【第49話】二対二
――双子の特秀との戦闘が、始まった。
ザッ!
鉤爪が鋭く空を切り、桃十郎の頬をかすめる。
風を裂く速さ。影のような動き。
(速い……反応だけで精一杯だ!)
タオズとポクスンの連携攻撃は、一切の隙を与えなかった。
桃十郎とヨサクは防戦一方――まともに反撃する余裕すらない。
「大丈夫ですか、桃十郎さん!」
「……予想以上に速いな……こうなったら――!」
――ゴゴゴゴゴゴッ!!
桃十郎の全身から、爆発的に影力が噴き出す。
空気が揺れ、地面が低く唸る。
その気配に、タオズとポクスンが口元を吊り上げた。
「ほぅ……中々やるな」
「さすがは“オリジナル”か……面白くなってきたぜ」
「……俺たちもやるか、兄弟」
――ゴゴゴゴゴッ!!
二人の身体からも黒い影力が噴出する。
禍々しく、重く、息苦しいほどの圧力が周囲を覆い尽くす。
「うっ……この気配、ヤバい……」
桃十郎が身構える。
影力と影力のぶつかり合い。
地鳴りが響き、空気が唸る。
その激しさに、周囲の兵たちはもはや戦いに割って入ることすらできず――ただ、見守るしかなかった。
⸻
二対二――互角のぶつかり合い。
だが、それはすぐに“均衡”を超えていく。
スピードと立体機動に優れたヨサク。
剣術と爆発力を誇る桃十郎。
まるで計算されたかのように、二人の動きは噛み合っていた。
背中を預け、隙を補い合う。
初めてとは思えぬ連携。
(……不思議だな。こいつとなら、戦える……!)
桃十郎は心のどこかで、そう感じていた。
一方のタオズとポクスンは、まるで一つの命のように動き、圧倒的な連携で二人を追い詰めてくる。
息もつかせぬ攻防の末――
――ガンッ!
鈍い衝突音。
桃十郎の影力を纏った剣が、ポクスンの腹部を斬り裂いたのと同時に、ヨサクの一閃がその背を捕らえる。
「ドオオオオオン!!」
二人の特秀が、爆風とともに吹き飛ぶ。
「ヨサク!いけるぞ!」
「……はい、行きましょう……っ、はぁ……っ、はぁ……」
だが――ヨサクの呼吸は、明らかに乱れていた。
桃ブーツによる身体の負荷。動きは俊敏でも、消耗は激しい。
(やはり……三種の神器は、使う者を選ぶ……!)
その時――
――ガラガラ……
崩れた瓦礫の中から、タオズとポクスンがゆっくりと起き上がる。
「チッ……あいつら……調子乗りやがって……」
「殺す。絶対に殺す……!」
その目に、明らかな殺意と狂気が宿っていた。
「次で決めるぞ、ヨサク!!」
桃十郎が声を上げる。
ヨサクも、小さく頷く。
二人が一斉に地面を蹴り、双子との距離を一気に詰めた――その瞬間。
――ガクン。
ヨサクの膝が崩れた。
「ヨサクッ!?」
その身体が、限界を迎えていた。
「……くっ……!」
「おいおい、弟よ。あのヒョロいの、もう動けねぇらしいぜ?」
「こりゃチャンスだな!」
――グサッ!!
ポクスンの鉤爪が、容赦なくヨサクの右足に突き刺さる。
「ぐぁああああっ!!」
悲鳴が響く。
「ヨサク!!」
桃十郎がすぐさま駆け寄り、ポクスンを剣で弾き飛ばす。
「す……すみません……。右足を……やられました……!」
出血がひどい。立つことすらままならない。
「その足じゃ、もう……戦えない……!」
すると、ヨサクが静かに口を開いた。
「桃十郎さん……お願いがあります。
――この桃ブーツを、あなたが履いてください」
「……な、何だって!?俺が……?」
桃十郎の目に動揺が走る。
「あなたなら、きっと使いこなせます……!
迷っている時間はありません、早く!!」
そう言うと、ヨサクは桃ブーツを脱ぎ、自らの手で桃十郎に差し出した。
――パシッ。
桃十郎が受け取る。
(これが……三種の神器、“桃ブーツ”……!)
意を決し、桃十郎は両足を差し入れる。
――ゴゴゴゴゴゴッ!!
瞬間、足元から轟くように影力が噴き出した。
「うっ……!!」
凄まじい衝撃が全身を駆け抜ける。
だが、同時に感じる――かつてない力の“拡がり”。
「す、すごい……!」
身体が軽い。
意識が足元へと集中する。
影力が渦を巻くように脚へとまとわりつく。
「これが……桃ブーツの力……!」
桃十郎の背に、桃色の風が舞った。
次の瞬間――
戦場に、新たな疾風が生まれようとしていた。