第158話 忠告
【とある部屋】
ガンガンガン!!!
今だにコッコッという奇妙な音が響く、密室の中。ジェイはひたすら壁を押したり叩いたり、蹴り飛ばす。
そんなジェイを、トニーはキョトンとしながら見ていた。
「何してるの、ジェイジー」
「さっき、セロマの声聞こえとったやろ? ここって、他にも何かあるんちゃうんかと思ってな」
壁を探りながらも、時々立ち止まっては能力が使えないか試す。だがいくらそうしても、いつも頭の中に見える映像は見えてこない。
どうやったのか、能力が封じられているようだ。
「こっちはないな〜」
トニーがいる手前、なるべく明るい声を出そうと声を張り上げる。壁に触れる手は、僅かに震えて落ち着かないままだが。
──セロマ、あいつ一体何する気や。
ルノに何するつもりや。
彼等の狙いは自分だったのに、トニーを巻き込んでしまった。何としても、ここから脱出しなくては。
カシャン!!
後ろで何か物が落ちる音がして、振り返る。真っ赤な、血の色の石。
「あ」
トニーが慌てて駆け寄り拾い上げ、ジェイに手渡す。幸い、特にヒビは入っていないようだ。
「ごめん、わすれてた。さっきジェイジーが落としたの、ボクがひろったんだ。これ、ジェイジーのでしょ?」
「……」
ジェイは怪訝な表情で受け取る。そんなジェイに、トニーは困惑した。
「どうしたの?」
「……俺のでええんかねぇ」
いつの間にか、どこからか手に入れてしまった石。何故手に入れたかも、分からない石。トニーも、興味津々で見つめる。
「それ、なんだかコワイよ。強い力を感じるんだ、すっごい武器とかなの?」
「強い力、やて?」
「え、そうじゃないの?」
ポカン、となるトニー。ジェイは石をギュッと握ると、再び壁の向こう側に向かって意識を集中させた。
本当なんやったら、その力を。
石が一瞬ではあるがキラッと強く光り、トニーはあっと声をあげる。
「すごい、その石光るんだ」
その結果。
「あかんわ」
「え」
やはり、ビジョンが見えてはこない。石に力を感じると言うから、試してみたのだが。
──この石、ホンマに何なんや? 怪しいもんや。
内心で悪態をつきながら、ジェイは再び部屋の中を探っていく。
見回す限り、この部屋には風の通り道が無い。このままでは、いずれ酸素が無くなってしまう。気持ちははやる一方だ。
ひたすら壁に手を触れ、手がかりを探る。
「ん?」
触れた手に違和感を感じ、パッと手を離した。ゴツゴツした感触の中に、別の硬い何かがそこにある。
近付いてよく見ると、そこに小さなカメラが埋め込まれていた。
「お、ここにもカメラあるやんけ」
『よく気付いたね、キミー!!』
「わっ!!」
カメラが僅かに左右に動き、それと共にセロマの声が聴こえてくる。得意げになっているのか、妙にハイテンションな声だ。
『でも、ムダムダ! そこからは出られないさぁ』
「俺は知らんけど、この子は関係あらへんやんなぁ?」
『ごめんねー、別に殺しはしない。ただちょっとそこで、大人しくしてくれればいいんだよ』
ジェイはため息をつきながら、チラッと部屋を見渡す。
「あのバルーン、バルーンから別のバルーンに移動させるんやな。見えざる者やろ?」
『お、そうだよ』
セロマはそう言いながら、ケタケタと笑い声を上げる。からかわれているのを感じ、ジェイは思わず舌打ちした。
「何で見えざる者と手組んだんや、エイドリアンやろ?」
『便利じゃん。向こうにもメリットあるかと思って、声かけてみたら乗ってきたってわけ。彼等、結構ノリノリだったよ? ハハハ』
軽く答えるセロマに、ジェイはギッとカメラを睨みつける。
「そないなこと……」
『ん? まさか、あの化け物と手を組んだのが、本当にボクだけと思ってるのかな?』
その言葉に、ジェイもトニーも顔を上げた。
「何やて?」
セロマは再び大きな声で、ケタケタと笑い出す。
『キミ達さぁ、誰のせいで今そこにいると思っているのかな?』
「え」
脅えるトニーに、ジェイは庇うように前に出た。
「何の話や?」
『わっかりやすいよね。ちょっと弱いところを突くと、すぐに裏切りってさぁ、見捨てて寝返る。同情を買えば、こちらの話をすぐ鵜呑みにする。情ってホント厄介だよねぇ!』
「な、なに言ってるの……?」
動揺するトニーを背に、ジェイは僅かに目を伏せた。
バルーンに飲み込まれる直前に放たれた、ムアチェレのあの言葉。
「タヤローパって、何ですかいよ? うまいこと言ったもんですや、ハッハッハッ!!」
──そうか、やっぱりララさんは。
ジェイはグッと拳に力を入れると、カメラを見据えた。
「そっちの演説なんぞに、付き合ってられんわ」
『あん?』
少々苛立ちを隠せない声が聴こえてくると、ジェイはカメラ──いや、セロマに向かって冷たい目を向けた。
「こっから出す気あるんか?」
『……言う気が失せたよ、言うもんかぁ』
「さよか」
ジェイはカメラに向かい、一歩踏み出す。全身に、怒りがみなぎるのが分かる。
「一つ、忠告したるわ」
『お?』
「背負うもん持ってる奴、あんまり舐めとったら痛い目見るで」
カメラの向こうのセロマは、虚を疲れたようだった。僅かな沈黙が走る。
だがすぐに、ケタケタと大きな笑い声を上げた。
そして、カメラはピタッと動きを止めてしまった。