表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/128

【第3話】犬、猿、キジ

 朝――。


 森の小道。

 冷たい風が草の葉を撫で、さらさらと微かな音を立てる。


 モーモー太郎は、その中を歩いていた。

 蹄が土を叩く。こつ、こつ、と一定のリズム。

 だが、その背に張りつく緊張は重かった。


「……港町に着いたら、鬼ヶ島はすぐ近くだ。

 大丈夫……僕なら、きっとできる……」


 小さな声で、自分に言い聞かせる。


 だが、胸の奥では二つの声がせめぎ合っていた。

「できる」という声と、「できるのか?」という声。



 鬼――

 それは、語り継がれる“恐怖”そのもの。

 姿を知る者はほとんどいない。

 ただ「封じられた」と伝えられるだけの、輪郭なき絶望。



 足が止まる。

 わずかに空を仰ぐ。

 曇りもない青空が、妙に遠く感じられた。


 不安が胸を締める、その時――



 ――ガサッ。



 森が動いた。


(なんだ!?)


 モーモー太郎は即座に身構えた。

 心臓が一際大きく鳴る。


 影が三つ――走り抜けた。


 風を切る音。

 土埃。

 獣の匂い。


 やがて姿を現したのは――


 犬。

 猿。

 雉。


 三匹の獣。


 一定の距離を保ちながら、モーモー太郎を真っ直ぐに見つめている。


「な、なんだ……お前たち……」


 応えはない。


 ――ただ見ている。


 その視線に、妙な既視感が胸を打った。


 頭の奥が熱を帯びる。

 心の奥で、何かが弾けた。


(なんだこの感覚……?犬、猿、雉…僕はこの状況を知っている……?)


 生まれる前から決まっていたような……

 運命に触れるような感覚。


 思わず口が動いていた。


「……おい。お前たち」


 声は自然に、重く響く。


「俺と来ないか。……鬼退治に」


 言葉が風に乗り、三匹へと届いた。


 ……沈黙。


 応えはない。


「……やっぱり、無理か。獣に……言葉なんて……」


 はっと我に返る。

(僕はどうかしているのか…)

 急に恥ずかしさが胸を刺し、頭を振った。


「……でも」


 腰から縄を抜き、口にくわえる。

 一気に走った。


「なんか必要な気がする!」


 投げた縄が、空を走る。

 ひゅっ、と音を裂き――

 三匹を捕える。


 犬、猿、雉。


 三匹は暴れた。

 犬は鼻を鳴らし、

 猿は牙を剥き、

 雉は羽をばたつかせる。


 だが、モーモー太郎の瞳は揺るがなかった。


「いいか……お前たちは、もう仲間だ」


 不思議なことに、暴れはすぐに収まった。



 ……まるで、受け入れたかのように。



 モーモー太郎は縄を握ったまま、再び歩き出す。


 港町へ。

 その先にあるのは、鬼ヶ島――封じられた“恐怖”。


 だが今、彼の背には三つの影が寄り添っていた。


 言葉はなくとも。

 それは、名もなき誓いのように――確かにそこにあった。


 こうしてモーモー太郎の旅は、新たな仲間と共に続いていく。

 運命に導かれるようにして――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ