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第9話 塔

【中央通り】


【パレス 玄関前】



「ええぇ!?」



広場を抜けた先。パレス、というその大きな建物は、この街で見てきたどの建物とも違っていた。


周りの建物がレンガ造りの漆喰であるのに対し、白と黒のタイルに縁が濃い緑のデザイン。


パステルカラーで淡い色の建物群の中では、この建物はただひたすらに目立つ。



「ここが団の……?」



大きな塔が二つ、二階と三階の窓がまるで飛び出したように大きく外側に出ている。かなり奇抜なデザインだ。


アイリはポカーンとして、首が折れそうなほど見上げる。そんなアイリの様子に、ハーショウはアハハ、と笑い出した。



「ビックリした? アイリ君にその反応されるのは、ちょっと面白いな」



アイリはあの田舎の集落から出た事がなく、建築のカケラも知らない。しかし周りの建物と比べても、この建物がおかしいのはよく分かった。


今日から、ここに通うことになる。


ハーショウは目の前の大きな鉄の門の前に立つと、重たそうにしながらも門を押し開けた。


これはどのような意図なのか、角の部分だけゴツゴツしたキラキラした物で飾られ、デコボコしている。



「おかしいよね。さて、中に入ろうか」



「はい」



促され、おずおずとパレスの中に入る。


中は非常に綺麗なものだった。柱が少なく、広い解放感のある空間。中の壁にもタイルが貼られ、床は綺麗なクリーム色が広がる。


見たことがないくらい大きな窓の枠には、それぞれ精密な木の細工がされてあった。



「うわぁ……」



所々に同じ花が飾ってあった。アイリは見た事がない、青紫の大輪の花。作り物の花のようだったが。


誰かの趣味なのだろうか。奥の壁に、雰囲気とはそぐわないポスターが貼ってある。アクション映画のポスターだ。



「かっこいい」



角ばった派手な文字が踊る。中央の爽やかな印象の水色の髪の若い俳優が、かっこよく視線を決めていた。両手には重たそうな銃を抱えていて、物騒だ。


アイリには、目に映る物のそのほとんどが分からない。だがその全てが興味の対象で、目を引く。



「ここが広間だよ。普段はみんな、ここにいることが多いね」



床をコンコン、と足で鳴らしてみた。やはり硬い、里の家の床でこんな音は鳴らない。すごい、これが都会の建物。


ハーショウは、アイリがあちこち興味津々に見つめるのが面白いのか、嬉々として中を紹介してくれる。


それでも、アイリの世間知らずには苦労していた。



「ほら、そこが食堂だよ。ここの食堂は広いだろう」



「ショクドウって?」



「食堂が分からないの!? 食事をするところだよ、ここでみんなで集まって食べるんだ。ほら、入ってみようか」



そんなショクドウに足を踏み入れかけた、その時。



「ハーショウさん!!」



突然近くの階段の上から、誰かの溌剌とした声が聞こえていた。


声がした方を振り返ると、小柄で人懐っこい顔をした青年が、こちらに向かって手を振っている。


アイリよりも、少し年上のような彼。ニコッと微笑むと、愛嬌のあるえくぼが目立つ。


青年はアイリの方をじっと見つめると、軽やかに階段から降りてきた。



「ハーショウさんひっどいわ~! さっき送ったのに、返事してくれへんやん。俺ら、新しい子ずっと待っとったんやで?」



「えー。それは悪かったけど、こっちは色々案内してるんだからさぁ」



これはもしかして、方言だろうか。聴き慣れない話し言葉の青年に、アイリは戸惑う。


不満の声をあげるハーショウを他所に、青年は笑顔でアイリに向き直った。



「新入りさんやろ? ジェイや、ジェイジーって呼んでくれてもええで、よろしゅうな」



ニカッと笑う。


青年も、ハーショウと同じ様なピシッとした服を着ている。こちらは紺色で、縦に入る銀色のラインが美しい。


新しい子、新入り。待っていたと言うのだから、恐らく剣の団の団員だろう。


お世話になる人だ、アイリは慌てて頭を下げた。



「アイリです。ジェイさん、よろしくお願いします」



「……ん?」



ジェイは首を傾げると、どんどんこちらに顔を寄せながら、じいぃっとアイリの顔を覗き込む。


少し丸くて、犬を連想させるような目だ。



「ほえぇ」



目と鼻の先に詰め寄られ、アイリは動揺した。



「……」



「……」



おかしな沈黙。


ジェイは更に顔をしかめ、くっきりと眉間に皺を寄せる。



「──ハーショウさん? まさかこの子、団員知らんのとちゃうやろな?」



「うん! 知らないよ、誰一人」



「えーーーー!!! 嘘やろおーーーーーー!????」



ジェイは虚しく天を仰ぎ、叫んだのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] アイリ様、食堂も知らないとは……これは慣れる以前に知るところから……かなり苦労しそうですね(;´・ω・) おのぼりさんみたいなアイリ様は可愛いけど、里の人達が心配してた気持ちも分かる!これ…
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