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第160話 証明

【とある倉庫街】



ガガン!!!!



そのカメラは、目の前の光景を捉えていた。激しい音と共に、細身の体が弾かれ壁に叩きつけられた姿。


強い痛みに、ルノは顔を歪める。その体は、ずるずると壁にそって崩れ落ちた。衝撃のせいか、古い壁はパリパリと奇妙な音を鳴らす。


目の前には、長い髪を手で払いながら余裕綽々の表情で、粘りっこい笑みを浮かべるセロマがいた。


彼のその拳には、ルノの作り出す黒のダイヤ。あえなく握りつぶされ、拳の中でボロボロと脆く崩れていく。



「あれあれぇ、そんなもんなの、剣の団のエース様ってのは。それとももしかして、手を抜いているとか……ないよねぇ?」



セロマは挑発しながら、視線を向こう側の壁に向けた。先程までジェイの姿が映し出されていたスクリーン、その幕がかけられた壁。



「言ったでしょ、あの日の決着だって。手を抜いてもらっちゃ、ボクが困るんだから。真のエースだという証明にならない。もし手を抜くっていうなら……」



壁に近づくと、コンコンと壁を叩く。それが何を意味しているのかは、ルノにも分かった。



「お友達がどうなっても知らないよぉ? 勿論、教会の人達もね」



満面の笑顔で告げる。笑顔がまとわりついてくるようで、ルノは目を逸らす。悍ましさを振り払うように。


団員は、民に危害を加える事は禁じられている。いくらこのような男相手でも、民を相手に全力を出せるわけがない。



「制約を気にしてるなら、安心してよ。流石にさ、キミのお友達を誘拐したってことなら、許されるんじゃない?」



「どの口が……」



自然と口から、その言葉が漏れた。


セロマ自身が訴えなかったとしても、映像を流した時に世間がどう受け取るか。この男にとっては、そちらの方が目的だとしか思えない。


勝とうが負けようが、都合のいいように出来ている。


どちらに転んでも、ルノからエースの座を奪うつもりなのだ。力づくで。



「ハッハッハッ! いいからさっさとかかってきなよ、損得勘定抜きでさぁ!」



喜びに満ち溢れた高らかな笑い声が、倉庫に響き渡る。


それでも起きあがろうとしたルノだったが、思わず顔をしかめた。足を動かそうとした瞬間、鋭い痛みが走り、動きを止める。


どうやら、壁にぶつかった際に足をひねったらしい。だが、ルノは気にしないふりをして立ち上がる。



「お」



「……心配しなくても、手を抜くつもりはない」



少しよろめきながらも、左手に再びダイヤを生み出す。


黒曜の力。今度は、先程作ったものよりもう少し大きなダイヤだ。


セロマはそんなルノに、満足そうな笑みを浮かべた。



「行くよ」



ビシュビシュッ!!!



美しい光線が二本、ルノの手から素早く放たれた。



「甘い甘い!!」



余裕たっぷりの笑い声。彼に当たった筈の光線は、彼の身体に触れた瞬間、綺麗に真っ直ぐ跳ね返される。



「!!」



慌てて交わしたが、光線は跳ね返り床に綺麗な線を残す。



「はっはっ!!」



ドン!!



心臓を震えさすような振動が地面をつたい、ルノの手からダイヤが消えた。バラバラの細かな欠片となり、セロマの周りに輪っかを作る。


そして、そのまま形を失い虚しく消えていく。


光線が、全く効いていない。その光景に、ルノは一瞬息を呑んだ。



「この一年間、この日を待っていた。鍛錬を積み重ね、ひたすら自らの能力を磨いた」



消えていくダイヤの間を、セロマは堂々と歩き出しルノに迫る。



「でも、それだけじゃない」



再びダイヤを作り出そうとしたルノの左手を、セロマは片手でグッと掴む。そして、ニッと怪しく口角を上げた。



ガッ!!!



次の瞬間、顔への衝撃と共にぐにゃりと視界が歪む。身体がまた弾け、積み上がった木の箱にぶつかった。


口の中に奇妙な鉄のような足が滲む。それが血であると気づくまでは、一瞬だった。



「がはっ……」



腕が傷み、呼吸が不自然に荒れる。


ルノは、自分の身体が床に倒れ込んでいるのを確認した。セロマから拳を食らったらしい。


セロマはそんなルノに見せつけるかのように、服の袖を一気に捲り上げた。力強い上腕筋が露わになり、ギラギラしたオーラを放つ。



「身体も鍛えてきたんだよぉおお!! この一年間、ずっと己を磨いてきた!!」



袖を戻すと、薄寒い笑みをたたえたままルノの目の前にしゃがみこむ。



「懐かしいだろぉ? この光景、一年前と全く同じじゃあないか」



──そう、あの時もこうだった。



「ボクはずっと、キミを圧倒していたんだ。だから、合格を確信していたというのに」



あの時と一緒。


ルノがふと思い立ち左腕を動かしてみると、ピリリと痺れるような痛みが走る。



「……!!」



気付いたルノは、一気に目を鋭くさせた。左の瞳の色が赤い色に染まっていく。



「おまえ……!!」



「あはははははは!!!」



セロマは高らかに笑い出すと、突き飛ばすような勢いで、ルノの肩を手の平で突いた。



「だから言っただろう、一年前と全く同じだと!! キミはボクには勝てない、やはりこのボクが正しいエースなのだ!! あははははは!!!」



悦に浸るセロマを前に、ルノは顔を歪めながらも、視線を一瞬頭上に向けた。



ジッと見つめる。その目に映るのは、古びた天井の木目のみ。円が連なる、美しい模様。



そして、ルノはふらつきながらも、再び立ち上がった。




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