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モーモー太郎伝説  作者: おいし
第二章
49/122

【第49話】二対二

 ――双子の特秀との戦闘が、始まった。


 ザッ!


 鉤爪が鋭く空を切り、桃十郎の頬をかすめる。


 風を裂く速さ。影のような動き。


(速い……反応だけで精一杯だ!)


 タオズとポクスンの連携攻撃は、一切の隙を与えなかった。

 桃十郎とヨサクは防戦一方――まともに反撃する余裕すらない。


「大丈夫ですか、桃十郎さん!」


「……予想以上に速いな……こうなったら――!」


 ――ゴゴゴゴゴゴッ!!


 桃十郎の全身から、爆発的に影力が噴き出す。

 空気が揺れ、地面が低く唸る。


 その気配に、タオズとポクスンが口元を吊り上げた。


「ほぅ……中々やるな」

「さすがは“オリジナル”か……面白くなってきたぜ」


「……俺たちもやるか、兄弟」


 ――ゴゴゴゴゴッ!!


 二人の身体からも黒い影力が噴出する。

 禍々しく、重く、息苦しいほどの圧力が周囲を覆い尽くす。


「うっ……この気配、ヤバい……」

 桃十郎が身構える。


 影力と影力のぶつかり合い。

 地鳴りが響き、空気が唸る。


 その激しさに、周囲の兵たちはもはや戦いに割って入ることすらできず――ただ、見守るしかなかった。



 二対二――互角のぶつかり合い。


 だが、それはすぐに“均衡”を超えていく。


 スピードと立体機動に優れたヨサク。

 剣術と爆発力を誇る桃十郎。


 まるで計算されたかのように、二人の動きは噛み合っていた。


 背中を預け、隙を補い合う。

 初めてとは思えぬ連携。


(……不思議だな。こいつとなら、戦える……!)


 桃十郎は心のどこかで、そう感じていた。


 一方のタオズとポクスンは、まるで一つの命のように動き、圧倒的な連携で二人を追い詰めてくる。


 息もつかせぬ攻防の末――



 ――ガンッ!



 鈍い衝突音。

 桃十郎の影力を纏った剣が、ポクスンの腹部を斬り裂いたのと同時に、ヨサクの一閃がその背を捕らえる。


「ドオオオオオン!!」


 二人の特秀が、爆風とともに吹き飛ぶ。


「ヨサク!いけるぞ!」


「……はい、行きましょう……っ、はぁ……っ、はぁ……」


 だが――ヨサクの呼吸は、明らかに乱れていた。

 桃ブーツによる身体の負荷。動きは俊敏でも、消耗は激しい。


(やはり……三種の神器は、使う者を選ぶ……!)


 その時――


 ――ガラガラ……


 崩れた瓦礫の中から、タオズとポクスンがゆっくりと起き上がる。


「チッ……あいつら……調子乗りやがって……」

「殺す。絶対に殺す……!」


 その目に、明らかな殺意と狂気が宿っていた。


「次で決めるぞ、ヨサク!!」

 桃十郎が声を上げる。


 ヨサクも、小さく頷く。


 二人が一斉に地面を蹴り、双子との距離を一気に詰めた――その瞬間。


 ――ガクン。


 ヨサクの膝が崩れた。


「ヨサクッ!?」


 その身体が、限界を迎えていた。


「……くっ……!」


「おいおい、弟よ。あのヒョロいの、もう動けねぇらしいぜ?」


「こりゃチャンスだな!」


 ――グサッ!!


 ポクスンの鉤爪が、容赦なくヨサクの右足に突き刺さる。


「ぐぁああああっ!!」


 悲鳴が響く。


「ヨサク!!」


 桃十郎がすぐさま駆け寄り、ポクスンを剣で弾き飛ばす。


「す……すみません……。右足を……やられました……!」


 出血がひどい。立つことすらままならない。


「その足じゃ、もう……戦えない……!」


 すると、ヨサクが静かに口を開いた。


「桃十郎さん……お願いがあります。

 ――この桃ブーツを、あなたが履いてください」


「……な、何だって!?俺が……?」


 桃十郎の目に動揺が走る。


「あなたなら、きっと使いこなせます……!

 迷っている時間はありません、早く!!」


 そう言うと、ヨサクは桃ブーツを脱ぎ、自らの手で桃十郎に差し出した。


 ――パシッ。


 桃十郎が受け取る。


(これが……三種の神器、“桃ブーツ”……!)


 意を決し、桃十郎は両足を差し入れる。


 ――ゴゴゴゴゴゴッ!!


 瞬間、足元から轟くように影力が噴き出した。


「うっ……!!」


 凄まじい衝撃が全身を駆け抜ける。

 だが、同時に感じる――かつてない力の“拡がり”。


「す、すごい……!」


 身体が軽い。

 意識が足元へと集中する。

 影力が渦を巻くように脚へとまとわりつく。


「これが……桃ブーツの力……!」


 桃十郎の背に、桃色の風が舞った。


 次の瞬間――

 戦場に、新たな疾風が生まれようとしていた。

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