第11話 出会い頭
「はっずかしぃ~」
無理やり窓から引きずり下ろされたレオナルドは、ソファーに座るナエカの隣で、照れくさそうに頭をかいた。
お洒落にも立たせていたオレンジの髪が、くしゃくしゃになる。
突き出した窓に掴まり、派手にぶらさがりながら外の景色を眺めていたらしい。
「何しとんねん、ホンマ」
ジェイは呆れた表情で、レオナルドの前に仁王立ちする。ナエカはレオナルドの隣で、眉をひそめていた。
人形のようなナエカの隣に、ミリタリージャケットを着込むレオナルドが座ると、違和感が出来上がる。
「へへ、つい楽しくなっちゃって」
随分危ない真似をする。下手をすれば、あの高さから落ちたかもしれないというのに。照れながらもあっけらかんとしていた。
無邪気さと無鉄砲さが窺える。小柄な体と合わさり、まるで小さな子供のようだ。
「アイリ君、彼は51期生のレオナルド・ローシ君だ。ラナマン一族の子で、ジャグボールの元選手なんだよ」
「ジャグボール?」
ジャグボール。三角の特殊な形をしたボールを、蹴ったり投げたりパスをして運ぶ。最終的に、相手陣地の複数ある筒状の太い棒にぶつけるというスポーツらしい。
アイリはやったことも、聞いたこともなかった。
大会も開かれている、テイクンでは割とメジャーなスポーツだという。彼も同じく18歳、ということだった。
「ま、選手と言ってもほとんど無名っすけどね~」
チームも全然勝てなかったし。
そう小さく呟くと、レオナルドはスクッとソファーから立ち上がった。
──チャド・ラナマンの子孫、彼も同じく血を引く者。
「オレはレオ! よろしくっす!」
そう言うと、爽やかな笑顔で手を差し出してくる。
ふと見ると、差し出した手には大きなグローブ。ブカブカに見えるが、少年のような雰囲気に似合わず筋肉質な腕が見えた。
赤い色が少し色あせていて、年代を感じさせる。彼のような若い年頃の子がはめるには少々──いや、かなり不恰好に見えなくもない。
「私はアイリ。よろしくね、レオ」
「おう!!」
そのグローブを握って握手すると、思っていたよりゴツゴツしていた。がっしりしている。
少なくともナエカよりは話が出来そうで、アイリはホッとした。
「さて、これでひとまずは三人揃ったわけだし、一度オーナーに挨拶をしたいんだけど」
「ハーショウさん、ハーショウさん、カリン忘れとるで」
「あ、そうだ。カリン君はどこに──」
「待って~~!! 待って待って待って~~!!」
そうジェイが告げた瞬間、誰かがこちらに凄い勢いで駆けてきた。
フロアを突き抜ける、高く高く響く声。あまりに大きな響く声に、皆がギョッとして振り返る。
「そこ待って~~!!」
ギャルのような見た目の、ふわふわした髪の可愛らしい女性。ジェイと同じ、紺色のかっちりした服で団員だと分かる。
高いヒールを履いたままでも、軽やかに階段を跳びこえた。
「んちゃ!!」
ダン!!
彼女は掛け声と共に、勢いよくジャンプ。 ソファーとジェイを踏み台にして蹴り出すと、見事なフォームでアイリの前に着地した。
「ぐぇ!!」
その衝撃でジェイがおかしな声を出したが、彼女は気にしない。
「ちゃああああ!! 新しい子、新しい子でしょ!? 新しい子ここにもいた、かわいぃ~!!」
有無を言わさずアイリの手を握り、ブンブンと大きく手を振って握手する。至近距離で光る、きゅるっとした可愛らしい瞳。
突然のことで、アイリは目を白黒させた。そばにいたナエカとレオナルドも、唖然とする。
「ちっちゃいねぇ、かわいいねぇ。どこの家の子? どこから来たの? かわいぃ~!」
「ほえぇ」
「カリン〜〜!! なにすんねん!!」
ジェイが抗議の声を上げるのも、ヒラヒラと軽やかに無視してしまう。ひたすら、その瞳が輝いた。
彼女はアイリの手を強く握っていた手を放すと、その手をもう一度差しだす。
そして、キャピッとした笑顔をアイリに向けた。
「カリンだよ! ウフッ」
「……アイリ、です」
「アイリちゃん? 名前もかわいぃ~!!」
迫力に圧されながらもアイリが返事を返すと、またまた強く手を握られる。なんという力。
カリン・エレガン。
ピンクの長い髪を、大きくカールしている。少し垂れ目で大きな目が、まるで猫のよう。
カリンもジェイと同じ49期生だと、ハーショウが紹介する。アッカーソン一族の出身で、ジェイと同い年の20歳。
そんなハーショウの言葉も、カリンには全く聞こえていないらしい。アイリを前に、ひたすらかわいいかわいい、を連呼していた。
「刺繍可愛い! 鳥さんだよね、どこで買ったのぉ〜? あ、もしかして手作り? ウフッ」
「ほえぇ」
質問攻めだ。
大はしゃぎしてアイリから離れようとしないカリンを、ジェイが体ごと割り込み引き剥がす。ようやく。
「もうえぇから!! カリン、お前オーナーのとこ行っとったんちゃうんか?」
「あ、忘れちゃうとこだった。そうそう、それを言いに来たんだよ~。ウフッ」
カリンはそう言うと、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「オーナーがね、みんなオーナーの部屋に来てください、だって」