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モーモー太郎伝説  作者: おいし
第二章
47/122

【第47話】突撃

 300人の同盟軍が、桃人最大の占領地――西の町に到達した。


「……う、嘘だろ……」


 サブロウが、言葉を失う。


 そこはもはや“町”と呼べる代物ではなかった。

 家屋は焼かれ、田畑は荒れ果て、空気には焦げた臭いが残っている。

 遠くからは、弱々しい叫び声が風に運ばれてきた。


 絶望の光景だった。


「こんな……こんなことをしておいて……説得できるってのかよ……」


 握りしめた拳が震えていた。


「サブロウさん……今は、堪えてください」

 キタジマがそっと言う。

「桃人たちを、どうか恨まないでください。彼らは……心を奪われているんです」


「くっ……」


 サブロウは唇を噛みしめ、怒りを飲み込んだ。


 その時――


「……来るぞ。桃人だ」


 桃十郎が低くつぶやく。

 砂煙の中から、桃人たちが現れる。人数は二十ほど。


 ひとり、にやついた桃人が声を上げた。


「おいおい、なんだぁ?この人数……俺たちの町に何しに来た?」


「へっ、すげー数だな。雑魚どもが群れて……威勢だけは一人前だな」


 あざける声が飛ぶ中、ヨサクが一歩前に出た。


「――我々は解放軍だ。

 噂は耳にしているだろう。

 もう王族に従う必要はない。今からでも遅くない。解放軍に入れ!」


 しかし、返ってきたのは――嘲笑だった。


「はっはっはっはっ!!バッカじゃねぇの!?

 俺たちは好きでやってんだよ!

 人間を踏みにじり、働かせ、飽きたら捨てる――

 それが“俺たちの自由”なんだよ!」


 サブロウたちレジスタンスの怒りが一斉に燃え上がった。


「サブロウ、待て。こいつらは悪だが……殺しはもう、したくない」

 桃十郎が静かに言った。


「……桃十郎……分かってるさ。だが、感情を殺すのは簡単じゃねぇ……」


 だが、サブロウは一歩も退かなかった。


 ヨサクの声が響く。


「あなた方に、言葉が届かないことは初めからわかっていました。

 ならば――一度、黙ってもらう!」


 ヨサクが声を張り上げた。


「同盟軍、突撃用意!!」


 「うおおおおおおお!!」


 三百人の咆哮が大地を揺るがす。


 しかし、桃人たちも応じるように集結を始める。

 その数、優に百を超えていた。


 「うぉぉおおおおっ!!」


 怒声が交錯し、空気が裂ける。


「サブロウさん、桃十郎さん。ご無事を――」

 キタジマが言い残す。


 二人は静かにうなずいた。


「突撃――ッ!!」


 ドドドドドドドド!!


 地響きが走る。

 そしてついに、両軍が激突した。


 ガンッ!! ギャアッ!!


 鋼の刃がぶつかり、怒号が飛び交う。


「油断するなッ!!相手は桃人だ!!」


 サブロウの号令が響き渡る。


_______


 解放軍との契約。

 それは、ただの軍事同盟ではなかった。


 「桃人を殺さないこと」――それが、唯一にして最大の条件だった。


 サブロウたちレジスタンスにとって、それは戦いにおける大きな“枷”となった。

 桃人一体は人間十人分の力を持つと言われる。

 命を賭ける戦場で、“殺すな”という制約を背負うことが、どれだけ危ういことか。


 それでも彼らは、剣を振るいながら急所を外し、意識を奪う技を磨き、戦っていた。


 斬れぬ刃で、命を賭ける――その戦いの意味を、サブロウは噛み締めていた。


「これで殺すなって方が……難しいだろ……!」


 サブロウは苦しみを吐き出すように叫び、再び剣を構えた。


 怒りも、恐れも、そして迷いさえも――飲み込んで。

 彼らは、ただ信じた道を貫こうとしていた。

 その刃は人を斬らずとも、心に届くと信じて。


 だが、現実は非情だった。


 ――戦況は、徐々に同盟軍が押され始めていた。


 圧倒的な力を誇る桃人たち。

 いくら鍛え上げた精鋭であっても、“殺さずに制圧する”という制約の中での戦いは苛烈を極める。


 仲間の悲鳴が、次々に上がる。


 そして――その光景を静かに見つめていた一人の男が、静かに腰を上げた。


 ヨサクである。


「……頃合いですね」


 彼は羽織っていたマントを脱ぎ捨てる。


 細身ながら、鍛え上げられた体。

 しかし、何よりも目を引いたのは――その足元だった。


「なんだ、あの靴……?」


 サブロウと桃十郎が、同時に目を奪われる。


 ヨサクの脚には、膝まで覆う桃色の靴が装着されていた。

 だが、ただの靴ではない――


 そこからは、凄まじい影力が噴き出していたのだ。


「ヨサク……すごい影力だ……!」


 桃十郎が思わず呟いたその時――


 副長・キタジマが説明する。


「あの靴は、ただの装備ではありません。

 ――三種の神器のひとつ、“桃ブーツ”です」


「三種の……神器!?」


「そう。あなた方の“桃ブレード”と同じく、初代・桃の集いの遺産。」



三種の神器・其の弐――桃ブーツ


 桃ブーツは、神獣“金猿こんえん”――

 通称“大猿”の骨格と毛皮から創られた特別な装具である。


 この靴を履いた者は、音すら置き去りにする神速で大地を駆け、

 敵の目にも止まらぬ速さで動くとされる。


 その速度ゆえ、制御するには尋常ならざる才能と精神力が必要とされ、

 歴代の使用者の多くは使いこなせずに倒れたという。


 しかし――初代は、それを完全に制御していた。


 そして今、ヨサクもまた――その力を引き継ぐ者である。



 次の瞬間――


 スッ……


「えっ!?」


 ヨサクの姿が、突如として視界から消えた。


「どこへ行った!?今の一瞬で――」


 ――ドガガガガ!!


 爆音が、戦場の最前線で炸裂する。


「ぐああああっ!!」


 数体の桃人が、なぎ倒されるように吹き飛んだ。


 風を裂き、ヨサクが走る――いや、“舞って”いた。


 あまりの速度に、誰の目にも彼の姿は映らない。


「な、なんだと……!?あの速さ……!」


 サブロウと桃十郎が、一瞬だけ――

 剣を振るうヨサクの“残像”を視認した。


「桃ブーツ……あれは、本物だ……!」


 キタジマの声が震える。


「目にも止まらぬ速さで駆け抜け、敵を断つ。

 ――そして、それを使いこなせるのが我らのリーダー、ヨサク様なのです!」


「す、すげぇ……!」


 桃十郎が目を見開き、絶句する。


 風と影が交錯する戦場で、

 今――神速の戦士が、解き放たれた。

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