表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/327

第104話 遠慮

【三階 バルコニー】



「いいですね、なんだか」



「え?」



一人でジッと外を眺めていたシキは、突然後ろからやって来たヨースラに目を丸くした。


ヨースラはシキの隣に並ぶと、同じようにバルコニーの手すりにもたれかかる。



「何の話かな?」



「僕も養子なんです」



「……!」



あっさりと笑顔で告げたヨースラに、シキは目を見張る。



「僕は親の顔を知りません、名前も知りません」



物心ついた時には、とある家に預けられていた。何故か、他のどこぞの子供達と一緒に。


身寄りがない子ばかりが、その家に集まっていた。エイドリアンだからと捨てられた、身寄りの無い子供達。



「実は、エリーナさんもそうなんですよ。同じ家でした」



「あの団長さんが?」



「はい」



その家に、今の親が養子を探しにやって来た。ヨースラが15歳の時だ。



「僕は誰なのか、そもそもヨースラなのか、歳は合ってるのか。聞きたかったな、聞けませんでしたけど」



「どうして?」



「聞いたんですか?」



敢えて聞き返すと、シキは少しの間考え込む素振りをした。



「聞く前に、周りがペラペラ喋ってくれたね」



両親が気付いた時には、シキはとっくに自らが養子であることを知っていた。


実の両親が、身近な人間だった事もあるのだろう。不憫がった周りの大人達の会話が、するする耳に入ってきたものだ。


シキは子供ながら、その全てを察した。



「──そうですか」



「食器を手に取るでしょ、そうしたらね」



「たまに手が止まりましたね」



「……」



これを口にしていいのかと、不安になって。


前の家でも、今の家でも。



「ましてや、ピエールさんは貴族ですからね」



「イーストウッドも貿易商だよね、立派な家柄だよ」



その言葉に、ヨースラはフフ、と笑みを浮かべた。



「今の親は、僕がエイドリアンだと知っていたのに引き取ってくれました」



能力だけ見れば、見えざる者と変わらない能力。


それも15歳という、中途半端な歳であったにも関わらず。申し訳なさばかりがつのる。



「今だに聞けないんです、どうして引き取ってくれたのか」



厳しい親だが、それも子供を引き取った責任感あってのことだろう。


遠慮ばかりでよそよそしさは消えない、本当に親子かと迷うこともある。



「だから、あんな風にお父さんと言い合えるピエールさんを少し──羨ましいって、思っちゃいました」



「……」



シキは表情を悟られたくないのか、フイと背を向けてしまう。



「だから何? ルーイ達とは仲間にならないって言ったのに、なんでそんなことペラペラ話すのかな。関係ないでしょ、この僕は」



「色々聞いてしまったのは、こちらの方ですから」



ニコニコと返すヨースラに、シキは黙るしかない。



「それに僕は、ピエールさんが仲間になるって思ってます」



「……シキでいいよ」



折角、名前つけてくれたんだから。


ため息混じりに返すシキに、ヨースラも笑顔を返す。


──次の瞬間。



「……!!」



シキの態度が一変した。これ以上ない程目を見開き、バルコニーの下を焦った様子で、キョロキョロと見渡す。



「どうかしましたか?」



不審に思ったヨースラが尋ねた途端、シキはその場に片膝をついてうずくまった。具合が悪そうに、口を手で防ぐ。



「シキさん!?」



ヨースラは慌ててシキに駆け寄る。明らかに呼吸が荒い。



「ハァ、ハァ」



「大丈夫ですか!?」



「し、心配ない」



「でも」



心配ないと言いつつ、胸をおさえて苦しそうだ。軽く汗をかいている。


ヨースラは必死に背中をさすった。



「早く医務室に」



「い、行かなくていい。この僕は、た、たまにこうなるんだ。心配ない。それより、ルーイ」



「え?」



「ルーイは、早く下に降りた方がいい、誰か来たみたいだよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ