表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/327

第124話 一発

【ラサ通り】


【酒屋 ルナ・モンド】



ヒュオオオオ……!



今にも暴れだしそうな風が、店の中を不自然に渦巻く。


その中で、レオナルドとショウリュウは向き合う。


いや、ショウリュウではない。これはニセモノだ。


紺色の見慣れた制服を着た青年と、風を操る怪しい青年の対峙。周りは固唾を飲んで見守る。


なんとかしてくれ、とその目が告げていた。



「まさか、ショウリュウと戦うとは思わなかったじゃん」



「……」



話しかけても、ショウリュウは答えようとしない。こちらのニセモノは随分と冷たいようだ。



「おい、剣の団だぞ。新しい奴だ」



「じゃあ、さっきのあいつ見えざる者……なのか?」



「まさか、はっきり見えてるぞ」



「じゃなきゃ、剣の団がこんなとこ来るかよ」



「たのむうぅ」



この期待には応えなければ。



「……」



本物の彼ならば絶対に見せない、ただのガラス玉のような瞳。


読めない瞳のまま、札を構える。ニセモノなのに何故、札を持っているのか。



「なんで能力使えちゃうんだよ!」



──いいじゃん、来いよ。



レオナルドはバンバン、とグローブを叩く。一発、気合い入れだ。


そしてニセモノがついに、札をヒラッと前に放つ。



ビュオオオオオオ!!



「うわっ!!」



強く吹く風に、目を開けていられない。叩きつけてくるような風圧に圧倒される。



ビュオ!!



風が一瞬やんだと思った瞬間、まだ開けきらないまぶたの隙をぬって、物理的な風の刃が襲い掛かってきた。


バルナだ!


とっさにそう判断し、レオナルドはグローブを小さく振りかぶる。術はいらない。



「うおおおりゃああああ!!」



一発、二発、三発、四発。


目にも止まらぬ速さで、パンチを繰りだす。正確に、標的を見据えて。


もっと、もっとだ!



「うおおおおお!!」



バチイン!!



風が弾け、千切れるようにその威力を失う。



「!!」



パンチが生み出す風圧だけで、バルナを打ち破ってしまったのだ。


それまでの無機質な瞳が色を変え、ニセモノが初めてぐにゃりと苦い顔を浮かべる。まさか、打ち破られるとは思わなかったらしい。


焦った様子で、もう一度札を取り出しバルナを放つ。



シュバッ!!



先程と同じ、風。


レオナルドは、思わず笑みをこぼす。何の面白味もない、先程と同じ術。


──なるほどなぁ。さてはこのニセモノ、バルナジンは知らないな?


所詮、ニセモノはニセモノ。



「ほっ!!」



軽く掛け声をあげ、後ろ向きにジャンプ。片手だけポンと地面に手のひらをつき、華麗に一回転しバルナを交わす。


軽い身のこなしに、見ていた観客からも感嘆の声がもれた。まるで映画ではないか。


焦りが見えるニセモノは、次々と重ねてバルナを繰りだすが、レオナルドには当たらない。


周りの柱に、バルナが虚しく傷を刻む。



ドゴッ!!



とっさに樽を思い切り蹴って、ニセモノに向かってぶつける。ニセモノは痛いのか、怯んだ様子で足をさすった。



「……!!」



シュバッ!!



逃げ場を無くし、横から取り囲むように襲ってくる風の刃。


レオナルドは店の椅子を踏み台にして横にジャンプし、壁を蹴って交わす。並んでいた戸棚のビール瓶が、衝撃でガラガラと崩れていく。


ニセモノはもう一度術を放とうとしたようだが、ポケットを探るその動きが止まった。何度も何度も、ポケットの中をまさぐる。



「……!!」



もう札が無いのだ。



「わりぃな」



そのままもう一度一気に壁を蹴り、大きく横回転。



「うぉりゃあああ!!」



回転蹴り。振り上げた足が、メリッとニセモノの頭に食い込む。



全力の一発。そのままテーブルにぶつかりながら、レオナルドは体ごと──ニセモノごと、床に雪崩れ込んだ。



周りからも、ハッとする声が上がる。



「イテテ」



パリパリパリパリ。


嫌な音と共にヒビ、余りにも大きなヒビがニセモノの顔にはっきりと入る。


ガラス玉が割れていく。



パリーン!!



派手な音と共に、ショウリュウのニセモノは消滅した。


これでニセモノは、あと二人。



「よっしゃあ」



ホッとするレオナルドに、観客達は拍手を贈る。



「おおお!!」



「やるな兄ちゃん!!」



「助かったぜ!!」



レオナルドを取り囲む、酒でまだ顔が赤い大人達。



「いやぁ〜それほどでも〜!」



照れながらアッハッハと笑うレオナルドに、近付く若い男性の姿があった。


笑顔のレオナルドに、サッとマイクを向ける。



「見てましたよ、剣の団の51期生さんですよね!?」



「……あり?」



狭い店に集まる周囲の視線が、レオナルドに向けられる。



「お名前は?」



興味津々を絵に描いたような瞳を見渡し、レオナルドは笑顔で返す。



「レオナルドっす、レオナルド・ローシ! レオって呼んで……なんつって」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ