第1話
前世の記憶というものは、
些細なことで思い出すようだ。
私、サラ・アルツナイは三日三晩の高熱の末、前世というものを思い出した。
どうやら私は、日本という国で平和に暮らす、ただの女子高生だったようだ。
通学中に、トラック運転手の居眠りにより命を落としたようだが、それなりに幸せな人生だったと思う。
さて、これは所謂異世界転生というものだろうか。前世で流行っていたため存在は知っているが、あまり読んだことがなく、その知識は薄い。
ただひとつ言える事は、物語ではなく、自身に起きている現実なので、知っていたとしても参考になるかは不明という所だろうか。
コンコン
部屋にノックの音が響く。
おそらく、高熱にうなされた私を看病していた母親のものだろう。
ガチャリ
私が返事するより先にドアは開き、母親が入ってくる。
「サラさん、大丈夫ですか?」
そう告げた母親を、前世の記憶を取り戻す前なら、大好きな母親だと思えただろう。
でも、記憶を取り戻した今は違う。
私が知っているよりも、幾分か歳をとっているが、その面影は完全に残っていた。
その衝撃は、ただでさえ前世の記憶を取り戻したばかりの10歳の体には無理があったようで、私はもう一度意識を手放す事になったのだった。
ーーー
《魔法使いへ祝福を》
それは、私の友人が重課金をするレベルでハマっていた乙女ゲームである。
友人の勧めで、私もプレイをした事があり、おおよその話は知っている。
魔法が使える子どもたちの元へ、とある学園から入学案内が届く。
その案内は、貴族・庶民関係なく《魔法が使える》それだけの条件で届けられるものではあるのだが、そもそも魔法が珍しい世界なので、学園の案内が届くだけで、魔法が使える証明となり、名誉ある事だとかなんとか。
まぁ、ありきたりではあるが、庶民である主人公のミア・エルドラードにその案内が届くことから話ははじまる。
主人公は学園に入学し、色んなキャラクターと色んなドラマを紡ぎ、最後は悪に立ち向かう。そんな話である。
そんなありきたりな乙女ゲームには、ありきたりだが、悪役令嬢が存在する。
その名を、ソフィ・エーデルと言う。
漆黒の癖っ毛、青い吊り目、黒猫を思わせるようなその見た目にファンも一定数居たが、残念なことに悪役令嬢なのだ。
ストーリーでは、主人公へ嫌がらせにつぐ嫌がらせ。そこにさらに嫌がらせ。
徹底したそのキャラクターに、公式に嫌われている。とまで囁かれていた。
ーーー
私は目を覚ますと、側に飾られていた写真を見つめる。
先程は窓からの日差しも暖かく明るかったが、今は月明かりのみが部屋を照らしている。
意識を手放して何時間経ったのだろうか。
月明かりに照らされた中でも、写真に写る人物が誰なのかハッキリとわかった。
そこには、悪役令嬢のソフィ・エーデルが、ストーリーから幾分か歳をとった姿で、幼い私と一緒に写っていた。




