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モーモー太郎伝説  作者: おいし
第三章
91/122

【第91話】オウエンの焦り〜禁書編〜

 オウエンは王宮へ戻るなり、すぐさま使いを走らせ、王族たちを大広間へと召集させた。


 荘厳な柱が並ぶ石造りの大広間に、次々と錦の衣を纏った王族たちが集う。

 重々しい空気の中、オウエンは一歩、中央へと進み出た。


 「皆の者、よく聞いてくれ!」


 声が高らかに響き渡る。

 そしてオウエンは、息を呑むような真実を語り始めた――


 “オロチの計画”、

 “悪意から生まれし鬼”、

 “この国に迫る未曾有の危機”。


 その一語一語は確かに深刻な内容だった。だが――


 「……鬼?」「まさか……神話の類ではないか?」


 王族たちは、ぽかんと口を開け、互いに顔を見合わせていた。

 浮世離れした話に、半信半疑どころか嘲笑すら漏れ始める。


 オウエンの訴えは、誰一人として耳を傾ける者もなく、ただ虚空へと吸い込まれていった。




 ――しかし。




 数日も経たぬうちに、王宮へ悲報が相次ぐ。


 「西の町が……鬼に壊滅させられました!」

 「南部の集落が焼かれました!」

 「行方不明者……数百名……!」


 まるで洪水のように押し寄せる“現実”。

 それは王族たちの嘲笑を、一瞬で震えと絶望へと変えた。


 ――鬼が、現れたのだ。


 巨躯にして凶暴、ひとたび姿を見せれば、その町は跡形もなく潰えた。

 壁も城も人の命すらも、紙のように引き裂かれる。

 鬼の通った後に残るのは、瓦礫と炎、そして静寂だけだった。


 だが、王族たちは何も出来なかった。否、恐怖に呑まれ動けなかった。


 そんな中、ただ一人、

 オウエンだけが立ち上がった。


 「軍を出す。我が国の命運、ここで断つわけにはいかぬ!」


 軍勢を率い、各地へ出陣するオウエン。

 その瞳は決して怯えていなかった。

 ――だが。


 現実は、無慈悲だった。


 鬼は強すぎた。

 斬っても、焼いても、貫いても、傷ひとつ負わぬ。

 対して兵は、次々と潰され、なぎ払われ、声すら上げる間もなく大地に伏す。


 何度挑んでも敗北。

 出陣のたびに兵は減り、街は失われ、国は疲弊していった。


 王族たちはついに、打つ手を失った。

 人々は怯え、逃げ惑い、ただ日々の存続を祈るのみ。


 ――そして、オウエンはひとり、

 国の未来を背負い、自問自答を繰り返していた。


 「ミコト……本当に、救世主として戻ってくるのか……」


 3年後の約束。それだけが希望の光。

 だが、果たしてこの国はそれまで“持つ”のか?


 希望と絶望がせめぎ合う中、オウエンはある場所へ足を向けた。


 ――オロチがかつて幽閉されていた、王宮近くの離宮である。


 ギィィ……


 風に軋む扉を開けると、そこはかつて狂気に満ちていた空間だった。


 棚には歪な試験管。机には黒ずんだ資料。

 床には書き殴られた設計図。悪意と執念が染み込んでいた。


 オウエンは、慎重に資料を手に取り、目を走らせる。


 その中で、一冊の分厚いノートが彼の目に留まる。


 「桃の木における悪意浄化作用と、その転用について」

 著:オロチ


 オウエンの目が、静かに、しかし確かに輝いた。


 「……これは……」


 最深の闇の中で、微かな光が灯った。

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