第156話 出口
【とある部屋】
コッコッコッ。
「ん……」
どこからか聞こえてくる音に、ジェイは僅かに目を開けた。ゴツゴツした床の、硬く冷たい感触が伝わってくる。
辺りに気がつき身体を起こすと、そこは煉瓦造りの壁に囲まれた部屋だった。
煉瓦に囲まれているというだけで、他には何も変哲もない部屋。出口らしき扉や窓すらも無く、パッと見た限り特別に目を引くものも無い。
オレンジ色のランプのような照明が、チカチカと辺りを仄かに照らしてくれている。
「……なんやここは?」
全く見覚えの無い部屋。何故今、こんな所にいるのか。そもそもどうやってここに来たのか。
はっきりしない記憶を、頭の中で一つ一つ辿っていく。
確か、タヤローパ──ってとこにおって、バルーンに飲み込まれてそこから。
「あ……」
徐々に頭が働きだす。まさか、バルーンでここまで連れてこられたのか。あの男に。
まんまとムアチェレの策略にはまり、捕まってしまった。こんな、何も無い部屋に。
あれから、どのくらいの時間が経ったのだろう。
その時、ふと思いだす。
「せや、トニー!」
警戒しながら周りを見渡すと、少し離れた所にトニーが倒れていた。
慌ててトニーに近寄り、意識の無い身体を揺り起こす。ようやく、その動かない目がそろそろと開いた。
「トニー、しっかりせぇ!!」
「……ジェイジー」
ゆっくりと瞼が開かれ、ジェイは安堵する。
幸い、怪我などはなさそうだ。焦点の定まらない目が、何かを確かめるように泳ぐ。
「ここどこ……ボクたちどこにいるの、なんだかさむいよ」
トニーは困惑しながらも、自ら起き上がった。見えなくても、どこか別の場所にいるのは分かるらしい。
ひんやりとした冷気が、容赦なく肌を刺す。部屋に人工的に作られた、肌寒い空気。
「どうやら、どこかに閉じ込められたみたいやな。出口があらへん」
「え!?」
コッコッコッ。
また音が聴こえてくる、ガラス玉がぶつかり合うような音。一体、何の音なのだ。どこから聞こえてくる。
拘束をされていないのが無気味だが、恐らくは脱出することなど出来ない、という意味だろう。
部屋を歩き回ってみるが、やはり出口が無い。
「なんで、なんでボクたちとじこめられなきゃいけないの、出られるの?」
訳もわからず混乱している様子のトニーに、ジェイはニッと笑いかけた。
「まぁ、落ち着けや。こういう時の為の、俺の能力やで?」
「ジェイジーのチカラ? どんなの、どんなの?」
トニーは目を輝かせ、身を乗り出す。これは、期待に応えなければならない。
こういう時の為の能力だ。剣の団の副団長を、舐めてもらっては困る。
「そう焦らんと」
そこまで言いかけたジェイは、ふとピタリと立ち止まった。
──何故、気づかなかったのだろう。
ジェイはようやく自身に起きている異常に気付き、石のように顔を固く強張らせた。
伸ばした手の指先が、不自然に震える。
「……能力が使えへん!!」
普段なら見えてくる周りのビジョンが、さっぱり浮かんでこない。
レーダーが、能力が反応しない。
これでは、外の様子がさっぱり探れない。トニーがそれを聞き、ギョッとしたのと同時に、どこからか高笑いが聞こえてきた。
『はははははは!!!』
「うわっ、誰!?」
明らかに、先程のムアチェレの声ではない。
『ようやく起きたんだねぇ、楽しそうじゃないか』
ジェイは、声が聴こえてきた天井の方向に目を向ける。そこには、よく見なければ分からないカメラがあった。
はっきりした、人としての発音。
ジェイはジッと刺すような視線で、カメラを射抜くように見据えた。
「……セロマやろ?」
『はじめましてぇ、いや、お久しぶりかな? 流石はジェイジーくん、話が早いねぇ!』
「ルノに何するつもりや?」
ジェイの返しに、機会越しのセロマの高らかな笑い声が部屋に響く。
『さぁ、祭りの始まりだぁ!!!』
age 11 is over. To be age 12……
次回予告!
「罠なんです」
「情ってホント厄介だよねぇ!」
「ち、力が……制御、出来ない……!」
「ボクだいじょうぶだよ、ララ」
「背負うもん持ってる奴、あんまり舐めとったら痛い目見るで」
次回、age 12!
拝啓悪夢まで 後編!
「俺は、こんなところで死ねない!!」
お楽しみに!