表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/327

第119話 上

【テイクンシティー 中央通り】



ヒュオオオオ……。



高いアパートメントの上。


建物の上を強い風が吹く中、その体はピクリとも風にあおられない。ずっと長き間そこにあるかのように、それは屋上に鎮座していた。


あちこちを水晶のように冷たく突き出した、ガラスの集合体。


遠くから見ると趣味の悪い誰かが造った、作品まがいにしか見えないだろう。路地の壁に身勝手に描かれた、芸術という名前の絵のように。


だが、確かにそれは生きている。呼吸をし、街を見下ろす。



「……ソロソロカ」



キラキラ、そしてピカピカ。


陽当たりがよく、身体中を細かい白い光が存在を放つ。嫌悪感しか感じない太陽の光は、この体が全て跳ね返してくれる。


透明で固められた、痛みを映し出す塔。



「ウゴキガアル」



微塵も動くことなく、ただ無気味に街を見下ろしていた。




【パレス 二階バルコニー】



「も、もう街に出るんだよね?」



ナエカは着替えた服を自分で眺めながら、足を震えさせていた。


アイリは大はしゃぎで、履いているブーツをいじる。



「すごい!! これで速く走れるんだね!」



靴底に車輪が付いた、特別製だ。四人ともお揃いのブーツ。


その場でクルクル回ってみせる。履き心地はバツグン。何でも、とあるエイドリアンの開発者からの贈り物だそうだ。


お披露目の度に、剣の団に贈られてきた物。



「あんたにはいらないかもな」



「えーー!!」



憤慨するアイリを他所に、レオナルドはバルコニーから下を見下ろす。



「なぁ、こっから行くっつってたよな。こっからどうやって下に行くんだぁ?」



「こうするの〜」



「え」



いつのまにかガラス越しに近くに来ていたカリンが、向こう側のカーテンの近くに垂れ下がっていた紐を、一気に引っ張る。



ゴゴゴゴゴゴ!!



「おわ!!」



「な、なに!?」



バルコニーを揺らす大きな音と共に、バルコニーの下から何かがせり出す。


金属のようなそれはどんどん伸びていき、一階の地面に突き刺さる。大きなスロープの完成だ。



「すっげぇ!!」



「こりゃまた、派手なヤツを」



「こっから行けるんだね!」



「ヒィ」



四人は、示し合わせたように自然と目を見合わせた。


これが51期生の一歩目だ。今日から何が始まるのか。



「よっしゃあ!! オレ達の初任務、行くっかあ!!」



「ヒイィ!!」



真っ先にレオナルドがナエカの腕を掴み、スロープを滑り降りていく。


踏み込みから爽やかに加速し、一気に飛び出した。まるで、ソリ滑りの一歩目のように。



「やっほおおおお!!」



「待ってよお!!」



「抜け駆けか、させるか」



アイリとショウリュウも覚悟を決め、二人の後ろに続く。頰をなでるような風が心地いい。


ドサッと、あっという間に地面に降り立つ。四人は器用に石畳の通りを、ブーツで滑るように駆けていく。


石畳の上で、ガーッと車輪の音が軽やかに鳴る。


アイリとショウリュウが追いつくと、自然と横並びになった。



「あんた達はナエカのニセモノな、俺とアイリはアイツを追う」



「うっしゃあ、行くぜ!」



レオナルドとナエカ、アイリとショウリュウの二手に分かれる。


躊躇などいらない。お揃いの格好、お揃いの履き物で通りを駆け抜ける。違うのは、襟のラインだけ。


まだそこまで人の多い時間帯ではなかったが、通りすがりの人々は、彼等のその服にハッと目を見張った。



「おい、見ろ……」



「ほら、あれ!」



街の雰囲気が、みるみる変わっていく。日常から、少しだけ非日常へ。



「じゃあ、また来るわ〜」



バタン。



「……ひゃあ!!」



とあるパンの店から出てきた若い女性は、目の前を横切ったアイリとショウリュウに驚き、思わず持っていたものを取り落とす。


袋から放り出されてコロコロと転がる、少し黒いパン。



「い、今の!!」



今横切った団員、見たことのない子だったと思うのだけど。



走る度に、周りの街の人々の視線が集まってくる。


興奮、興味、期待。


そんな視線を浴びながら、アイリは前を行くショウリュウに声をかけた。



「ショウリュウ、シキを探すってどうやって探すの? ジェイさんは今日いないし」



「知るか」



「えーー!!」



「探すっつったら探すんだよ」



なんだか、めちゃくちゃな任務。



初めてなのに、こんなに街の人が注目しているのに、これで大丈夫なのか。何処に向かえばいいのやら。



それでも、心はどこか晴れやかだった。



アイリは片手に、ある袋を持ちぶら下げていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ