第142話 調和
【パレス 大広間】
「お疲れ様」
出迎えたエリーナに、アイリ達は揃ってやりきった笑みを返した。ショウリュウを除いて。
「厄介な能力の持ち主だったみたいね」
「まぁな」
ショウリュウがぶっきらぼうに答える。
影から影に体を沈めて移動し、火の玉を連発する。どうやら、小さい子供を狙っていたようだ。
「はぁ〜、そりゃえらい攻撃的な奴やな」
「カリンは嫌い〜。ウフッ」
「朝の時は、どうなるかと思ったけれど」
それでも、シキがいない中で四人で始末した。厄介な能力の見えざる者を、後輩だけで。
「影から影に、ですか。どうやって倒したんですか?」
「そう!!」
ヨースラの疑問に、レオナルドが待ってましたと言わんばかりに前のめりに飛びだす。
幼い子供がたからものを見せつけるように、キラッと目を輝かせた。
「そうなんす! あの見えざる者が影に沈もうとした、その時に!!」
「お?」
「ナエカが一気に走る!」
「おー!」
そのまま、レオナルドによるパワフルな再現劇の幕が上がった。観客席には先輩達。
「おまじない、おまじない! 全ての影に向かい、ここぞとおまじないを放つ!」
「おー!」
「しかし、ものともしない見えざる者!」
「おぉ」
「かと思いきや!!」
「おおー!」
「可愛い〜! ウフッ」
熱く熱く、全身を使って再現するレオナルド。
「ヒイィ」
ナエカは、あまりの恥ずかしさに耳まで真っ赤に染め、ソファーの後ろにパッと逃げ込む。
いつも通りソファーの後ろにいた花飾りの少女は、突然飛び込んできたナエカに、ギョッとしてこちらも隠れてしまう。
ソファーの後ろで、ナエカはすっかり頭を抱えうずくまった。
「なんでレオが言うのぉ……」
「あはは」
こちらまで恥ずかしくなってくる。苦笑いを浮かべるアイリの横で、ショウリュウも呆れたように、深くため息をついた。
これから、今日の出来事の繰り返しが始まるのだ。それでも、今日は仕事をやり遂げた。
「制服、慣れてきたんちゃう?」
ジェイにそう聞かれて、一同は目を見合わせた。お互いの制服姿を、ジッと見つめ合う。
ラインの襟、色は違うが美しく光った。
「あ、そうだ」
「なんだよ」
アイリは一人、壁にもたれていたルノの元に近づく。
「制服で思い出したけど、ルノさんに聞きたいことがあったんです!」
「……何?」
アイリはスッと、自分の制服の襟のラインの色を、指で指し示す。
マゴの木の花と同じ、黄色。
「ルノさんの色って、どの色なんですか?」
「ア、アイリちゃん、それはちょっと」
ナエカが目を見張り、アイリを止めようとする。ギョッとしたのは、ナエカだけではなかった。
皆がギクッと顔を引きつらせ、アイリの方を向く。やはり、ショウリュウを除いて。
「そ、それは言うたらあかんやつや」
「何が」
ショウリュウはジェイのその言葉に首を捻り、ルノに近付く。近くでルノの服を見てみても、特別な色は特に浮き上がっていない。
「そういえば、ラインの色変わってないな。あんたの色無いのか?」
「……」
ルノは戸惑いながらも、アイリと同じように襟のラインを指し示した。
「この色」
「え?」
「変えてる」
マジマジと見つめる。
目を凝らしてよくよく見ると、確かに周りの紺色の生地に比べ、襟のラインが微妙に濃い色になっていた。
紺色より少しだけ、色が深い青。
「ミッドナイトブルー」
「ミッドナイトブルーって……」
ポカンとするアイリに、ショウリュウがここぞと叫ぶ。
「制服の色とあんま変わんねーじゃねーか!!」
「えぇ!?」
アイリは顎をがくーんと開け、呆然とした。
案の定、という反応。ショウリュウの叫びに、他の先輩達は大きく脱力する。
「言われてもうたか」
「早かったですね……」
ルノの色が無いのではない。生地の色に紛れて、埋もれただけだったのだ。溶け込む色だから。
──よりにもよって何故、そんな色にしてしまったのか。
エリーナだけは、吹き出しそうになるのを堪えていた。
「国のみんなにも言われたのよ、センス悪いって」
「ええ!?」
それ以来、さりげなくだがルノの色の話は禁句になっていたようだ。だが、ルノ本人は気に入っているのか、あまり気にしていないよう。
「この色がよかった、それだけ」
「へぇ…」
何食わぬ顔で返すルノに、アイリは目をパチクリさせた。
ルノは制服を着た後輩達を、チラッと見渡す。それぞれ、与えられた自分だけの色。
「似合う」
「……!!」
ルノの言葉に、アイリは思わずナエカと目を見合わせた。
一気に頬が緩む。
「きゃはは!!」
「やったあああ!!」
大はしゃぎするアイリのナエカに、レオナルドも周りの先輩達も、笑みを浮かべたのだった。
不穏な影は、もうそこまで来ていたとも知らずに。
age 10 is over.
次回予告!
「世間に証明するのさ」
「ルノさんが、休みの日に?」
「どうかお助けを、助けてください!!」
「見えてないけど、分かっちゃうんだ。ボクは」
「何で今更、その名前が出てくる」
次回、age 11!
拝啓悪夢まで、前編!!
「あの結末が正しい結果だなんて、そうは思ってないだろ?」
お楽しみに!