表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/327

第152話 依頼人

──教会の人達はもういない。目の前の見えざる者は、確かにそう告げた。



珍妙な言葉を話す見えざる者だった。


濃い色の皮膚が全てよぼよぼでだらりと垂れ下がり、しわくちゃだらけ。かろうじて人に似た見た目をしているが、千歳の人間だと言われても信じてしまいそうだ。


バルーンから垂らした糸を力強く掴みながら、こちらを冷たい目で見おろす。



「誰や?」



警戒しながら尋ねるジェイの隣で、ヨースラはスッと小刀を構える。


視界に入ってきた刀に、ララは慌ててトニーを後ろに退がらせた。トニーの目には、刀は見えないけれども。



「誰やねん」



「ケヘッ! ムアチェレ、といいますや」



「ララさん、あの人見えへんやんな?」



ジェイの問いかけに、ララは首を縦に振った。



「は、はい。見えません」



不思議な事に、上空を覆うバルーンは目に入っている。だがしわくちゃのその姿は見えず、ただ声が上から降ってくるだけだ。



「見えざる者、確定ですね」



見えざる者、という言葉にララはビクッと肩を震わせる。


人の目には映らない化け物、ここからは二人の仕事だ。



「教会の人がもうおらんって、どういうことや?」



「ケヘヘッ! みなしゃんがここに来るのは、とっくに知ってたですかいよ。最初から奴らは、ここには来ないですかいや」



「最初から来ない……?」



──では、そのバルーンの中にも誰もいないのか。攫われた教会の人達も。


ニンマリと笑みをこぼす見えざる者を、ジェイはキッと目を鋭くして見据える。



「何が狙いや、何の為に教会の人らを連れ去ったんや!?」



「ネライ? うーん、あっしゃに聞かれても」



軽くとぼけてみせる。どうやら、彼に聞いても埒があかないようだ。



「トニー!」



「!!」



恐怖で固まっていたトニーは、ジェイのこちらを呼ぶ声にハッと顔を上げた。



「会ったら分かる、言うとったな。どないや、コイツが教会の人ら攫った奴なんか?」



そう問われ、トニーは声のした方向に見えない目を向ける。ゆっくりと揺れる、色の無い瞳。



「……ちがう」



トニーは震えながらも、ハッキリと口にした。


その答えにジェイもヨースラも、そしてララも目を丸くする。



「違うんですか?」



「ちがうよ、この人じゃないよ」



と、いうことは。



「仲間がおるんやな。そいつが、教会の人らをまた別の場所に連れて行った」



「ナカマって……ああ、イライニンのことですかいや。イライニンなら、今は向こうで楽しんでるかもですかい」



「依頼人?」



仲間、ではなく依頼人。依頼人、という呼び方が引っかかる。まさか。



「依頼人って、そいつの頼みで教会の人らを連れてったんか?」



「……え、イライニンって、そういう意味なんですかい?」



ポカン、と目を開ける見えざる者。その顔が、ジェイの指摘を肯定していた。


悟られたと知り、見えざる者は僅かに顔を歪める。



「イライニンと、イライニンが自分でそう呼んでましたかいよ。イライニンに、たくっさん言われたんですや」



頼み事をされた、驚くほど多くの頼み事。彼は話を聞いて、面白そうだとイライニンに協力することにした。


トニーはこう言った。教会の人達を攫った犯人は、人間だと。



「その依頼人は、人間なんやな?」



「ケヘッ」



もう隠すつもりはないらしく、軽く頷く。



「でも、見えない相手に依頼なんて」



「俺らがおるやんけ。つまり、エイドリアンなんやそいつも」



ヨースラは、ジェイのその言葉に絶句した。


──エイドリアンが、一体何故。見えざる者に、街の人がどれほど苦しんできたか。


それなのに、化け物と手を組んだのか。



「ほな、教えてもらおか。そのイライニンの名前は?」



「……へ?」



射抜くような視線を受けながらも、動じていないようだ。ムアチェレは笑みを浮かべ、わざとらしく思い悩む素振りをする。


そんなムアチェレに、ジェイもギラついた笑みを返す。



「そない悩まんでええやんけ。お前さん達のことや、イライニンなんてどうでもええんやろ? おもろかったら」



あくまでも軽い口調だが、有無を言わせぬ威圧感にララは震えた。


顔が見えなくても、感情は伝わる。トニーも、冷え冷えしたジェイの雰囲気に体をすくめた。ゴクリと唾を飲み込む。



「……あっしゃは知らないですや」



「お?」



次の瞬間。


ムアチェレは上空のバルーンから、ピョンと大きくジャンプした。飴だらけの足で、動けないジェイの元へ。



予想外の行動に、ジェイは思わずのけぞる。



ムアチェレはジェイの目の前に着地すると、醜いその顔をググッと近づけた。



「イライニン、セロマっていうみたいですや。知らないですかい?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ