男の子が愛した本
男の子は、今日も月明かりの下で本を広げた。
みんなが寝静まった夜の12時。
この時間が好きだった。
誰にも邪魔されることがないし、馬鹿にされることもない。
靴を盗まれる心配もないし、本に落書きされることもなかった。
この本は、もう何回読んだことだろう。
ゴミ箱に捨てられたり、窓の外へ落とされたり、泥の中に投げられたことがあったから、それはもうボロボロになっていた。
でも、男の子はその度に本を拾っては、綺麗になるまで磨きあげた。
ページを一枚一枚広げて、泥があったら拭き取った。
ページにはたくさんシワがあったし、茶色いシミもついていた。
それでも、男の子はその本を愛し続け、飽きることなく何度も読んだのだ。
男の子が立派に大人になった今でも、男の子の部屋にはその本がある。
辛い時期を、一緒に乗り越えてくれた本だ。
男の子はときどきその本を広げ、読み終わったら丁寧に本棚へと戻した。
本棚には、様々な本がたくさん並んでいる。
外国語で書かれた難しい本や、法律などの専門書もたくさんある。
でも、シワだらけで茶色くなった本は、本棚の中でも一番いい場所に置かれた。
その横には、庭で咲いていた花が今日も一輪、花瓶に飾られている。