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モーモー太郎伝説  作者: おいし
第三章
88/122

【第88話】10年後の再会〜禁書編〜

「はぁ……はぁ……」


 深い森の中、桃一郎はあてもなく彷徨っていた。

 幾度となく足をもつれさせ、木々に手をつきながら前へ進む。

 家を飛び出してから、食事も眠りもろくにとっていない。

 その足取りはもはや夢遊病者のようにふらふらと頼りなかった。


 ――自分に何が起きたのか。

 ――自分は、何者なのか。


 頭の中で繰り返される問い。それに答えるものは、誰もいない。

 だがひとつだけ、はっきりとわかっていることがあった。


 ――自分の中に、“何か”がいる。


 憎しみ、怒り、哀しみ――それらが一つになり、黒い渦のように心を侵食している。

 あの時の“影”が、また現れたら。

 次は、ミコトすらも……自分の手で傷つけてしまうかもしれない。


 (俺は……もう、誰のそばにいちゃいけない……)


 桃一郎はただ、村から、ミコトから、すべてから遠ざかろうと歩き続けた。

 けれど――


 ドサッ……


 力尽きた身体は、その場に崩れ落ちた。

 草の香り、土の冷たさが頬に触れる。


 (もう……いい……このまま、全部……終わってくれ……)


 目を閉じ、桃一郎は静かに意識を手放そうとした。


 その時だった――


 「さぁ、機は熟したな……久しぶりだ、桃一郎よ」


 ぬるりと、闇の中から声が滲み出す。

 ゆっくりと、黒いローブを纏った男が姿を現した。

 その存在は、まるで空間そのものが歪んだかのような異様さを帯びていた。


「……だ、誰だ……」


 桃一郎の声は、かすれていた。


「覚えていないのも無理はない。俺の名は――オロチ。お前の“親”だ」


「……な、何を……っ」


「聞いているだろう?あの男から。十年後、お前を“迎えに来る”と」


 桃一郎の瞳が揺れた。

 脳裏に、かつて養父から聞いたあの言葉が蘇る。


「まさか……大金を積んで俺を……あんな家に……っ」


「“捨てた”だと? 違うさ。置いたんだよ、最高の“土壌”に。お前が育つには、あれ以上ない“環境”だった」


「ふざけるな……!! あれのどこが環境だ!! あれは地獄だったんだぞッ!!ミコトと俺が、どんなに苦しんだか!!」


「だが、その地獄のおかげで、お前はこうして“目覚めかけている”ではないか」


「な…何を…目覚め…?」


「ところで、“ミコト”という名が出たな? もう一人いたのか……ほう、それは興味深い」


「ミコトは俺の……大切な兄弟だ。あいつといなければ、俺は……俺は、今ここにいなかった」


「“情”か……おもしろい……ならば、彼に会いに行こうか?」


「ダメだ……もう……ミコトには……近づくな……っ!」


 桃一郎の声は震えていた。自分の中にある“もう一人の自分”――

 それが、ミコトに牙を向くのではないかという恐怖に。


「暴走が怖いか? ならば教えてやろう」


 オロチの声は、滑るように低く、不気味な響きを伴っていた。


「その黒い煙……俺は“影力”と呼んでいる。

 それは“悪意”だ。君は悪意の結晶。悪意の具現化。

 怒り、恨み、自己否定……それが形を持ち、世界に牙を剥く」


「悪意の結晶?…影力……俺の……中の……」


「そうだ。君は知らず知らずのうちに、それを育ててきた。

 だが、覚醒にはもう少しだけ……“きっかけ”が必要だ」


「くっ……全部、話せ……! 俺に、真実を教えろ!!」


「ふふ……そう言うと思った。だが、知るにはまだ早い。

 さぁ、少し眠ってもらおうか」


 オロチの手刀が、無駄のない動きで桃一郎の鳩尾を突いた。

 意識が、ふっと闇に沈む。


「くくく……やはり君は、最高の“素材”だよ。

 ミコト……だっけ? いい情報を聞いた。

 最後の“引き金”は、そいつで決まりだな」


 オロチはぐったりとした桃一郎を肩に担ぎ上げる。

 その足取りは迷いなく、村へ――“計画”の核心へと向かっていた。


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