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【第43話】三種の神器

 _____


 初代の志を継ぐ者たち――「桃の集い」。

 その礎を築き、伝説の扉を開いた最初の男がいた。


 鬼を封印した救世主。又の名を桃の集い、初代。


 言い伝えによれば、初代は一振りの剣で山を裂き、風とともに舞い、時に空すら翔けたという。


 神にも等しき力を持ち、彼は三つの特別な武具を身に纏っていた。


 後にそれは「三種の神器」と呼ばれた。


 _____


 三種の神器・其の壱 桃ブレード


 三種の神器には、三神獣の素材が使われている。


 その一つ、「桃ブレード」は、大いなる金狼――“大狼”の牙を素材に鍛え上げられた剣である。


 刃に宿る霊力は凄まじく、ひとたび振るえば大地を裂き、海を割り、嵐を従えるとも謳われた。


 その圧倒的な力は、人の手には余るとも言われたが、初代は唯一、それを自在に操ったという。


 _____


 やがて、三種の神器は代々「桃の集い」の後継者たちに受け継がれてゆく。


 しかし――時は流れ、桃の集いは解体。


 神器の行方も、歴史の闇へと消えていった。


 ただ一振りだけ、その存在を保ち続けたものがある。


 ――それが、「桃ブレード」であった。


 桃九郎が密かに保管していたその剣は、長きにわたり封印されていた。


 _____


 だが、歴代のどの戦士も「桃ブレード」を真に扱うことは叶わなかった。


 それもそのはず――


 この剣は、生半可な者には決して抜くことすらできぬ。

 なぜなら、桃ブレードは影力を糧としてその真の力を発揮する。


 影力を持たぬ者は、柄を握ることさえ叶わず。


 そして影力を有する者であっても、その力は容赦なく吸い取られ、握った瞬間から体力を激しく消耗させる。


 まさしく――選ばれし者しか、手にしてはならぬ剣。


 もしこの剣を振るう者が現れるとすれば――


 それは、かつての初代に匹敵するほどの力と、覚悟を持った者に他ならない。


 _____


 そして今――

 桃十郎は、ついにその剣を抜いた。


 ――キィィィン…


 抜き放たれた瞬間、空気を震わせるような澄んだ音が響き渡る。

 刀身は淡く桃色に輝き、まるで呼吸をしているかのように脈動していた。


(……実戦で使うのは、これが初めて。いけるか……?)


 桃十郎の胸中には、不安があった。

 この剣を、彼は未だ“使いこなせた”ことがなかったのだ。


(やるんだな、桃十郎。チャンスは一度きりだぞ…)


 サブロウは、その事実を知っていた。

 桃ブレード――


 桃十郎は、“一振り”が限界だった。


 振れば全影力を持っていかれ、次の瞬間には意識すら落ちる。


 だが――


 普通の剣では、ペーシュには傷ひとつ与えられない。

 だからこそ、桃十郎は覚悟を決めた。


「サブロウ、奴の気を引いてくれ!」

「任せとけ!!」


 サブロウが駆け出す。影を裂いてペーシュに斬りかかる。


「ふん……何かを企んでいるようだが、好きにはさせん!」


 ペーシュの目が細められる。

 本能が、あの剣から何か得体の知れない“危険”を感じ取っていたのだ。


 三人の戦闘は苛烈を極めた。


 サブロウは囮となり、巧みに動き回る。

 桃十郎は、ただ一撃にすべてを懸け、ひたすら機を窺う。


 ――外せば終わり。


 だからこそ、迷いも、恐れも、捨てなければならなかった。


「ふん……お前たちが何を狙っているかは知らんが、その貧弱な剣でこの俺を切れると思うなよ」


 ガンッ! ガガンッ!!


 サブロウの剣がペーシュの肉体に弾かれる。

 硬い。まるで鉄壁。だが攻撃を止めない。

 二人の連携が、桃十郎に一瞬の隙を作ることを信じて。


(……隙が、ない……!)


 焦りが胸を焼く。

 影力の消耗も、限界に近づいていた。


「もう時間がない……! この一振りで、必ず仕留める!」


 桃十郎は、静かに剣を構え直す。

 桃ブレードを、今、右手に――


「なっ!? 桃十郎、早まるな!!まだ隙を…! 待て――!」


 サブロウが叫んだ。

 だが、その言葉を聞いて――ペーシュは、気づいてしまった。


「……そうか。それは“一振り”が限界か。そういうことか……」


 ペーシュの目に閃きが走る。


 だが、それでも桃十郎は止まらない。

 疾風のように間合いを詰め、ペーシュの懐へ――

 その剣を、全力で振り下ろした!


「喰らえぇえぇぇえええ!!」


 ――ガンッ!!


 外れた。


 ペーシュは身をかわし、その一撃を回避したのだ。


「フン!バカが……その妙な剣の一振りに賭けて突っ込んでくるなど、正面から当たるわけなかろう!!」


 だが次の瞬間――

 ペーシュの目が、驚愕に見開かれる。


「……な、なに……!? その剣は……!」


 桃十郎が今、握っているのは――普段の剣だった。


「なっ……!? あの剣じゃない……だと!? 一体、いつ――!」


 その一瞬の動揺――まさに“油断”。


 そして――


「なにぃ!? しまっ――!」


「桃十郎、今だあああああ!!」


 サブロウの叫びが轟く。


「特秀ペーシュ……これで終わりだぁ!!」


 ――ズバァァアーーン!!!


 斬撃音が空を裂く。

 桃十郎は、すでに桃ブレードを手にしていた。

 すべては陽動。偽の一撃で目を欺き、致命の太刀を放ったのだ。


「ぐわぁぁぁぁああああああッ!!」


 ――三種の神器・桃ブレード。


 それは、まさに伝説通りの破壊力を宿していた。

 一閃でペーシュの肉体を斬り裂き、鋼の皮膚をも断ち割る。


 凄まじい風圧が周囲の瓦礫を吹き飛ばし、大地すら震える。


 桃十郎の体が、ふらつく。

 その場に膝をつき、意識が遠のいていく――


 だが、最後の一太刀は、確かに届いていた。

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