第100話 無視
【パレス 大広間】
剣の団に入るつもりはない。
はっきりと一同に告げたシキの言葉に、皆は言葉を失った。
そんなシキに、マケドニアは無表情のまま振り返る。
「まだそんな事を言っているのか?」
「しつこいですね、父上は。ほら、そこのオーナーさんが言ってたでしょう? 剣の団には、入団に対する決まりがあるって」
硬い声でこちらに投げかけてくるシキに、マルガレータは頷く。
「……そうさね」
入団の決定は、本人の意思を最優先とする。
つまり、本人が望まないなら団には入団させない、ということだ。
これは、団が誕生してからの決まりである。命懸けの仕事だ、本人の意思が無ければ難しい。
「ほらね? 何度でも言うけど、この僕は入る気無いから」
頑として、団には入らないと宣言した。
どうして、とアイリは尋ねようとしたが、すぐに口をつぐむ。
普通に想像すれば、あんな化け物と戦う仕事をやりたい! と思う人などそうはいない。
恐ろしい見た目、様々な能力。アイリだって、既に危ない目にあっている。
アイリは長老からの使命があるから、ここに来た。
だが、この人は自らの血の能力を知ったのだって最近だったのだ。アイリとは違う。
──考えれば当然の話だった。
それは他の皆も察したらしい、気まずそうに目を伏せてしまった。
「そうですか……」
「じゃあ、ピエールちゃん入団出来ないね」
「いや」
マケドニアが、こちらもはっきり否定する。
「そのような決まりがあることは、この私も承知している。だが、既に軍や議会に話は通した。この愚息は特例として、団に入団させる」
「えーーーー!!」
無茶苦茶だが、マケドニアは間違いなく本気だ。一同は揃って口をポカーンと開ける。
そこまでして団に入れたいのか。流石にショウリュウですらも顔をひきつらせ、絶句した。
シキは怒気で目をカッと開け、マケドニアに詰め寄っていく。
「この僕を無視しようだなんて、よく出来るもんですね父上は! この僕は、ずっと入りたくないって言ってるでしょう?」
「剣の団に入れると、この私が決めた」
「ならば剣の団には入らないと、この僕が決めた!」
両者、一歩も引かず。
バチバチと睨み合う親子に、誰も割り込めない。ビリビリした感覚が広間を包む。
「とまぁ、ずっとこの調子なんだよ」
ハーショウが困り果てた様子で、ちゃっかり小声で説明する。
ずっとこの押し問答が続き、なかなか話が進展しなかったという。
息子を団に入団させたい父親と、入りたくない息子。
「普通、逆やねんけどなぁ……」
ジェイは呆れた様子で呟く。
団としては、マケドニア及び政府に逆らうつもりはない。いや、出来ない。ハーショウもそうだ。
「だからとって、本人が望まないのに入団させるのもね、ハーショウも困ってたのさね」
「どうするんすか、めちゃくちゃじゃん!!」
「さぁて、ね……」
この状況をどうするのか。
一同は呆気に取られ、諍いを続ける親子を見守るしかない。
微妙な空気が流れるが、親子はお構いなしだ。
「とにかく、入団の手続きは完了した」
「だから、入らないって言ってるでしょ」
シキはうんざりと言い放ちながらも、スッとアイリを見据えた。
「でもね」
視線を感じ、アイリも首をかしげる。
「え?」
シキは、ツカツカとアイリに近付いた。目と鼻の先で顔をアップにされ、アイリは戸惑う。
「ほぇ」
「ルーイがいるなら、少し考え直そうかなぁ」
その一言に、皆がギョッとする。
「えぇ!?」
「ウソだろ!?」
シキはアイリを見据えたまま、余裕たっぷりの笑みを浮かべた。
まるで、子供がイタズラでも思い付いたかのように。
「もう一度取り引きしようか、ルーイ達。この僕の能力が何なのか当ててごらんよ、当てたら団に入ることにしよう」