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モーモー太郎伝説  作者: おいし
第一章
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【第8話】桃水

おじいさんとおばあさんは、静かに小瓶を傾け、その中に満ちる謎の液体を一気に飲み干した。


「桃水だと!? くそっ、厄介なものを……!」

ネクターが舌打ちしながら後ずさる。


カランカラン……


空になった小瓶が地面を転がる。


一瞬の静寂。

そして――それは始まった。


「ゔゔゔぅ……」


おじいさんとおばあさんが低く唸り声をあげる。

その瞳は血走り、全身の血管が浮かび上がるように脈打つ。

異様な変化に、モーモー太郎は驚愕した。


「お爺様!? お婆様!! どうしたのですか!?」


だが、二人の耳には届かない。



「ヴァァァァァァ……ッ!!!」


次の瞬間、彼らの肉体が異常な変化を遂げ始めた。

皺の刻まれた老体がみるみるうちに膨れ上がり、筋肉が隆起する。

枯れ枝のようだった腕は、まるで鋼の塊のように盛り上がり、

背筋はまるで戦士のそれのように張り詰めた。

年老いた二人は、今やまるで全盛期を超えた神話の戦士のような姿となっていた。



「なっ、なんだこれは……」

モーモー太郎は唖然と立ち尽くすしかなかった。


一方、ネクターはその変貌を見ながら不敵な笑みを浮かべる。

「ククク……やはりな。桃水を使うとは、命知らずめ……」


「お前……知っているのか!? 一体これは……!」

モーモー太郎が食い下がる。


「ふん、教えてやろう。桃水とはな――命を削る秘薬よ」


「なに……!?」


「“ある桃”から精製された激薬でな、飲んだ者には一時的に絶大な力を与える。だがその代償は――“命”そのものだ。飲んだが最後、数分と生きてられん」


「そんな……!!」

 モーモー太郎は震える。


「ははは!! 驚いたか!? 見てみろ、この異形の姿を! これは人間の枠を超えている! 理解できずとも、これが現実だ!!」


「お爺様……お婆様……なぜ、こんなものを……!」


「ヴゥゥ……モーモー太郎や……」

おじいさんは、変貌した肉体のまま言葉を絞り出す。


「その男の言う通りじゃ……ワシらの命はあとわずか……じゃが、それで構わん……」



 そして――


 ズドン!!


おじいさんの巨大な足が地面を砕き、爆発的な推進力でネクターとの距離を詰めた。


「すぐに終わらせる……!!」


「フン! 老いぼれが……!」


おじいさんの拳が風を切る。


ブォォン――!


音速を超えんばかりの速さで振るわれる拳。

ネクターは即座に身を翻し、辛うじて回避する。


直後、拳が後方の大木を捉えた。



ドゴォォォォン!!!!



巨木が粉砕され、轟音とともに倒れる。


「ぐっ……!! なんて威力だ……!!」

ネクターの頬を冷や汗が伝う。


だが、次の瞬間。


砂煙の中から、鋭い影が飛び出した。


「油断したね!」


おばあさんが、圧倒的な蹴りを繰り出す。



ドガァァッ!!


ネクターの脇腹に炸裂。


「ぐあっ……!!!」


ネクターは吹き飛び、地面を転がる。

吐血し、呼吸が乱れる。


「この老いぼれが‥」


「ふぅ……ふぅ……」

おばあさんが息を荒げる。


だが、その姿は限界に近づいていた。

桃水の影響――命の炎が、急速に燃え尽きようとしていたのだ。


ネクターもまた立ち上がるが、その表情は険しい。



しかし――



その時、ネクターは素早く"モーモー太郎"へ駆け寄った。


シャキン……!!


剣を抜き、モーモー太郎の喉元に突きつける。


「くくく……さあ、どうする?」


「貴様……!」


「動けば、この牛の命はないぞ!!」


「くっ……!」


おじいさんとおばあさんの表情が凍りつく。


「老いぼれども、もう命が尽きるのは時間の問題だ……なに、無駄死にする必要はないだろう?」


「お爺様!! お婆様!!僕の事はいいから、もう無理はしないで!!」


「モーモー太郎や……すまぬ……」

おじいさんは苦しげに呟いた。



その言葉とともに――


 ドサッ……


おじいさんとおばあさんが、膝から崩れ落ちる。


「くそっ……やはり……ワシらでは……」


「お爺様!!」


「モーモー太郎や……このだんごは……渡してはならん……」


「な……何なんですか!? 一体、そのだんごは……!」


「…………」


ネクターは、倒れたおばあさんに歩み寄る。


「手こずらせやがって……その巾着をよこせ」


ブチッ

巾着を奪い取る。


「無念……」


「一体、何のためにこんなことをするんだ!!」

モーモー太郎が叫ぶ。


ネクターは、不気味な笑みを浮かべた。


「世界のためさ……」


「な、何だって……?」


ネクターはモーモー太郎の元へ歩き出す。


「新世界創造のため、三神獣を手に入れるんだよ」


「三神獣……?」


モーモー太郎はその言葉の意味が飲み込めず、呆然とする。

そしてネクターはモーモー太郎の喉元に剣を向けた。


「ふん、知らなくて当然だ。だが、知る必要もない」

ネクターは剣を振り上げ、無慈悲な一撃を振り下ろそうとした。


 ――その瞬間だった。

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