第15話 使命
「──オロロが甦った?」
「はい」
アイリの言葉に、皆は困惑し目を見合わせた。
──オロロ、すなわち血の王。
その化け物は、1000年も前にこの世に生を受けたという。
とある魔術師が行った、恐ろしい呪術。失敗して生み出されたのは、最悪の魔物。
この世のものとは思えぬ体躯を持ち、万物を揺るがすという力でこの世を破滅させようとした。
そして、見えざる者を生み出しこの世に放った、全ての元凶。
剣の団が存在する理由でもあり、彼等の能力の原点でもある。
「長老の占いで、血の王が復活したとおしるしが出たと。星が重なったのです」
「オロロが、甦った……」
カリンが一人、ボソッとそう呟いてみる。だが、いざそう言われても、なかなか実感が湧かないものだ。
なにせ、1000年前にいた存在。剣の団に身を置いてはいても、その姿を目にしたことは無いのだ。想像がつかず、実感が湧かない。
そもそも、オロロとは何だ。
そんな怪物が甦ったら、何が起こるのか。まさかまた、この世界を滅ぼそうというのか。
一度は滅ぼそうとした、この世界を。
「本当……なのかな」
戸惑う周りの反応にめげず、アイリは口を開く。
「団に入り、真実をまことに見極め、未来を変えなさいと。長老様はそう仰いました」
少しの間、沈黙が場を貫いた。
──これが、アイリがここにやって来た理由。アイリの使命。
「で、でもさ」
その空気に耐えられなくなったのか、突然レオナルドが身を乗りだす。
「オロロって、すっごくデッカイんしょ? そんなのが甦ったら、とっくに誰かに気付かれてるんじゃ──」
「いや、それは分からへんで」
ぶった切るように告げるジェイの言葉に、皆がジェイの方を見た。
「オロロは元々、どっかの洞窟に隠れ住んどったんやで? この世のものとは思えない大きな身体っちゅうんは、あくまで昔の人がそう言うてただけや。洞窟がどんな大きさか知らんけど」
仮に、オロロが洞窟の中に収まる大きさだったとするなら。
「まだ、気付かれてへんだけの可能性はあるで」
それに、オロロが以前と同じ姿で復活したとは限らない。以前と同じように、この世のものとは思えない体躯とは限らない。
そう考えると、あり得ない話ではない。
「そう言われると確かに、最近見えざる者の活動が、活発的になっているような気もするさね」
「そんな」
マルガレータもジェイに同意し、その場がなんとも言えない空気になる。
「……まさか、オロロと戦うとか?」
とんでもない時に団に入ってしまった。ナエカはオロロの姿を想像し、身震いする。
1000年も前に、暴れていた怪物。一体、どうやって倒せば……。
強大な力を持つ、太陽の始祖様が六人がかりで、やっと倒したような存在なのに。
オロロから奪い取った力で、皆で力を合わせて。
そう、エイドリアンの力は全てオロロの物だったのだ。もしかすると、オロロは自分達の力を全て行使出来るかもしれない。
──そんな化け物を、どうやって……?
皆がそれぞれ動揺を見せている中で、唯一ルノだけは表情を変えず、ジッとアイリを見つめていた。
「まぁまぁ、そういうことだから」
この話を知っていたのは、アイリを除けばハーショウだけだ。皆を落ち着かせようとしたのだろう。ハーショウは宥めるように、皆に笑顔を振りまく。
「異能機関としても、この話を聞いて色々動いてるから。この件が本当かは分からないけど、全力でサポートすらから安心してくれ」
「え〜。期待しないでおこうっと」
「ええ!? ヒドイよカリン君!!」
分かりやすくショックを受けた顔をするハーショウに、周りも少しほぐれたような笑みを浮かべた。
だが笑顔を浮かべながらも、一同はどこか不安を隠せない様子だった。