第112話 姫
【同時刻 大広間】
「では、あなた自身が例の依頼のキツネだったってことなの?」
「そういうこと〜」
帽子をいじりながら得意げに返すシキに、エリーナとカリンはいまいちピンと来ず、目を見合わせ困惑する。
ヨースラから報告を聞いても、まだよく分からない。
「キツネになっちゃうのぉ?」
「どう変わるのかしら……?」
実際に目にしていないのだから、仕方がない。
目の前で微笑んでいるのは、優雅な貴族の青年なのだ。獣という単語とは、無縁に思えるほど。
「もしかして、ピエールちゃんってお耳がはえてるの?」
「いやいや、はえてないよ」
「ハーショウさんが言っていたすごい能力って、そのことだったのですね」
「あーうん。そうなんだけど、よく見抜いたね……」
ハーショウの目は泳いでいた。
ハーショウとしては、シキは入らないだろうとガッカリしていたようだ。まさか、彼等が能力を当ててしまうとは思ってもいなかった。
当てられてしまったというのに、本人は得意満面のいい笑顔を浮かべている。
「見抜いたってことは……」
「うん、ピエール君は剣の団に入る事を了承してくれた。51期生揃ったよ」
ハーショウがそう告げた瞬間、エリーナとカリンはソファーになだれこんだ。
「ひゃああああ……」
「やっと……ようやく……」
心の中で大きなガッツポーズ。ようやく少し、肩の荷が下りた。
ヨースラと、全く同じ反応。全力で女性二人がソファーに倒れ伏す姿は、なかなかシュールだ。
「うわぁ、派手だねぇ」
感慨深く脱力する二人を尻目に、シキは無邪気にアイリに笑いかけた。
「姫が当てたんだよね〜」
「ね〜」
「ひめぇ?」
ニコニコと笑い合うシキとアイリに、周りは戸惑うしかない。
──どういう設定の関係なんだ、これは。いつの間にそんな関係に。
その時運良く、ジェイを医務室に運んだルノが戻って来た。
「……姫?」
聞こえてきた単語に、呆然とする。
そんなルノに、気付いたヨースラは秘かに笑みを浮かべた。
「何が姫だ」
「いいじゃないか、姫とは美しいものだよ。ねー」
「ねー」
この二人はすっかり意気投合したようで、エリーナはあらまぁ、と微笑ましそうに見守る。
「アイリが姫なら、オレは?」
「んー、レオくんかな」
「まんまじゃん!」
揉める二人の後ろで、嬉しそうに微笑むエリーナとカリン。
ジェイさんにも、早く伝えたかったな。
リュートでまだ寝てるなんて、勿体無い。綺麗な能力を持ってる人が、仲間になってくれた。
「とにかく、これでみんなにお披露目出来るかしらね」
「やったね! ウフッ」
これで51期生が揃った。
皆は、なんとなくシキのもとに集まる。これから、剣の団は十人なのだ。
これからが、始まり。
「なあなあ、シキって何歳なんだよ?」
「さて、何歳かな?」
「うーん」
「……エリーナさんの一つ下とか、かな。23歳」
「おお、正解!」
「すげぇ、ナエカ」
「当てやがった」
「ナエちゃんは賢いね」
「ナエちゃん?」
「えー、私達より歳上って素敵! ウフッ」
「入った時のエリーナさんより、歳上ですねぇ。スゴイです」
「また、賑やかになりそうね」
扉を開けて広間に戻ってきたマルガレータとマケドニアは、広間の騒がしさに目を丸くする。
カリンがシキの頭にはえている耳を探そうとして、シキは必死に逃げ回る。それに皆が乗っかり、ぎゃあぎゃあと騒ぎ出した。
皆が余りにも頭を凝視するので、シキは思わず叫んだ。
「だから、耳ははえてないってば〜!!」
マルガレータは、マケドニアに気づかず騒ぐ一同に、はぁとため息をつく。
「すまないねぇ、ノブレ殿。騒々しくって」
「いいえ、この私は構いませんよ」
マケドニアは僅かに口角を上げ、そう答えたのだった。
age 8 is over.
次回予告!
「やっと決まったんですね、51期生」
「レオナルドっす、レオナルド・ローシ!」
「リ・ショウリュウだ──えっと、です」
「何?……この僕の時間かな?」
「ナエカ・シュヴァンです」
次回、age 9!
赤い絨毯!
「アイリ・ジェイド・クレエールって言います!!」
お楽しみに!