表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/180

姉エクスプロージョン

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。

コミカライズ1~5巻発売中です。

 お仕置き型ユニークモンスターのデスペナルティが放った魔法により、マヤ姉の頭上に浮かび上がった「99」の数字。

 その数字の正体に覚えがあった俺は驚愕し、また戦慄を覚えた。


「なんだ? 私の角度からは見づらいが……数字が浮かんでいる? 何なんだ、これは」

 マヤ姉が頭上に手をやるも、数字は触れない。

 そうこうしているうちにカウントは進み、今は「92」になってしまった。


「スキルの名の通り、死のカウントダウンだよ! どれだけ強くて、それまでピンピンしてても、その数字がゼロになったら死んじゃうんだ!」

 ぶっちゃけて言うと、ファイ○ルファン○ジーで言う”死の○告”だ。

「なに!? それは困る……私が死んだら、誰が朝陽のお世話を!?」

「心配するとこ、そこ!?」

 自身の窮地にもかかわらず弟のことをまず考える姿勢、ブレない。


「この手のスキルは術者を倒せば解除されるんだ。でも……」

 デスペナルティが棺桶から半分顔を出してほくそ笑む。

「くくく……物理攻撃は効かんぞ。魔法も加減を間違えば崩落だ……怖くて使えまい」

 八方ふさがりの大ピンチである。


「キルマリアがいれば、完全治癒魔法トータルヒーリングで治せたかもしれないのに…」

「こういうときに限って二日酔いで寝ているという。使えない魔王軍大幹部め」

 いないからといって散々な言われようである。


 その間に、カウントはどんどん70…60…50と減っていく。

「一体どうすれば……そうだ! マヤ姉、目を瞑って!」

 俺はあることを閃いた。


「なんだ!? チューか! チューなのか!?」

 目を瞑り、口を3の字にしながらマヤ姉が迫ってきた。

 両肩を掴む力、めっちゃ強い。

「ちっげーよ! そういう意味で言ったんじゃねーからぁ!」


「くく…どうするつもりだ……?」

「こうするんだよ! 光魔法『フラッシュ』!」

 俺は死神にフラッシュを浴びせた。

 常闇の存在ならば光に弱いはずだろう。


 しかしデスペナルティは無事であった。

「くくく……低級の光魔法で私を消し飛ばそうなど、片腹痛い…!」

「ちくしょう! 元は探索魔法のフラッシュ……けど死霊を祓う力もファントムシャークで証明済みだから、ワンチャンあるかと思ったけど……」

 以前サメに襲われた際、霊体のサメならフラッシュでも消し去れた。しかしさすがにユニークモンスターには通じないか。


「いつまで姉を待たせるんだ! 早くチューしろ♡」

「だからそういう意味で目瞑れって言ったわけじゃねーんだってー!」

 俺とデスペナルティの迫真のやり取りなど意にも介さず、いつも通り俺を押し倒してくるマヤ姉。

 あの貴女、自分の命が風前の灯火っていう自覚あります!?


 頭上のカウントダウンは一桁台になり、残り「3」になり、程なく「0」になる。


「マ、マヤ姉!」


「終わりだ! 死ねい!!」


「99」


 頭上のカウントが再び「99」に戻る。

 これには俺も、またデスペナルティも、同時に「カウントが戻った!?」と吃驚した。


「うん? また99に戻ったのか? 0になったら死ぬんじゃなかったのか」

 当人なのにケロッとそんなことを、俺を地面に抑え込みながら言う。

 いい加減放してくれませんかね?

「そのはずなんだけど……どういうこと?」


「ま、まさか!?」

 デスペナルティが手を掲げる。

 すると、下二桁”以降”の数字が浮かび上がってきた。


「999,891」


「元の数字が100万あったんかーい!!」


 俺はぎょっと驚いた。

 下二桁だけ表示されていたから99だっただけで、元は999,999だったようだ。

 どんだけ生命力あるのよ、この姉さん!?


「な、なんなのだこれは!? この生命力……バケモノか!?」

 明らかなバケモノに、バケモノ扱いされるマヤ姉よ。

「くっ…ならばこちらの小僧から制裁を加える! 『死のカウントダウン』!」

 デスペナルティが、今度は俺に魔法を放ってくる。


「9」


 俺の頭上に出現した数字である。

「たった9!? まさに瞬殺!? 俺の生命力、どんだけか細いの!?」

「くく、死の恐怖に怯えるがい……うおおっ!?」

「え? あっつ!? あちぃ!!」


 隣を見ると、マヤ姉が両手を上に掲げ、巨大な、超巨大な火球を作り上げていた。

 表情はまさに鬼の形相である。怒りに充ち満ちている。


「死……朝陽に死…? 私の弟を葬ろうとしているのか…?」

 フルパワーで魔法を唱える気満々だ。

「焼却決定だ! 貴様は!」

「マヤ姉がブチ切れた!? ま、待った! ここで魔法は崩落の危険性が…」

「そ、そうだぞ!? 貴様とて無事では済まなー…」


「爆散しろ!『姉エクスプロージョン』!!」




 その日、シーリア峠で起きた大爆発。

 火山の噴火か、はたまた魔王軍の仕業か……原因究明のために多くの冒険者が現地へ送り込まれたが、その謎が解き明かされることはなかった。

(後年、シーザリオ王国記より抜粋)




 一週間後。

 スーパー朝陽軍団のミーティングに集まったグローリア、ソフィ、クオンは、包帯だらけになっている俺の姿を見て驚きの声を次々挙げた。

 マヤ姉はと言うと、隅っこで申し訳なさそうにしゅんとしている。


「勇者さま!? その姿は!?」

「大ケガをしてるじゃありませんか、アサヒ氏」

「貴方ほどの猛者が、一体誰に!?」

「いや、あはは、ちょっとな…」

 ちょっとどころではない満身創痍である。

 実際、ここしばらくは寝たきり生活だった。


「す、すまない、朝陽。ついカッとなってしまって」

 マヤ姉が謝る。

 この一週間、マヤ姉にしては珍しくずっと気落ちしている。

 それほど、俺を崩落に巻き込んだことが遺憾だったのだろう。


「いやいや、まあ…おかげで命は助かったしさ。そう気に病まないでよ、マヤ姉」

 実際、姉エクスプロージョンでヤツを消し去ってくれたおかげで、死のカウントダウンは消えた。

 過言なく、命の恩人だ。


「マヤさんがアサヒを…?」

「姉弟ゲンカ……というヤツでしょうか」

「ゴーレム級の勇者さまをこれほどまでにボコボコにするとは……」

 三人が「この姉、凄い!」といった目でマヤ姉を見ている。

「?」

 マヤ姉自身はキョトンとしている。


 結果的に、クランメンバーから一目置かれることになったマヤ姉であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ