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食後のデザートにもならん

 キルマリアのご飯代を稼ぐべく、俺とキルマリアはクエストを受注し、その目的地である湿地帯へと来ていた。

 雨季の後の草原が水を吸い、地面はどこもぬかるんでいる。


 その湿地帯で一際目立つ存在が、ゲコゲコと喉を鳴らしながら闊歩している。

 そう、カエルだ。

 ただしサイズはトロールくらいあり、人間一人くらいなら丸呑みできそうな大きさである。


「雨季の後に湿地帯に大量発生した、毒沼ガエルを10匹退治して欲しい…だって。これがクエストの内容だよ、頑張って」

「簡単すぎて退屈なクエストじゃ……もっと強者と戦いたかったのう」

 キルマリアはあくびをしている。


「わらわが出るまでもないのう。アサヒに任せたわー」

 そう言うとキルマリアは大きな岩の足場で寝転がり、シエスタを取り始めた。

 いわゆる、昼食後の昼寝だ。


「コラー! お前のメシ代を稼ぐって話しだろうがー!」


 怒鳴り散らす俺に反応し、一匹の毒沼ガエルが襲いかかってくる。

 威圧的な巨体だ。

 しかしデカいというのは、それだけ的が大きいということ。


 俺はすかさず『投石:レベル2』を発動。

 シュート回転のかかった石つぶてが、巨大ガエルのこめかみにヒットする。

「ゲコォ!」

 バシャアアンと水しぶきを上げながら、もんどり打って仰向けに倒れる。


 俺はその腹に向けて舞い上がると、躊躇なく剣を突き刺した。

 巨大ガエル一体、討伐完了だ。


「はあ、はあ、やった…!」

「おお! やるではないか、アサヒ!」

 キルマリアが顔を上気させながら、感嘆の声を挙げる。

 天下の魔王六将に褒められたのだ、悪い気はしない。

「へへ、俺だって成長してるんだぜ? …って、うわ!?」


 調子に乗っていて、新たな毒沼ガエルの存在に気付かなかった。

 カエルの長い舌が俺の脚に絡みつき、今度は俺が地面に倒れる番となってしまった。

「この、よくも…」


「ゲコゲコォ!」

「ゲーコゲーコ!」

「ゲコッコォ!」

 周囲にいた毒沼ガエルたちが一斉にやってくる。


「いっぺんに来た!? ちょ、待っ…ひいい! たくさんの舌が巻き付いてヌルヌルするぅ! うお、宙に上げられ……うおおおい! どこに舌を入れてんだぁぁぁ!」


 いっぱいのカエルに四肢を蹂躙される。

 身体中、もうべっとべとである。


「おおお……えっちじゃのう」


 キルマリアときたら、ぬるぬるのべとべとになっている俺を観ながら、頬を赤らめている。

 やめて!

 俺の醜態を見ないで!


「これ、女キャラがやられてこそ絵になるヤツじゃーん!?」

 俺は思いの丈を叫んだ。

「こらこら、そういう発言は女性の尊厳を軽視する侮蔑行為に当たるぞい」

 キルマリアが最もらしいことを言う。

 確かに今のは炎上しかねない発言だったかも……とか言ってる場合じゃない!

「ごめんなさいね!? でもコンプラに配慮するヒマがあったら助けてー!」


「仕方ないのう。アサヒを放せ、雑魚共! 『クリムゾンブレイズ』!」

 炎魔法を放ち、多数のカエルたちをたやすく一撃死させる。

 その衝撃波で吹っ飛ぶ俺。

「どわああ!?」

 地面が湿原で助かった、十数メートル吹っ飛ばされてもクッションが効いてさほど痛くない。


「お、おかげで助かっ……うっ!?」

 俺は目眩に襲われた。

「大丈夫か、アサヒ。どうしたんじゃ」

「具合が急に悪く……これ、毒だ…毒状態…」

 まずい、毒消しを持ってこなかった。


「ほれ、『トータルヒーリング』」

 キルマリアは俺に回復魔法を唱えた。

 以前、俺の石化状態を解いた魔法だ。

「おお、HPと状態異常が全快していく…!」

 回復魔法を使う魔王軍大幹部とか、RPGで敵として出てきたら厄介この上ないが、今回は助かった。


 キルマリアって攻撃だけじゃなく、回復やバリアも使えるんだよな。

 攻撃一辺倒のマヤ姉と違って、オールマイティーな強さ。

 スーパー朝陽軍団にぜひ欲しい人材ではあるんだけど……


「なあ、クランに入りたいって言ってたよな」

「ん? おう。入りたいというか、入ってやるぞいというテンションじゃったが」

「本当にウチのクランに入りたいなら、みんなに聞いてみてもい……」

「おっと、話しは後じゃ。大群で来たぞい」

 大勢のカエルたちがこちらにめがけてやってくる。


 そのカエルたちに影が差す。

 何やら巨大な……超巨大なものが上空を横切った。

 その影はカエルたちに向かうと、まとめてひと飲みしてしまった


 影の正体は大蛇であった。


「だだ、だ、大蛇ぁ!?」

 その大きさたるや、まるで新幹線クラス!

 あまりの巨大さに俺は腰が抜けそうになったが、隣にいるキルマリアは喜色満面である。

「ほほう! 藪をつついたら蛇が出おったか!」

 いやそんな楽しそうにしないでくれます!?

 明らかに大ボスなんですけど!


「キルマリア…!」

 ヘビが人語を話す。

「喋った!? つーか、知り合い!? キルマリアの名前呼んでたけど!?」

「こんなデカブツ、知らんわい」


「我はエインガナ! 同胞の仇、今ここで!」

 エインガナと名乗った大蛇が迫り来る。


「アサヒ! よけい!」

「うわ!?」

 キルマリアが俺を突き飛ばす。

 次の瞬間、キルマリアはエインガナに丸呑みされてしまった。


「キ…キルマリアが食べられた!? お、俺を庇って……!」


「くくく…このまま消化して……ぬう……?」

 エインガナの身体に異変が起こる。

 身体の中心あたりが徐々に熱を帯びて赤らみ、膨張していく。

「か、身体が熱い……! や、灼ける…ように……! ぎゃあああああ!」

 エインガナの身体が内部から大爆発を起こす。


 哀れ、大蛇はバラバラに弾け飛んでしまった。

 周囲に車ほどの大きさの肉片が飛び散る。


 空中には、炎のバリアを纏うキルマリアの姿があった。

「カッカッカ! 食後のデザートにもならん相手じゃ!」

 居丈高に笑うと、地面に舞い降り、こちらに歩み寄ってきた。


「と、とんでもねえ……マヤ姉も凄いけど、キルマリアも負けず劣らずやっぱ異次元だわ…」

「あっ!」

「どうした、キルマリア」

「この大蛇、あれか! 以前腕試しでぶっ倒した大蛇のツレか!?」

 手をポンと叩き、何かを思い出すキルマリア。

 以前倒した大蛇のツレ……?


「は!? じゃあ今の、その腕試しの報復…ってコトぉ!?」

 驚きのあまり、ちいかわ構文になってしまう俺。

「方方の魔物から恨みを買っておるからのう…いちいち覚えとらんかったわ。カッカッカ!」

 そう言って笑うキルマリアにドン引きする。


 人間から討伐対象にされ、モンスターからも恨み買って……

 クランに入れるメリットに対し、デメリットの方がなんぼなんでもデカすぎやしませんか!?


「やっぱクラン入りは無し! 断固拒否!」

 俺は手で大きくバッテンを作った。

「な、なんじゃ!? 改めて念押しよって」



 キルマリアもマヤ姉同様、最凶最悪のトラブルメーカーだ。

 俺はそう改めて認識したのであった。

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