【第48話】双子の特秀ランク
ヨサクの姿はまさに風のようだった。
桃ブーツが描く桃色の軌跡が戦場を駆け抜け、次々と桃人たちが地面に倒れていく。
だが、ひとりとして命を奪ってはいなかった。
攻撃は急所を外し、意識だけを刈り取る。
その技は正確で、美しく、そして圧倒的だった。
「キタジマ、お前んとこのリーダー……すげぇよ……」
桃十郎は目を見張る。
「圧倒的だ……!」
キタジマは誇らしげにうなずいた。
「リーダーは“欠陥品”と呼ばれて生まれました。
――けれど、リーダーは諦めませんでした。
血の滲むような努力の果てに、影力を自力で目覚めさせたんです」
「……そうだったのか……」
「だからこそ、彼は言うのです。“もう二度と、自分のような桃人を生ませたくない”と。
それが、リーダーの原動力です」
キタジマの声には、揺るぎない信頼がこもっていた。
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「みんな、あと少しだ!押し返せッ!!」
サブロウの声が響く。
ヨサクの奮戦により、同盟軍は着実に戦況を押し戻しつつあった。
だが――
その時だった。
「サブロウさん!後ろだッ!!」
ヨサクの鋭い叫びが飛ぶ。
サブロウが反射的に振り返る。
その背後――砂を蹴り、二人の桃人が猛スピードで迫っていた。
双刃の鉤爪を手に、闇を裂くような突進。
目で追えぬほどの速さ。明らかに、他の桃人とは違う。
(なんだこいつら!速い!!)
「くっ、間に合わないっ――!!」
サブロウが剣を抜き、一体の攻撃をギリギリで受け止める。
――ガキン!!
その瞬間、別方向から、もう一体が迫る。
――ブシュッ……
鋭い鈍音。
血が舞う。
「ぐはっっ……!」
サブロウの脇腹に、鉤爪が深々と突き刺さっていた。
身体がよろめき、膝をつく。
「サブロウさん!!」
ヨサクが即座に割って入り、二人を引き離す。
「……はぁ、はぁ……大丈夫、だ……」
サブロウは血を流しながらも立ち上がろうとする。
(背後を取られた……だが、それだけじゃない。気配すら感じなかった。油断はしていない……明らかに、他の桃人とは“格”が違う)
二人の桃人は、細身で長身。両腕には鋭利な鉤爪。
長髪を横に流し、片目だけを覗かせている。
左右対称――まるで鏡写しのような姿。
その異様な気配に、ヨサクの顔が強張る。
「……まさか……こいつら、“特秀”。
なぜこの町に……」
同盟軍の兵たちが凍りついた。
「こいつらは――双子の特秀ランク。
タオズとポクスンです」
「双子の……特秀だと!?」
桃十郎が驚愕の声を上げた。
「桃人12号、13号。ホレス直属の精鋭です。
力、速度、連携――どれも桁違い。こちらも最大警戒を」
タオズとポクスンが、同時に口を開く。
「おいおい、こいつ、俺の攻撃受けやがったぜ?」
「ギャハハ。久しぶりに当てる前に止められたぜ?でもまぁ――脇腹はえぐったし、もう立てねぇだろ」
確かに、サブロウの傷は深く、出血も激しい。
(……くそっ……見た目に反して、動きも連携も異常なまでに鋭い……)
「サブロウ、一旦下がってろ。今度は俺の番だ」
桃十郎が一歩、前に出る。
タオズが片眉を上げた。
「ん?弟よ、見ろよ。あれ、“オリジナル”じゃねぇか?」
「本当だ。まさか、ペーシュの奴……あんなガキにやられたのか?マジかよ……!」
二人は嘲るように笑った。
だが、桃十郎は静かに口を開く。
「なあ――お前たち、俺たちと一緒に来ないか?
ホレスの命令に従わなくてもいいんだ。
お前たちにも、別の生き方があるはずだ」
以前なら、桃十郎が決して口にしなかった言葉だった。
解放軍と出会い、信念に触れた今――彼の中で何かが変わり始めていた。
だが――
「……は?何言ってんだコイツ?」
「オリジナルってのは脳みそイカれてんのか?
ああ、やべぇやべぇ。ホレス様に聞かれちまうぜ、ガハハッ!」
タオズもポクスンも、聞く耳を持たない。
その瞳に宿るのは、ただの狂気と忠誠のみ。
「――ダメか。まぁ……わかってたけどな」
桃十郎が静かに剣を握り直す。
「桃十郎さん、気をつけて!
あの双子は、連携こそが最大の武器です!」
ヨサクと桃十郎も、臨戦態勢を整える。
「さあ――来いよ!」
新たな激戦の幕が、静かに上がろうとしていた――。




