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モーモー太郎伝説  作者: おいし
第三章
80/122

【第80話】村の秘密〜禁書編〜

 静かな空気の中、ミコトはゆっくりと目を開けた。


 「……ここは……?」


 視界がまだぼんやりと霞んでいる。

 目を擦ると、部屋の隅で誰かの背中が揺れているのが見えた。椅子に腰かけ、本を手にしているのは――オウエンだった。


 「おう、起きたか」

 顔を上げたオウエンが柔らかく微笑む。

 「ここは祠から少し離れた空き家だ。よほど疲れていたんだろう、丸一日眠っていたよ。……具合はどうだ、ミコト君?」


 ミコトは、まだ夢の続きのような現実感のない感覚の中で、体を起こす。


 「……僕の体から、変な光が……。今でも、あれが何だったのか……信じられません」


 「無理もないさ。私だって驚いたよ。まさか、君にあのような特別な力があったとはね」


 「特別なんて……そんなこと、僕にあるわけない……。何の取り柄もないまま、生きてきただけなのに……」

 ミコトは声を落とし、視線を布団に落とす。


 オウエンはしばし黙り、目を細めた。


 「自分を悲観するな。誰しも、自分では分からない力を持っているものだ。……それよりも、今後のことだが――」


 その瞬間、ミコトの顔が緊張に染まった。


 「……そうだ! 桃一郎を探さなきゃ……! あの様子じゃ、また何をするか……」

 慌てて身を起こそうとするミコトを、オウエンはそっと手で制した。


 「まあ、落ち着きなさい。行く前に、君にどうしても話しておかなくてはならないことがある」


 「……話?」


 「そう。黒い煙のこと――そして、桃一郎君についての話だ」


 ミコトの目が大きく見開かれた。


 「知っているんですか!? あいつに何が起きてるのか……何か知ってるんですか!?」


 ミコトは布団を押しのけ、身を乗り出した。


 「落ち着きなさい。あの黄金の光の一件からしても、君がこの出来事と“無関係”だとは、私には思えない。……だからこそ、今後は私と行動を共にしてもらう」


 「……っ。教えてください、オウエンさん。もう、何が正しくて、何を信じていいのか分からないんです……」


 オウエンは一度視線を窓の外へ向けた。

 そこには、朝日を浴びて静かに揺れる桃の木々が、果てなく広がっていた。


 「ミコト君――まずは、この桃源村の“真実”を知る必要がある」


 「真実……?」


 「そう。この村を覆う桃の木々……一見するとただの美しい景色だが――実は、すべて意味を持って存在している。

 言い伝えによれば、これらの木々は三柱神に導かれ、先人たちの“魂”が宿ったものだという。そうだろう、君も聞いたことがあるはずだ」


 「……はい。この村では、ずっとそう語られてきました」


 「そして、もうひとつ重要な伝承があるな。

 “桃の木に祈りを捧げれば、心が洗われ、どんな苦しみも癒される”――と」


 「……ええ。けど、そんなの……ただの迷信だと……」


 オウエンは、ミコトの方へと向き直った。

 その目は真っすぐに、揺るぎない。


 「いや――この言い伝えは、真実だよ。

 桃の木には本当に、人の心を“浄化する力”が宿っているんだ」


 「え……そんな、まさか……!」


 「信じ難いのも無理はない。だが昨日、君は確かに“三神獣”を目の当たりにしただろう? あの存在が現れた時点で、この村が特別な場所であることは否定できないはずだ」


 「……っ。でも……それが、桃一郎とどう関係してるって言うんですか?」


 「それを話すには、少し昔のことを語らなければならない」


 オウエンの声は、深い静けさの中で落ちていった。

 その言葉の奥に、決して軽くはない過去と、避けられぬ未来があった。


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