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モーモー太郎伝説  作者: おいし
第四章
122/122

【第122話】揺らぐ灯火

 なぜ自分は、人の言葉を話し、ミコトと同じ“光の力”を使えるのか。


 その疑問は、ずっと心の奥底に棘のように刺さっていた。

 誰にも聞けず、誰にも語れず――ただ黙って飲み込み続けた“自分という謎”。



「……僕は、一体、何者なんだろう」



 その答えが今、目の前にある。


 モーモー太郎は全身に走る痛みに耐えながら、ゆっくりと身体を起こした。



(……本当に、知ってもいいのか?)



 その真実を、自分は受け止められるのか――。

 知った瞬間、もう“モーモー太郎”ではいられなくなるかもしれない。



 自分は、あまりに“異質”すぎる、“世界”から逸脱した存在。


 その不気味さに、自分自身が怯えていた。




 さらに____


 モーモー太郎を取り巻く状況は、かつてないほど複雑で、重大だった。



 理由は一つ。


 “光の力”。


 この力は、選ばれし者にしか発現しない。

 そして、この160年という長い年月の間、“光”は誰の元にも現れなかった。

 最初に現れたのはミコト。そして次に“選ばれた”のは、牛の姿を持つ自分だった。


 そして、

 

 この力こそが、“桃の木”を断ち切る唯一の手段なのだ。

 悪意を吸い込み、果実から人を生む、忌まわしきオロチの木。



 その根源を絶つには、“光”しかないのだ。



 だが――

 それを断ち切れば、同時に失われる命がある。


 桃十郎、鬼の桃一郎、そして人工的に生み出された桃人たち――ヨサクたちの命もまた、桃の木と共に消える可能性が高い。


 禁書には記されていた。

 かつてミコトが放った一撃により、鬼は一時、存在を薄れさせたと。


 つまり、“木を断つ”ということは、“命を断つ”ということだ。


 


 モーモー太郎に残された選択肢は、ふたつ。


 


 一つは――桃の木を残す選択。

 それにより、桃人たちは命を保てるだろう。

 だが桃の木は人々の感情は圧し殺し、世界を蝕み続ける。

 平和に見える“偽りの世界”が、永遠に続く。


 


 もう一つは――桃の木を断つ事。

 光の力で、その木を絶つ。

 世界は再び、あるべき自然な姿を取り戻すだろう。

 けれどそれは、仲間である桃人たちの命と引き換えとなる。


 その中には――桃十郎も、ヨサクもいる。



 モーモー太郎に、その決断ができるのか?




 思い出す…



 ホレスとの戦いのさなか、――“桃の木”は、自分の目の前に現れた。


 だが、切ることなど、到底できなかった。


 


 躊躇した。心が叫んだ。

 それは仲間たちの“命”を刈る行為だと――


 


 そして今でも、自分にその覚悟は無い。


 


 光を持つ者として、この世界を変える使命が自分にあることは分かっている。

 


 でも、


  “救うために奪う”という選択に、正義を語る資格があるのか。


 

 ――これは、簡単に答えの出せる選択ではない。



 逃れられない、“選択”という名の宿命が、彼の背にのしかかる。

 世界を繋ぐ、その岐路に、自分は立たされているのだ。



「僕は……どうすれば……」



 心の中で、声が震える。

 正義とは、何か。

 命とは、何か。

 そして、“自分”とは――。


 迷い、恐れ、そして戸惑い。

 先にあるのは闇か、希望か。

 それすら分からない。


 


 それでも…




 今は、歩き出すしかない。


 止まれば、何も変わらない。

 何も分からない。

 この世界も、自分自身も。



 だから――



 自分に残された道が“前”にしかないのなら、

 たとえその先に何があっても、進むしかなかった。


 


――モーモー太郎は空き家を後にした。

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