第114話 号外
『剣の団51期生、いよいよお披露目決定!』
『テイクンの太陽、剣の団は今年も国を照らす』
『薪の日にお披露目、51期生早くも期待』
『果たして今年は何人か、四人説が有力との声も』
アイリは、まじまじと新聞の文字を目で追った。
「ほえぇ……」
新聞の号外、その一面だ。大きな文字が、堂々と新聞紙面を侵略して浮かび上がる。
自分達の事しか書かれていないおびただしい文章の波に、アイリは目をチカチカさせる。
「こんなにいっぱい」
アイリの真後ろで、同じく文章に目を通していたナエカは、ヒィイと震えて後ろに隠れてしまう。
読めば読むほど、気恥ずかしくなる。新聞の仕事は、なんと早いのか。
ついに、51期生の時が動き出した。その報せが国の皆に届き、皆の心が踊り始める。
前から横から後ろから次々と顔を現し、皆が新聞のもとに集まった。
「お〜、派手に載っとるな」
「四人だって! ウフッ」
「一人足りねーな」
「坊やのことだね」
「はぁ!? 誰が!!」
新聞を開げ、あれこれ感想を言い合う団員達。お披露目はこれからなのに、大はしゃぎで盛り上がる。
ルノは一人、彼等から離れて柱にもたれかかっていた。目を下にそらし、何やら考え込む。
そんなルノを気にしてか、エリーナがルノに近付く。
「どうしたの、少し元気が無いようだけど」
「……」
固い表情に何かを察したのか、エリーナは軽く笑みを浮かべる。
「去年はこんな号外、無かったものね。国のみんなも久しぶりだから、盛り上がりたいのよ」
新聞は、まさに今の国の反映。国民はまさに今、盛り上がりを求めている。
「ね?」
ルノはエリーナの言葉に、分かっていると言わんばかりに頷いた。
【パレスの外】
【テイクンシティー 中央通り】
「号外、号外!! 号外だよ~~!!」
朝早い時間でも、多くの人で賑わう中央通り。人混みの中で、新聞売りの少年の溌剌とした大きな声が響く。
パレスの外、勿論新聞が配られていた。
その日はこの季節としてはぽかぽかと暖かく、外に出る人々の雰囲気も朗らかだ。
朗らかな人々に花を添えてか、花吹雪のように新聞が宙を舞う。
「号外だ!」
「来たか!!」
「おい、押すな」
人々は驚きながらも、それぞれ新聞をキャッチする。
軽やかに人混みの中を通り抜ける、とある路線バス。新聞の舞う姿を見た乗客達は、一様に目を白黒させる。
中には、窓から上手く新聞をキャッチしようとする強者もいた。
「わわっ! なんだこれは」
「号外?」
「おお、これは」
それぞれが新聞を手にし、中央通りがどよめきに包まれていく。
人々は、明るい文面にそれぞれ驚きの声を上げた。
去年とは打って変わった熱気に、街が大いに盛り上がる。
「ついにか~!」
「きゃああ! やっとじゃない、待ってたのよ!」
「今回は遅かったね」
「四人かもだって、今年は多いなぁ」
「エリーナちゃんは大変だな」
「しょうがないだろう、去年がああだったからな」
「どんな子達なんだろうねぇ」
人々は期待に胸を膨らませ、大いに盛り上がる。待ち侘びていたのは、本人達だけではないのだ。
そんな中央通りを走る、とある大きな赤い車があった。
近場で全て集まっている賑やかなこの街では、車などあまり必要では無く、とても珍しい物だ。
「……」
後部座席に座っていたその男は、顔の半分が隠れるかという程長い前髪をいじりだす。
歳はもうすぐ三十というところか。何故か座席のシートではなく、サイドの扉を背に足を伸ばして腰掛けている。
男が座る傍らに、何故か巨大なスプーンが転がっていた。
男は新聞が宙を舞う不思議な状況に、眉をピクリと動かし、前の運転手に声をかけた。
「おい、この新聞はどんなことか。なんの騒ぎのことだ?」
「は、はいい!!」
運転手は背後の主人から突然声をかけられ、驚きながらも慌てて車を止める。
「見て参ります!」
慌ただしく外に出ると、すぐに新聞を一部持って帰ってきた。
「どうやら新聞で、騒いでいるようです」
「ほぉ」
男は軽く新聞に目を通すと、目に力を込めて新聞を睨む。
「……」
「やっと決まったんですね、51期生」
そこには、51期生のお披露目が近い事。そして、どんな新入団員かの記者の予想が、軽く書かれていた。
「始まったことか」
「はい?」
首をかしげる運転手に、男は新聞をバサッと放り投げると身を起こす。
「近々パレスに行こうぞ。用のあることだ、あそこの婆さんに連絡を取っておいてくれたまえ」
運転手は突然の話にオロオロしながらも、分かりました、と返す。
一体パレスに、何の用が。
「ところで、あの……その座り方、どうにかなりませんか?」
「おや、おかしなことか?」
「普通に座って下さい、普通に!!」
車はそのまま軽やかに発進し、駅の方向に向かっていく。
車には、特別に文字が書かれていた。馴染みの業者に入れてもらった、お気に入り。
そこにはラナマン、と書かれていた。