昔の朝陽と一緒
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
コミカライズ1~5巻発売中です。
王都の郊外にある高原に、俺たち三人はいた。
「てい! たぁ!」
か弱き少年が懸命に繰り出す木刀の攻撃を、同じく木刀でガードする。
「いいぞ、ロイ! 力強い剣捌きだ!」
彼を励ましながら攻撃を受ける。
「頑張れ、ロイ! アサヒくんに負けるなー!」
頑張る弟を木陰から応援するターニャ。
そう。
ロイは以前出会った、ターニャの弟である。
姉とは真逆で、内気で人見知りな少年。
俺は最近、時間があったらロイに稽古をつけているのだ。
以前このターニャ姉弟をワイバーンから救ってから、ロイは俺と、冒険者という職業に強い憧れを抱いたようだ。
だからこうして実際に剣を交えて、師事してあげることになった。
ゴーレム級とランク詐称している、実際はさほど強くない俺でも、10歳の少年相手なら師匠ポジ張れるからね。
「よし、休憩にしようか」
「う、うん…つかれたよぉ…!」
元々家に籠もりきりで体力のなかったロイだ。
草むらに大の字になって倒れた。
「はい、水とタオルっす」
ターニャがマネージャーよろしく、水分とタオルを渡してくれる。
「サンキュー、ターニャ」
「ありがと、ロイの特訓に付き合ってくれて」
「ターニャにはギルドで世話になってるしね。断る理由もないさ」
「ロイも良かったね! ゴーレム級のアサヒくんから稽古つけてもらえるなんて、贅沢な話だよー?」
ターニャがロイに話しかける。
「うん…! おにいちゃんが出来たみたいで嬉しいよ…!」
汗だくになりながら、朗らかな笑顔でそう答える。
ははっ、なんだか照れくさい。
「お義兄ちゃん!?」
ターニャが顔を上気させる。
なんだ、今のおにいちゃん、ちょっとイントネーションがおかしかったような……?
「も、もう! 急に変なこと言わないでよ! アサヒくんも真に受けなくていいっすからね!? マジで!」
ターニャは顔を赤らめながら、必死に否定している。
なんなのだろう、一体。
辺りを見回す。
王都からは少し離れた場所で、周囲には草原と湖、小さな森しかない。
「にしてもここ、王都の外だけど大丈夫? モンスターが出てきたら危ないぞ?」
「ここらへんはモンスターの生息区域じゃないから大丈夫っすよ。ギルドでも確認済みっす」
「ならいいんだけど」
大丈夫と言われて、大丈夫じゃなかったケースが今まで沢山あったのでね。
「アサヒくん! 続きやろっ!」
「お、復活したなロイ。じゃあいっちょ揉んで……」
そのとき、ぐうううううっと俺とロイの腹が同時に鳴る。
あらやだ、恥ずかしい。
「あはは! 二人とも腹ぺこ! どうする? 一旦街に戻ってご飯でも?」
「そ、そうね。メシ食いに行くか」
「その必要はないぞ」
声がした方を振り返る。
「マヤ姉!?」
留守番を任せていたはずのマヤ姉がそこにいた。
「差し入れだ、みんな」
右手には大きなバスケットを持っていた。
バスケットを開くと、そこには色とりどり、具材たっぷり、ボリュームいっぱいのサンドイッチ盛り合わせがあった。
美味そうだ、自然とヨダレが垂れる。
「お腹空いてるだろう。さあ、召し上がれ」
「お、美味しそう…!」
「あたしたちもいいんすか!? 真夜さん!」
「もちろん。みんなの分もある。そうだ、シートも持ってきたから草むらに敷こう」
「はは、まるでピクニックだ」
4人仲良く談笑しながら昼食を取る。
「そういえば、ロイはなんで急に剣を握り始めたんだ?」
たまごサンドを頬張りながらロイに質問する。
これ、美味っ!
「え? あ、うん、アサヒくんみたいに強くなりたいって思ったから……」
「冒険者になるために?」
「えっと、それもあるけど……その……」
横目で、隣に座る姉のターニャを見ながら恥ずかしそうにしている。
なんだろう?
「なに恥ずかしがってるのさー、ロイ! あ! さては強くなって女の子にモテたいんでしょー?」
「ちち、違うよう!」
弟の肩に手を回しながら、このこのと頬をつつく気さくな姉。
どこの家の姉弟もこんな感じで、気軽に弟にスキンシップするものなのだろうか。
いや、我が家の姉はスキンシップどころじゃないですけどね。
「ふっ……昔の朝陽と一緒かな?」
ターニャ姉弟を見ながら、フッと笑みをこぼすマヤ姉。
「昔の俺? なにが?」
「理由。強くなりたい」
そう言って、マヤ姉は俺にも優しい微笑みを浮かべた。
昔の俺……?
強くなりたいと思う理由なんて持っていたっけ?