前編第一章 剣の芸人3(ショーナ視点)
時が去って私たちが19歳になったころはまた人生の転機が訪れた。1年前にコンランのお師匠様、剣の芸人は旅を続くために王都を出た。コンランは芸人として独立し大道芸でお金を稼ぎ以前のように下町に寄付していた。が、そのお金を結局貴族たちに横取りされた。
常に生活が貧しい下町でも王国に住んでいる以上、税を払う義務がある。国民としては当然の義務ではあるが、その額は高すぎて私たちから全てを奪うとも思えた程に理不尽であった。「額は全ての国民に対して同じよ」というのが当時の貴族議会から派遣された税担当の議員、下町では税金取りと呼んでいた、の貴族の言い癖だった。全てが同じとはつまり貴族が払う税金と同じということ。もうおかしい。貴族にとってただの1ヶ月分のお小遣いの額でも下町にとっては1ヶ月分の食事費になるんだったから。そう反論しても今度は連れの騎士たちが下町の男たちを押さえた。結局何もできなくて、私たちはただ言いなりにコンランやみんなが一生懸命稼いだお金を渡した。
税金取りの貴族が嫌味吐きながら帰ろうとしたその時、私は下町の男たちの騎士に殴られた傷を癒しの力で治した。そう、力を使ってしまった。その貴族と騎士たちがいる時に、彼らが見える所で。
「そ、それは…!」
「しっ!しかし、まさか…」
「な、なによ?」
「おほん。いや、失礼。とても不思議で素晴らしい力をお持ちになさっているもので。どうですかお嬢さん?私と一緒に来てその力を王国のために使わないか?きっと今の生活よりより豊かな暮らしが出来ますよ」
「お断りします。私の力は下町のためにあるんだから」
「そうか。それは残念です。出来れば穏便にしたかったのだがね」
そう言って税金取りの貴族は連れの騎士たちに合図を出した。実力行使。彼は力づくで私を連れて行こうとした。が、私を取り囲もうとした騎士たちに邪魔が入った。コンランが空から落ちたように私と騎士たちの間に上から間に入った。
「まったく。今時の騎士は大勢で町娘一人をしかかるってんのか?騎士道はどうした?」
「うっ!」
「誰だ貴様?この私の邪魔をするとでもいうのか?」
「いえいえ。貴族様の邪魔なんて恐れ多い。自分はただここで立ってるだけですよ。騎士様たちの腕っぷしで一瞬でどかせるでしょう?」
「フン。何のつもりか知らぬが、とっととそいつを退かせて娘を連れてこんかお前たち!」
税金取りの貴族は再度騎士たちに命令し、彼らはそれに従い今度はコンランに取り掛かるが、誰もコンランの所に届く者はいなかった。コンランは確かに立っている場所から一歩も動いていなかった。ただ、取り掛かる騎士たちが誰も正確にコンランのいるところへ行けなったのだ。ある者は方向を間違えて、ある者は動きを取れなくて、ある者は何もないのに転んだ。
「な、何をやっているのだ貴様らは!!?」
「い、いいえ!あれ?おかしいな…?」
「ええい!何を遊んでいる!?」
「すみません!でも、なぜか彼に近づけないんです!」
「道を見失った騎士はどこにでもたどりつけないってね」
コンランは彼らの混乱な様子を見ながらキザなセリフを詠った。不覚にそれを愉快におもって下町の皆と笑った。税金取りの貴族は目に見えて苛立っていた。少し騒がしくなったのか、今度は別の騎士、貴族と王族が従える近衛騎士と違って平民の街の中央街の巡回騎士がやってきた。
「何事ですか?」
「チッ…おいお前たち。あそこにいる男を捕まえろ。この私の仕事を邪魔したのだ」
「な、何を言っているのよ!?」
「あなたは税担当の議員様…分かりました。その男を我ら中央騎士団の駐屯所に連れて行きます」
「フン。では頼んだぞ。帰るぞ貴様ら!」
税金取りの貴族は彼がもともと連れてきた近衛騎士たちと帰った。そして、巡回騎士たちはコンランを逮捕した。
「ちょっと待ってよ!コンランは何もしないじゃない!」
「分かっている。ったく、お前も懲りないな」
「え?」
「今晩は世話になるぜ」
「今晩”も”だろうが」
巡回騎士とコンランが親しげに話した。私は訳が分からずに戸惑っていたが、下町の何人かは事情を知っているらしい。
「ちょっと待って!一体どういうことなの、コンラン?」
「どうもこうも見ての通り知り合いだが」
「なぜ知り合ってんのか聞いてんだろようそのお嬢さんは。ほんとにしょうがない奴だな。実はねお嬢さん、こいつはうちの牢屋の常連なんだよ。毎回毎回貴族と揉めてしやがって」
「え?じゃあコンランが時々何日も帰ってこないのって…」
「まあな。味はあれだけど、牢屋でただ飯を食えるのって悪くねぇと思わね?」
「もう!!!」
その時の私の気持ちは心配して損した。であった。もう知らないと言わんばかりに自分からコンランを騎士に突き出して背を向けた。多分、その時コンランはため息を履きながら苦笑していたと思う。
「わりーな。ショーナ」
「ちゃんと帰ってくれたら…許す」
意地を張って振り向きもしなかったが、後に後悔した。それが、下町で私とコンランが交わした最後の言葉になったんだから。