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第147話 硝子

【オリレア通り】



パレスの裏を抜け、左に少し曲がった先にある通り。


そこに、その店はあった。



「ここ?」



「うん」



ナエカが笑顔で頷く。


その店は以前訪れたラメルティに比べ、随分とこじんまりとしたお店だった。


ピカピカのガラスの窓に、綺麗なクリーム色の外見は、いかにも新築であるかのような佇まいだ。ガラスだけではなく、壁もピカピカと光り、雰囲気が透き通っていた。


店の看板には、『エコンテ』と店の名前が掲げられている。



「おー、洒落てるじゃん」



「可愛いお店……」



「エコンテって、名前無しって意味じゃなかったかな。変わった名前だね」



「へぇ〜」



アイリが先頭を切って、少し重い扉を恐る恐る開ける。


カランカランと、心地いいベルの鳴る音がした。



「いらっしゃい」



一人だけポツンといた若い店員が、アイリ達に気付き、驚いて目を見開く。


店員は白いブラウスを着こなし、清潔感のある雰囲気だ。大人っぽいキャラメル色のエプロンには、鳥の刺繍。



「あれ」



「こんにちは」



ナエカが微笑むと、店員が嬉しそうにこちらにやって来る。持て余す程の長い足。


いかにも派手な、銀色の髪が眩しい。最近の流行りだろうか。



「本当に来てくれたんだ。いらっしゃい、団の皆さん」



「本当に?」



アイリ、シキ、レオナルドはきょとんと首を捻った。


唯一驚いていなかったのはナエカで、店員の言葉に顔を綻ばせる。



「ナエカ、この人と知り合いなのかぁ?」



「覚えてる? 広場に見えざる者が出た時に、助けた赤ん坊」



「ああ、あの」



「影を使う、見えざる者!」



忘れもしない、顎をあんぐり開けた見えざる者。


シキの手で無事に助かった、毛布に包まれた赤ん坊の話だ。母親である女性は、何度も何度も感謝を述べていた。



「あの赤ちゃんのお母さんが、このお店の店長さんと長い付き合いなんだって」



彼女から、団員に助けてもらったという話を聞いたオーナーが、是非サービスするとパレスに連絡をくれたのだ。



「そうなんだ、この僕のおかげかな」



「そうなんですよ! まさか、本当に来てくれるとは光栄だなぁ」



「じゃあ、お兄さんが店長さんなんっすか?」



レオナルドの言葉に、店員はアハハ、と爽やかに笑う。



「違う違う、僕はただの店員ですよ。店長は店長なのに、なかなか顔出さないから。皆さんの話は聞いてましたけどね」



どうぞ、と店員に促され、アイリ達は店の中に入っていった。


新築らしい店の内装は、素朴ながらも美しい。アイリ達は興味津々で、店の中を見て回る。


テーブルや椅子は全て、明るい色の木で作られていた。木目の模様が美しく、木の爽やかな香りが包む。


所々に木のコースターや木の細工の小鳥やリスなど、小物が飾られている。よく見ると食器まで、木の細工だ。スプーンやフォークまで。


かと思えば、奥に陣取られた棚にはガラス細工がズラッと飾られていた。小瓶、ビードロ、髪飾り、マドラー。


よく見ると、小さく値段が書かれたタグが付けられている。売り物のようだ。



「ほえぇ……」



アイリは目を引かれ、一目散に棚に近づいた。アイリには何に使うか分からない物もあり、全てが興味の対象だ。


陽射しの光が当たり、光がキラキラとガラスで反射する。



「うわぁ、綺麗。これ、お兄さんが作ったんですか?」



「いや、これは店長の作品なんだ。趣味みたいで、せっかくだから置いてるんだけどね」



その結果、喫茶店だがガラス細工も売るという、奇妙な店が出来上がった。


趣味、というには手が込んでいる。


その店長は店をこの店員に任せ、しょっちゅうどこかに行ってしまうらしい。きっと、ガラスに夢中なのだろう。



「へぇ、じゃあお兄さん一人なんすか?」



「そうなんだよ。あ、この席どうぞ」



中央のテーブルに通され、腰掛けた一同に向かって店員はにっこり微笑みかけた。



「いやぁ、改めてありがとうございました。セリリアさんは僕も何度か会ってて、サーニャちゃんとも遊んだんですよ」



襲われたと聞いて肝を潰した、と笑顔で語る。



「しかも助けてくれたのが、入ったばかりの51期生だって」



「間一髪だったよ」



微笑み返すシキに、店員はホントに、と答えると笑顔でメニューの書かれた看板を示す。



「皆さんのおかげですから。さぁ、どれにしますか?」



「「「ザンデリ!!!」」」



異口同音に口を揃える一同に、店員は思わず吹き出す。


アイリに至っては、ピーンと手までしっかり挙げて答えた。



「ハハハ、ザンデリですね。飲み物サービスしますよ、何にします?」



その言葉に、一同の顔がパァッと明るくなる。



「私、レモネード!」



「オレ、ロマンサイダー!」



「私は……ホットチョコレート」



「じゃあボクは、キャラメルマキアートにしようかな。ホットで」



「そんなのねぇっつの! どこにも無いじゃん」



「ホワイトラテならありますよ」



「マジか」



「じゃあ、それで」



店員は笑顔でかしこまりました、と頷いたのだった。



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