死のカウントダウン
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
コミカライズ1~5巻発売中です。
とある廃墟にある怪しげな洞窟に、俺たち軍場姉弟はいた。
生者を拒むように、スケルトンが襲いかかってくる。
「たああ!」
剣を振るい、スケルトンをバラバラにする。
「よし、経験値獲得! 次のレベルまでは、あと10体も倒せばオーケーかな」
俺は次のスケルトンが湧くのを、岩場に腰掛けて待つ。
その様子を後方腕組み姉さんとして見守っているのがマヤ姉である。
「活用しているな、この死霊の洞窟を」
「ああ。ははっ、良いダンジョンを見つけたよ」
「えーと、なんと言ったか……無限湧きポイントだったか?」
「そう。ザコが定期的かつ半永久的に出現する、レベル上げに持って来いの場所さ!」
この死霊の洞窟は、クエストの途中で見つけた副産物的なダンジョンだ。
スケルトンが無限に湧く場所を偶然発見した俺は、それをレベル上げに利用しようと考えた。
倒してもすぐにリスポーンするし、スケルトン自体もさほど強くないしで、とても旨味がある場所を見つけたものだ。
攻略wikiがあったら、この場所を序盤の経験値稼ぎ場所として明記したい気分。
「効率良く鍛錬を積めて良かったな、朝陽」
「うん。クラン内ではレベルが一番低かったソフィすらも、この間グローリアとミノタウロスを討伐したことで俺より上になっちゃったからね……」
リアファルの古城を探索したとき、俺が寝ている間にミノタウロスを二人でやっつけたグローリアとソフィ。
ミノタウロスにしてはそこまで強くはない部類だったらしいが、にしてもあの迷宮の怪物を女子二人で倒すとは恐ろしい。
二人ともさすがに、HPもMPも底を尽きた、息も絶え絶えな勝利ではあったが。
「このままだとクランリーダーの沽券に関わる! 効率厨となじられようと、ここで密かにレベル上げに勤しまねば!」
「そうか、頑張れ朝陽。お姉ちゃんが見守っているぞ」
志が高いのか低いのか。
とにかく早く湧け湧けスケルトン。
「む!?」
マヤ姉が緊迫した様子で周囲を確認する。
どうしたんだろう。
「気を付けろ、朝陽……何か来るぞ……」
ただならぬ様子でそう言う。
「何か…? 別に何もおかしなことは……う!? さ、寒い…!?」
洞窟内に冷気が漂う。息も白くなる。
急に何が起こったんだ!?
「制裁だ……」
洞窟内の地面の一部に影が広がる。
その影からゆっくりと、異形が這い出てくる。
それは西洋の棺桶の姿をしており、隙間からぎょろりと怪しい赤目がこちらを覗いている。
続けて、包帯だらけの左腕だけが隙間から出てくる。
不気味なまでに細く長い腕だ。
明らかに異質なモンスターだ。
その姿を一言で言い表すなら……そうだ、死神だ。
「私はデスペナルティ……」
老人のようなしゃがれた声で、異形がそう名乗る。
「貴様らはこの場所に長く留まりすぎた……よって死の制裁を加える……!」
「ま、まさかお仕置き系ユニークモンスター!?」
そういう類の存在に、身に覚えのあった俺は震撼した。
「お仕置き?」
マヤ姉が首を傾げる。
「RPGでずっと同じ場所に留まってレベル上げしてると、突然現れるモンスターだよ! パーティー全滅させられるほどの強敵なんだ!」
コントローラーを固定して自動的にレベル上げをしていたとき、何度か痛い目を見たことがある手合いだ。
楽して強くなる、絶対ダメ。
死神が迫り来る。
マヤ姉が瞬時に臨戦態勢に入る。
「マヤ姉! 魔法は……」
「洞窟内だと崩落するからやめて…だろう? なら物理で蹴散らす!」
マヤ姉の物理は山すら破壊する。普通の敵ならそれこそワンパンで霧散するが、しかし。
「なに!? 手応えがない…?」
「無駄だ…!」
マヤ姉の物理がデスペナルティの身体をすり抜ける。
一瞬にして透過してみせたのだ。
「すり抜けた……物理無効タイプのモンスターかよ!」
さすがはユニークモンスター……マヤ姉のワンターン目を切り抜けるとは、一筋縄ではいかない相手だ。
「女……まずは貴様から制裁を加える……『死のカウントダウン』…!」
死神が細長い左腕をこちらにかざし、魔法を唱える。
ドクンと、マヤ姉の身体が一瞬二重に揺れる。
「………?」
しかし別段何も起こってはいない。
魔法を食らったマヤ姉もきょとんとしている。
「何ともないぞ? 一体私に何をした?」
「うわあああ!」
俺は腰を抜かして、地面に倒れた。
口をパクパクさせながら、震える指でマヤ姉を指差す。
俺は見つけてしまった……マヤ姉の身に起こった劇的な変化を。
「朝陽? どうした?」
「きゅ、99…!」
「99?」
マヤ姉が自分の胸を揉みしだきはじめた。
何してんすか、このハレンチ姉さん!?
「いくら私が豊満でも、B99はさすがにないぞ?」
「バ、バストサイズの話じゃねーよ! 頭上! 頭の上!」
マヤ姉の頭上には、大きなフォントサイズで「99」の文字が浮かんでいた。