66/72
背水の陣
背水の陣という言葉がある。
川を背にして陣を敷き、退路を断つことで決死の覚悟を決める。
そんな意味をもつ言葉だ。
たしかに、逃げ道がないのなら兵士は必死に戦うしかない。
川に飛びこんで死ぬくらいなら、戦って死んだほうがマシに決まっている。
でも、戦っても戦っても勝てなかったとしたらどうだろう。
どうしても勝つことができなくて、負けることもできなかったとしたら。
戦いに疲れて川に飛びこんだ人がいても、その人のことを僕は責められない。
誰もが勇敢なわけではないし、あきらめない心をもっているわけでもない。
他の兵士たちに、卑怯者や臆病者と誹られたとしても。