第101話 意味深
「シキの能力を当てる?」
まさかのシキからの提案に、アイリは困惑した。
父親から逃げ出して、一人で街を彷徨っていたほど、団に入るのを拒んでいたのに。
「当てたら、団に入ってくれるの?」
「ルーイ達に猶予をあげるよ。当てたら団に入ることにする、バケモノの情報もあげるよ」
「……本当だろーな?」
急に意見を翻したシキに、ショウリュウは信用出来ないのか、皮肉混じりに語尾を吊り上げた。
そんなショウリュウに、シキは余裕たっぷりの表情でフフン、と返す。
「この僕は紳士なのさ。そこの坊やみたいに、意地悪じゃないからね」
「はぁ!?? だから坊や」
「まぁまぁ、落ち着けって」
レオナルドはショウリュウを宥めると、今度は自らが詰め寄る。
「能力を当てるって、能力をどうやって当てるんだよ!」
「さぁ?」
肩をすくめて軽く返すシキに、再びショウリュウが突っかかっていくのを、アイリとレオナルドでなんとか止めた。
わざと怒らせているのだろうか、おちょくっているのか。
「大丈夫なんかいな、51期生」
「かわいい〜。ウフッ」
「かわいい、ですか?」
「それで、期限はいつまでかしら。いつまでに、あなたの能力を当てればいいの?」
エリーナが尋ねると、シキは軽くウインクをかます。
「この僕の気が済むまで」
「あんたなぁ!!」
それでまたショウリュウが突っかかり、騒ぎになる。
揉める後輩達を前に、先輩達はどうしたものか、と目を見合わせた。
マケドニアは目の前の騒ぎにもピクリとも表情を変えず、口を開く。
「そのような取り引きなど、出来る立場だと思うのか?」
「出来るさ、この僕が入るって言わなきゃ入れないんだから。父上だって、不本意に団に入らされた、なんて言われたくないでしょう?」
「うわぁ……」
ナエカはそろそろと、レオナルドの後ろに隠れてしまう。
ナエカに引かれてしまっても、シキは堂々として余裕なままだ。
「だから父上もそこの人も、この僕の能力勝手に教えたりしないでくださいね?」
「そこのひとぉ?」
そこの人呼ばわりに、ハーショウはガクーンとアゴを落としそうになる。そんなやりとりの中を、マルガレータがわたわたと割り込んだ。
「ちょっとちょっと、勝手に話を進めているようだけど、どうやって能力を当てさせるつもりだい。出来るもんじゃないさね」
──出来るもんじゃない。
心底困った様子のマルガレータに、皆の目にも困惑の色が移る。確かに、エイドリアンの能力など、どうやって突き止めるのだ。
シキも、その通りと言わんばかりに微笑む。
「うーん……」
アイリはクルクルと、頭の中のギアを動かす。このギアは、少々重くて鈍い。
シキの能力を見れればいいの? 血の能力って、使ってるところ見なきゃ分からないかな。
──ちょっと待って、見なくても分かる?
アイリはふと気づき、顔を上げる。
「ヌヌレイさんに見てもらうとか、どう?」
「ヌヌ……誰かな?」
まさに、アイリの作戦。
不穏な何かを感じわたわたする本人を他所に、周りは感心して目をパチクリさせる。
「そう来たか」
「おお、いいじゃん!」
ヌヌレイは、初めて会ったアイリ達の顔を見ただけで、どの家系か当ててみせた人物だ。
あのヌヌレイなら、シキに会わせたら何か分かるかもしれない。
アイリはすがるような目を向けて、シキに近付いた。
「シキ、一緒にヌヌレイさんとこ行こうよ!」
「……シキ?」
今更、ではあるが。息子がシキ、とかいう何処ぞの名前で呼ばれていることに気付いたマケドニアは、大きく首を傾ける。
「オーナー、エリーナさん、いいですか?」
目をキラキラさせて尋ねてくるアイリに、マルガレータは大きく頷く。
「いいだろう、行っておいで」
「やった!!」
「しかしオーナー、この子達にはリンゴ教官の特訓が」
制しようとしたエリーナに、マルガレータははぁ、と息を吐く。
「そうなんだけどさね、リンゴがまだ到着してないのさ。連絡も無いし」
「え?」
マルガレータはスッと目を鋭くし、意味深な目線をエリーナに向けた。
そろそろ特訓の時間だというのに、まだパレスに到着していないらしい。
「珍しいさね、リンゴが遅れるなんて」
「……」
「あのリンゴだし、大丈夫だとは思うけどねぇ」
……これは、様子を見に行けということか。
真っ先にルノが椅子から立ち上がり、広間から出て行く。
「カリンも行く〜! ウフッ」
「ちょお待ちーや、俺が先やで」
「じゃあ、僕も」
同じように続こうとしたヨースラだったが、エリーナが引き留める。
「ヨーはここにいてあげて」
「え?」
「さぁ、行きましょう」
ヨースラを残し、先輩達は出て行ってしまった。
一人ぽつんと立ち尽くすヨースラに、アイリ達が群がってくる。
意味を含んだキラキラした目に囲まれ、ヨースラはあからさまに首をかしげたのだった。
「えっと、もしかして僕もヌヌレイさんの所に行くんですか?」