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閑話 お産と悪魔とレオンの確信
継母がとうとう産気づいた。レオンは、この日生まれて初めてお産に立ち会った。
入学早々に退学した医術学校ではお産の講義はなかったし、これまでの人生でレオンが誰かにお産について教えてもらったことはない。レオンは男なのだから当然だ。
けれどレオンはお産が命がけであることの意味は、悪魔の介入ではないと知っていた。継母の沈む血溜まりが、決して悪魔が忍び込んだからではないと知っていた。
教会の教えに背くレオンの確信。
一体なぜレオンは確信出来たのだろう?
目の前に広がる血の海を前に、レオンの確信は揺らがない。
レオンは継母への複雑な思いを自ら認めている。そのレオンがお産に立ち会った。
それなのに、そこに悪魔が入り込む隙はなかったと、なぜレオンは確信出来たのだろう?
体中から全ての血が抜かれたような、真っ白な継母の顔。最早ぴくりとも動かない肢体。広がる血の海。
レオンは失われた命を呆然と眺めるしかなかった。




