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【第42話】ペーシュ

 桃十郎は、静かに――目を閉じた。


 ……ゴゴゴゴゴ……


 次の瞬間、体の奥底から“影力”が噴き上がる。

 荒れ狂う闘気が空気を震わせ、広間全体が圧し潰されるような重圧に包まれた。


「……なんだ?」

 ペーシュが眉をひそめ、一歩後ずさる。

 全身の毛穴が総立ちになった。


 ゴゴゴゴゴゴゴ――!


 桃十郎の周囲に、黒い炎のような影が渦を巻いて立ち上る。


 ゆっくりと――桃十郎が目を開く。


 ギラリッ。


「……本気でいくぜ」


 その瞳には、迷いのない闘志と、静かな決意が宿っていた。


「ほぅ……これは楽しめそうだな」

 ペーシュが口角を吊り上げ、獣のような笑みを浮かべる。


「いくぞッ!!」


 ドンッ!!


 地を蹴った瞬間、桃十郎の姿が――消えた。


(なっ……速い!?)


 ドッ!!


 刹那、ペーシュの脇腹に剣が突き刺さる。

 続けざまに――


 ザンッ! ザンッ! ザザザザンッ!!


 怒涛の連撃が降り注いだ。鋭い斬撃が嵐のようにペーシュを襲い、巨体をわずかに揺らす。


「ぐっ……ぬぅぅ……!」


 一閃ごとに肉が裂け、黒い血が飛び散った。


「おりゃあああああああッ!!」


 ――ドゴォオオオオオオンッ!!!


 最後の一撃が炸裂。

 衝撃でペーシュの巨体が吹き飛び、床がめくれ上がる。地面がビキビキと割れ、爆煙が立ちこめた。


 ……しかし――


 煙の中から、重たい足音が響いた。


 ズ……ズン……


 ペーシュがゆっくりと姿を現す。

 確かに傷はついている。だが、それは浅い。まるで鋼鉄の肉体。恐ろしい再生力と防御力だった。


「くっ……これでも……切れねぇのか……」


 桃十郎の顔に、わずかな焦りが滲む。


「はあああああああッ!!」


 ゴゴゴゴゴッ!!


 今度はペーシュから、黒い影力が爆発的にあふれ出す。

 空気が震え、大地が唸りを上げた。


「俺も……本気で行こうか……!」


(なんて影力だ……! 人工桃人のくせに……俺を上回っている!?)


 二人のぶつかり合いは、もはや嵐だった。


「うおおおおおおお!!」

「があああああッ!!」


 刃と拳がぶつかり、衝撃波が空間を切り裂く。

 叫びと叫び、殺意と殺意がぶつかり合う激闘。


 ――その光景を、サブロウはただ見ていることしかできなかった。


(……くそっ……俺の剣じゃ通用しない……!

 俺は……ただの足手まといなのか……?)


 悔しさで拳が震える。歯を食いしばる音が響いた。


 _____


 一方で、桃十郎は死闘の最中――機を窺っていた。


 桃十郎の腰に差された二本の剣。

 一振りは、常に使い続けてきた愛刀。

 だが、もう一振り――


 それは、サブロウ以外、誰も“抜いたところ”を見たことがない封印の刃だった。


 漆黒の鞘に、精密な文様が刻まれた異質な剣。

 刃の模様は妖しく輝き、美しくも禍々しい。目にしただけで、背筋がゾクリとする。


 ――只者ではない。

 仲間全員が、そう感じていた剣。


(このままじゃ、傷一つつけられねぇ……

 ……使うしかねぇな)


 桃十郎の表情に、決意が宿る。


 戦況は少しずつ、しかし確実に傾き始めていた。

 ペーシュの攻撃は重く速く、桃十郎の影力も徐々に削られていく。


(……くそ……やっぱり長くは持たねぇ……)


「――サブロウ!!」


 戦いの合間に、桃十郎が叫んだ。


「“桃ブレード”を使う!! 手伝ってくれ!!」


 その名を聞いた瞬間、サブロウの目が大きく見開かれる。


(まさか……あれを……!)


「……っ、やるしか……ないな!」


 迷いを振り切るように、サブロウは地を蹴った。

 彼の瞳にも、再び闘志の炎が宿る。



 桃十郎は深く息を吸い込み――


 静かに、しかし確かな意志をもって、

 封じられし剣――“桃ブレード”を抜いた。

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