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第12話 主人

【二階 オーナーの部屋】



「新しい子達、よく来たさね。私がパレスのオーナー、マルガレータだよ」



二階のサロンの、ちょうど反対側にあった広い部屋。


通された一同を出迎えたのは、齢60は越えるだろう高齢の大柄の女性だった。このパレスの持ち主だそうだ。


分厚いオリーブ色の上着を羽織り、背を超える大きな椅子にゆったりと腰掛けている。


口調は穏やかでも、どこかこちらを観察しているかのようで、鋭さと貫禄があった。



「よろしくっす」



「アイリです、よろしくお願いします」



「よろしくお願いします……」



アイリ、ナエカ、レオナルドは圧倒されながらも、おずおずとマルガレータにお辞儀をした。


アイリにはオーナーというのはよく分からないが、偉い人なのは間違いないだろうと察して、顔を引き締める。


長老様と、どちらが偉いのかな。


マジマジとオーナーを見つめる。マルガレータは、そんな彼等に満足気な笑顔を浮かべた。


そして椅子を重たそうに動かして振り向くと、傍らで控えていた一人の少女を指し示す。



「この子はドナだよ。私の補佐をしてくれている子さね、あんた達もこれから色々と世話になるだろうよ」



無表情に控える少女。


その顔は幼く、アイリ達よりもずっと幼く見えた。雰囲気は涼やかで感情を感じさせず、その瞳は動かない。


アイリ達に向かって、丁寧にうやうやしくお辞儀をした。綺麗に切り揃えられたオリーブ色のボブヘアーが、すっと下がりサラサラと揺れる。



「よろしくお願いします」



黒と白のチェック柄の、シンプルな可愛らしいメイド服。白いレースのカチューシャも可愛らしい。


そのような格好をしながら話す声の冷たさに、ナエカはひっそりと身震いした。



「ドナちゃんはな、オーナーの補佐もそうやけど、細かい事務作業なんかもしてくれとるんやで」



「へぇ、すっげぇ」



ジェイの言葉に、レオナルドが感嘆の声を漏らす。アイリもドナに感心していた。


ホサもサギョウもよく分からないけど、きっと仕事のことだろう。私達よりぐっと年下に見えるけど、もう仕事をしているなんて凄いなぁ。


──この子が仕事をしている間、アイリは何をしていただろう。いや、何もしてない。里に籠もっていただけだったような、そんな気がするが。


仲良くなれるかな。



「まぁ、これからよろしく頼むよ」



「ところでオーナー、エリーナさんはいつ戻ってくるんですかぁ? せっかくみんな来てるのに」



「ぱぁっく!」



突然耳に突き刺さったひっくり返るような擬音に、皆がビクッと反応し飛び上がった。


何だ今のは。


全員の唖然とした視線が、音を出した主にジッと向けられる。



「……?」



「……?」



──ナエカだ。


聞いたこともない擬音。確かにナエカから発せられたようだが、どういう反応だったのだ。


皆の視線を浴びたナエカは、恥ずかしさのあまり、耳まで顔を赤くする。もごもごとすみません、と告げると、話の先を促す。



「まぁ、ええか」



「それで、エリーナさんは?」



カリンが改めて無邪気に問いかける。その問いかけに、マルガレータは困ったような表情になった。



「それがねぇ、もう少し時間がかかりそうだとさっき連絡があったのさね。先にみんなをもてなしておいて、と言っていたよ」



「なぁんだ、ざんねん」



「……」



まただ、ナエカが僅かに頬をパッと赤くした。


今度は擬音は出ないようだが、どこか落ち着かない様子でソワソワしている。アイリは、そんなナエカを気にかけていた。


──どうしたんだろう、緊張しているだけかな。


マルガレータはナエカの事を不審がりながらも、ハーショウの方をチラッと見やる。



「それにしても、ハーショウ。お前さんは相変わらず、変わりないねぇ」



「……おかげさまで。これだけ揃えてきましたから、少しは褒めてくれたっていいんじゃないかなぁ。そうでしょう?」



一瞬だった。


今までアイリ達に向けてきた穏やかな一面とは違い、皮肉を含んだとんがった表情に変わる。


少しゾクッとして、アイリは思わず顔を強張らせてしまう。


マルガレータは、そんなハーショウの態度に特に気にした様子もなく、手元にあった書類をじっくり読み始めた。



「ふん。──確かに、この子達はなかなかの逸材みたいだね。マジェラのシュヴァン家の子に、ジャグボールの選手ねぇ」



誰の事を話しているのかが分かるので、ナエカもレオナルドも恥ずかしそうに目を逸らす。



「で、次が」



マルガレータの紙をめくる手が、ピタッと止まった。


そこに書かれた文字には。



「ほぉ……」



マルガレータの鋭い瞳が、はっきりとアイリを見据えた。



驚きと猜疑心が固まった老人の瞳に、アイリが映し出される。



「──これは驚いたねぇ。アイリ・ジェイド・クレエール、クレエールの本家の子かい」




「え!!!!」



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