わらわもスーパー朝陽軍団に
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
コミカライズ1~5巻発売中です。
荘厳にして威圧的。
厳格にして排他的。
崖の上にそびえ立つその城の名は、獣魔城ヴァーダイト。
魔王六将“百獣”のギガノトの根城である。
城内にはワイバーンやオーク、ウルフなどのビースト系モンスターが跋扈している。
まさに百獣が住まう城である。
その城の最奥、玉座にギガノトの姿はあった。
身体中に包帯が巻かれている。
真夜の姉ジャイアントスイングで遙か遠くに飛ばされた後も、ギガノトはかろうじて一命を取り留めていたのだ。
「ちぃ……傷が疼くぜ……あの赤髪の女ぁ、この借りは絶対……」
「あははぁ。無様やなぁ、ギガノト」
暗闇から声が聞こえる。
「あん?」
「人間のお城を潰すゆうて、息巻いて出掛けはったのに、この有り様……同じ魔王六将として情けないわぁ」
ギガノトはその声に覚えがあった。
“同じ魔王六将”というフレーズで、声の主の正体を確信する。
「黙れよ、ウートポス…!」
声の主は魔王六将”冥境”のウートポスのようであった。
暗闇に潜んでいるため、その姿形までは窺えない。
ただ、声は声変わりを迎える前の少年のような、高い声をしている。
「ケガが治ったらリベンジマッチだ! あの赤髪の女、今度こそぶちのめす! ウートポス、テメェは手ぇ出すなよ!?」
「出さへんよぉ。ただ……」
「あん?」
「気になるコが一人おるんよねぇ。ボクの配下をバッタバッタと倒しているらしい男の子なんやけど」
しかしウートポスは恨むでもなく、楽しげな様子で話す。
「赤髪はギガノトが好きにしはったらええ。ボクはそのコにちょっかい出しに行きますわぁ」
ウートポスの気配が消える。
「けっ! 冥境のウートポス……相変わらずムカつくヤローだ。どこの言葉だよ、そのフニャフニャした言語はよぉ」
ギガノトがふと思う。
関所で自分が投げ飛ばされた後、そこに取り残されたもう一人の魔王六将キルマリアのことだ。
「そういやぁキルマリアはあの後どうなったんだ? 俺様でも深手を負った相手……”タダ”じゃあ済んでねえか」
☆
「カッカッカ! 美味い! 美味いのう! “タダ”で食えるメシが実に美味い!」
軍場家の食卓。
料理が並んだテーブルには、いつも通り俺、マヤ姉、キルマリアの三人がいる。
そう、キルマリアはもはや”いつも通り”の日常の一風景と化している。
しかしこの一風景、よく食うなぁ……
「少しは遠慮したらどうだ、タダメシ食らい」
マヤ姉は呆れた様子だ。
「カッカッカ! いやじゃーい!」
食べながら喋るから、食べかすがめっちゃ俺の顔に当たる。やめて。
「そう言いながら、毎日三人分作ってるマヤ姉も人が良……わぷ」
「朝陽。余計なことは言わなくていい」
マヤ姉の手が伸びてきて、口を塞がれた。
よく見ると頬が赤らんでいる。照れてるんだ。
「じゃが、わらわも人間社会で等価交換を学んだ……何も与えず、与えられるばかりではフェアではないのう」
「ほう」
「キルマリアがもっともらしいことを……」
最初の頃はお金の概念すら持ち合わせてなかったことを考えると、目覚ましい成長である。
ちょっと感動。
キルマリアはテーブルから勢いよく立ち上がる。
「よし! わらわも”スーパー朝陽軍団”に加入してやろう!」
ビシッと親指で自分を指差し、ドヤ顔を決める。
「…………」
俺とマヤ姉が無言で互いに顔を見合わせる。
「採用不可」
「今後の活躍をお祈り申し上げます」
丁寧にお祈りメールをした。
「なんでじゃ!?」
キルマリアがガビーンといった顔をしている。
「そりゃ戦力的にはとんでもない強化になるけど……」
なにせ魔王六将だ。文字通り百人力だろう。
「そうじゃろう、そうじゃろう」
「でも魔王軍の大幹部がクランに入るとか前代未聞でしょ」
そもそもあなた、討伐される側という認識をお忘れでない?
「そうだぞ。それにクエストでまでお前の面倒は見切れない」
マヤ姉がパンを口に放る。
それは俺のセリフなんだけどね。
マヤ姉の強さを誤魔化すだけでも手一杯なのに、同格の強さを持つキルマリアまで加入したら絶対にキャパオーバー!
俺の手に負えない!
「ぐぬぬ…ならばクエストで、自分のメシ代くらいは稼いできてやるわい! 行くぞ、アサヒ!」
キルマリアが俺の腕を掴んで引きずる。
「な、なんで俺まで!?」
「おぬしがおらんと、ギルドでクエストを受注できんじゃろが!」
それはそうだけど、俺を巻き込むのやめてくれない!?
俺はマヤ姉に助けを求めた。
「マヤ姉も何か言って……」
「ならついでに、食えるモンスターでも狩ってきてくれ。夕飯代も浮く」
「カカッ! 承知!」
「なんでだー!!」
今度は俺がガビーンという顔をする番だった。