどん顔を白くしていく手下達に、セロマも流石に冷や汗を流す。



「俺の能力が分からんかったから、こういう手にしたんやろうけど、詰めが甘かったみたいやな」



「ク、クソ」



セロマは、すっかり余裕をなくしていた。



「こ、こうなれば奥の手を……」



「ん?」



「奥の手を使ってやる!!!」



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