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モーモー太郎伝説  作者: おいし
第二章
64/122

【第64話】暗雲

 モーモー太郎は怒りのままにホレスへと拳を振るった。


 すでに深い傷を負ったホレスには、抵抗する術すら残されていなかった。


「はぁっ……はぁっ……!」


 息を荒くしながらも、モーモー太郎はなおホレスを睨み据える。


「な……何をそんなに感情的になっている……こいつの役目だったんだ。ただそれだけの話だろう」


 ホレスの言葉に、モーモー太郎の目が怒りに燃える。


「“役目”だと……? 身を挺してお前を庇ったんだぞ!? 命懸けで守ろうとしたんだ! あいつは……お前の“仲間”だったんだぞ!!!」


 その言葉に対し、ホレスは薄く笑みを浮かべた。


「仲間……ふっ、笑わせるな。そんな幻想、世の中には存在しない。あるのは強者と弱者、支配する者とされる者……それだけだ」


「……ホレス、お前は本当に……悲しい奴だな」


 モーモー太郎はその胸倉を掴み、怒りの震えを抑えきれず声を震わせる。


 だが――ホレスもその手を掴み返し、狂気を帯びた目で吠えた。


「貴様らには……わからないんだ!! 私の苦悩が! この憎しみが!! 私は世界が――すべてが、憎いんだ!!!」



 その瞬間だった。



 ゴゴゴゴゴゴ……!



 ホレスの身体から、黒く濁った影力が噴き出した。


 それはまるで炎のように揺らめき、やがて禍々しく燃え上がっていく。


「な、なんだ……!? この影力……!」


 モーモー太郎と鬼はすぐに距離を取った。


「これは……悪意じゃ。人の負の感情を源にした影力……だが、これは尋常ではない。見るだけで気を狂わされそうになる……!」


 鬼の声にも緊張が走る。


 そして、肝心のホレス自身すら――その影力を制御できていなかった。


「ぐぅっ……あああああ!!」


 頭を抱え、うめき声をあげるホレス。まるで自分の中から溢れ出す“なにか”に、肉体も精神も喰い破られそうになっているかのようだった。


「あやつは……自らの悪意に呑まれておる。力を欲しすぎたがゆえに……今、己がその代償を払おうとしておるんじゃ」




その時___



 ズズズズズ……!!



 影力の膨張とともに、空が不穏に唸りをあげた。


 雷鳴が低く、空の彼方から響く。


「な、なんだ……!? まだ昼のはずなのに……!」


 ヨサクが空を見上げる。


 見る間に、戦場の上空に分厚い暗雲が渦巻き始める。まるで天地がホレスの悪意に反応しているかのように、光は一気に遮られ、世界が灰色に塗りつぶされていく。


 その影力は、周囲の風景すら歪め、空気を揺らしていた。


「ぐあああああああああ!!!!!」





 ホレスの咆哮が戦場を揺るがしたその瞬間――




 ピシィィ……ン



 空を引き裂くように、一筋の光が走った。



「なんだ…あの光は…」



 空を覆っていた暗雲が、ゆっくりと……本当にゆっくりと、その中心を裂かれ始める。



 その裂け目から、静かに差し込む光。



 冷たい灰色に染まった空に、異質な輝きが注がれる。


 「……っ」


 誰もが言葉を飲んだ。



 その光はまるで“何か”を導くかのように、ホレスの頭上を静かに照らし出す。



 しん……と、空気が静まり返る。


 まるで時が止まったかのような錯覚。




 そして――


 光の中から、“それ”は現れた。




 すうっ……すうっ……



 風もないのに、枝が揺れている。


 空からゆっくりと、まるで重力すら無視して舞い降りてくる"巨木"。



 金色に透き通る葉。



 幹は白金に輝き、ねじれた樹皮が脈を打つように脈動している。


 そして、その根元には……黒い煙のような影が纏わりついている。


 不気味な静寂の中、神々しさと同時に、どうしようもない“おぞましさ”が滲んでいた。



 「な、なんだ……あれは……」



 誰かが震える声で呟く。


 それは美しさと恐怖が絶妙に同居する“存在”だった。


 見る者の心を奪う。だが近づいてはいけないと、本能が警告している。



 空から現れたのは…



 ――桃の木。



 悪意を糧に育つ、一本の伝説の木。



 「……間違いない。あの悪意に満ちた禍々しい影力……やつに引き寄せられたんじゃ」


 鬼がぽつりと呟いた。


 空から降り立ったその桃の木は、ただそこに“存在する”だけで、戦場全体の空気を変えた。


 ――悪意のすべてを集めし、災厄そのものだった。

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