姉エクスプロージョン
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
コミカライズ1~5巻発売中です。
お仕置き型ユニークモンスターのデスペナルティが放った魔法により、マヤ姉の頭上に浮かび上がった「99」の数字。
その数字の正体に覚えがあった俺は驚愕し、また戦慄を覚えた。
「なんだ? 私の角度からは見づらいが……数字が浮かんでいる? 何なんだ、これは」
マヤ姉が頭上に手をやるも、数字は触れない。
そうこうしているうちにカウントは進み、今は「92」になってしまった。
「スキルの名の通り、死のカウントダウンだよ! どれだけ強くて、それまでピンピンしてても、その数字がゼロになったら死んじゃうんだ!」
ぶっちゃけて言うと、ファイ○ルファン○ジーで言う”死の○告”だ。
「なに!? それは困る……私が死んだら、誰が朝陽のお世話を!?」
「心配するとこ、そこ!?」
自身の窮地にもかかわらず弟のことをまず考える姿勢、ブレない。
「この手のスキルは術者を倒せば解除されるんだ。でも……」
デスペナルティが棺桶から半分顔を出してほくそ笑む。
「くくく……物理攻撃は効かんぞ。魔法も加減を間違えば崩落だ……怖くて使えまい」
八方ふさがりの大ピンチである。
「キルマリアがいれば、完全治癒魔法トータルヒーリングで治せたかもしれないのに…」
「こういうときに限って二日酔いで寝ているという。使えない魔王軍大幹部め」
いないからといって散々な言われようである。
その間に、カウントはどんどん70…60…50と減っていく。
「一体どうすれば……そうだ! マヤ姉、目を瞑って!」
俺はあることを閃いた。
「なんだ!? チューか! チューなのか!?」
目を瞑り、口を3の字にしながらマヤ姉が迫ってきた。
両肩を掴む力、めっちゃ強い。
「ちっげーよ! そういう意味で言ったんじゃねーからぁ!」
「くく…どうするつもりだ……?」
「こうするんだよ! 光魔法『フラッシュ』!」
俺は死神にフラッシュを浴びせた。
常闇の存在ならば光に弱いはずだろう。
しかしデスペナルティは無事であった。
「くくく……低級の光魔法で私を消し飛ばそうなど、片腹痛い…!」
「ちくしょう! 元は探索魔法のフラッシュ……けど死霊を祓う力もファントムシャークで証明済みだから、ワンチャンあるかと思ったけど……」
以前サメに襲われた際、霊体のサメならフラッシュでも消し去れた。しかしさすがにユニークモンスターには通じないか。
「いつまで姉を待たせるんだ! 早くチューしろ♡」
「だからそういう意味で目瞑れって言ったわけじゃねーんだってー!」
俺とデスペナルティの迫真のやり取りなど意にも介さず、いつも通り俺を押し倒してくるマヤ姉。
あの貴女、自分の命が風前の灯火っていう自覚あります!?
頭上のカウントダウンは一桁台になり、残り「3」になり、程なく「0」になる。
「マ、マヤ姉!」
「終わりだ! 死ねい!!」
「99」
頭上のカウントが再び「99」に戻る。
これには俺も、またデスペナルティも、同時に「カウントが戻った!?」と吃驚した。
「うん? また99に戻ったのか? 0になったら死ぬんじゃなかったのか」
当人なのにケロッとそんなことを、俺を地面に抑え込みながら言う。
いい加減放してくれませんかね?
「そのはずなんだけど……どういうこと?」
「ま、まさか!?」
デスペナルティが手を掲げる。
すると、下二桁”以降”の数字が浮かび上がってきた。
「999,891」
「元の数字が100万あったんかーい!!」
俺はぎょっと驚いた。
下二桁だけ表示されていたから99だっただけで、元は999,999だったようだ。
どんだけ生命力あるのよ、この姉さん!?
「な、なんなのだこれは!? この生命力……バケモノか!?」
明らかなバケモノに、バケモノ扱いされるマヤ姉よ。
「くっ…ならばこちらの小僧から制裁を加える! 『死のカウントダウン』!」
デスペナルティが、今度は俺に魔法を放ってくる。
「9」
俺の頭上に出現した数字である。
「たった9!? まさに瞬殺!? 俺の生命力、どんだけか細いの!?」
「くく、死の恐怖に怯えるがい……うおおっ!?」
「え? あっつ!? あちぃ!!」
隣を見ると、マヤ姉が両手を上に掲げ、巨大な、超巨大な火球を作り上げていた。
表情はまさに鬼の形相である。怒りに充ち満ちている。
「死……朝陽に死…? 私の弟を葬ろうとしているのか…?」
フルパワーで魔法を唱える気満々だ。
「焼却決定だ! 貴様は!」
「マヤ姉がブチ切れた!? ま、待った! ここで魔法は崩落の危険性が…」
「そ、そうだぞ!? 貴様とて無事では済まなー…」
「爆散しろ!『姉エクスプロージョン』!!」
☆
その日、シーリア峠で起きた大爆発。
火山の噴火か、はたまた魔王軍の仕業か……原因究明のために多くの冒険者が現地へ送り込まれたが、その謎が解き明かされることはなかった。
(後年、シーザリオ王国記より抜粋)
☆
一週間後。
スーパー朝陽軍団のミーティングに集まったグローリア、ソフィ、クオンは、包帯だらけになっている俺の姿を見て驚きの声を次々挙げた。
マヤ姉はと言うと、隅っこで申し訳なさそうにしゅんとしている。
「勇者さま!? その姿は!?」
「大ケガをしてるじゃありませんか、アサヒ氏」
「貴方ほどの猛者が、一体誰に!?」
「いや、あはは、ちょっとな…」
ちょっとどころではない満身創痍である。
実際、ここしばらくは寝たきり生活だった。
「す、すまない、朝陽。ついカッとなってしまって」
マヤ姉が謝る。
この一週間、マヤ姉にしては珍しくずっと気落ちしている。
それほど、俺を崩落に巻き込んだことが遺憾だったのだろう。
「いやいや、まあ…おかげで命は助かったしさ。そう気に病まないでよ、マヤ姉」
実際、姉エクスプロージョンでヤツを消し去ってくれたおかげで、死のカウントダウンは消えた。
過言なく、命の恩人だ。
「マヤさんがアサヒを…?」
「姉弟ゲンカ……というヤツでしょうか」
「ゴーレム級の勇者さまをこれほどまでにボコボコにするとは……」
三人が「この姉、凄い!」といった目でマヤ姉を見ている。
「?」
マヤ姉自身はキョトンとしている。
結果的に、クランメンバーから一目置かれることになったマヤ姉であった。