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23 浮かび上がる獅子




 メロヴィング公爵邸より帰宮するや否や、ジークフリートは侍従らを追い払った。



「宴で疲れているだろうミュスカデに、これ以上の負担を強いたくはない。聞き分けろ。どこに隠れたとして、私にはわかるのだ。おまえ達も知っているだろう」



 ジークフリートは一人をじっと睨みつけてから、次の者の目を同様に覗き込んだ。ひとりひとりの目を射抜くように、ゆっくりと。


 詳細は明かされていない、ジークフリートの力。

 だがジークフリートに偽りを通すことが難しいことは、侍従達もよく知っていた。それ以前に、彼等はジークフリートの命に背くつもりはない。

 ジークフリートが側を許す侍従達は皆、ジークフリートに心からの忠誠を捧げている者だけ。

 だがそれを知っていてさえ、ジークフリートは念を押した。


 侍従達が聞き分けよく下がった後、ジークフリートはマントの懐に手を入れた。マントの内側から、青白い光がボウっと浮かび上がる。

 ジークフリートがマントから手を出し、杯を掲げるときのようにゆっくりと手を挙上させた。


 青白い光は回廊に配された、壁掛けの燭台へと飛んでいく。

 光と交じり合う燭台の炎。

 大きく立ち上ったかと思うと、空中で大きな円を描き、眩いばかりの光を発散させた。そして消える。


 その様をつまらなそうに眺めると、ジークフリートは踵を返した。足早に自室へと向かうジークフリート。

 レオンハルトもまた無言で、ジークフリートに付き従う。

 ぴりぴりと緊迫した兄の気配。


 ジークフリートもレオンハルトも、足音は立てていない。

 だが、歩く度に擦れる太もも、その衣擦れのささやかな音すら、レオンハルトの耳は過敏に拾い上げた。


 ジークフリートが扉の前で立ち止まり、鋭くレオンハルトへと振り返る。

 ジークフリートの凍えるような青い目。レオンハルトの青い瞳を捉えると、ジークフリートは前に向き直り、静かに扉を開けた。







「これを見よ」



 レオンハルトの眼前には、王家の旗。

 メロヴィング公爵邸大広間に掲げられていたのと同じ図案の旗。

 赤と青の二色の血。建国の忠臣を示す、七本の斜線。

 それがローテーブルの上、広げられている。斜線はジークフリートからレオンハルトへと放射状に広がっていた。



「王家の旗に、何か」



 レオンハルトの問いに、ジークフリートは答えず、手袋を抜き取る。

 白い絹の手袋を胴衣の内ポケットに入れると同時に、ダガーを取り出すジークフリート。

 ことりと鞘が落ち、ジークフリートの細い指先を刃が掠める。


 ジークフリートの白い指先に浮かび上がる、紫紺色の血の玉。

 血の滲む指を、ジークフリートは親指でぐっと絞り出す。

 ぽたり、と紫紺色の血が、王家の旗の上に滴り落ちた。



「おまえの目に映るもの。それが公爵の抱く懸念だ」



 赤地に七本の青い斜線。王家の旗。

 その上には、咆哮する獅子が浮かび上がっていた。

 燃え盛る太陽のような、黄金の鬣。黒く濡れた鼻。威嚇するように大きく開いた口。薄桃色の舌。鋭い牙。


 レオンハルトの鼓膜は揺れていない。

 だが低い唸り声は、レオンハルトの脳に直接響く。

 腹の底に響くような。そして最後にはゴロゴロと短く喉を鳴らし、その獅子は消えた。


 呆然とするレオンハルトに、ジークフリートは問いかける。

 その声は穏やかで、凪いだ初夏の海をレオンハルトに思い起させた。

 今よりずっと幼き頃、ジークフリートとともに水遊びした、懐かしい海。白い砂浜。静かに打ち寄せる波。潮の香り。



「建国王の名を、なぜ誰も知らぬのか。レオン。おまえは疑問に感じたことはないか」



 この国が崇める神の名を、誰も知らないように。この国の初代王の名もまた、誰も知らなかった。

 知らないことに、なっていた。




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― 新着の感想 ―
わあああ~! 指先の血、浮かび上がる獅子。かっこいいです! わくわく!
[良い点] >「宴で疲れているだろうミュスカデに、これ以上の負担を強いたくはない。聞き分けろ。どこに隠れたとして、私にはわかるのだ。おまえ達も知っているだろう」 ミュスカデに負担ということは、侍従た…
[良い点] この回もジークフリートさまがかっこいい……! 私も睨まれたいです( *´艸`) ああ、綺麗な指が……(痛そう!) 獅子が浮かび上がるのがすごく幻想的でした! 初代の王様の名前を知らない理由…
2023/02/09 21:38 退会済み
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