古城を守るミノタウロス
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
コミカライズ1~5巻発売中です。
リアファルの古城というダンジョンにて、パーティーが二手に分かれてしまった俺たちスーパー朝陽軍団。
マヤ姉とクオン、俺とソフィとグローリア。
前者はおそらく問題ないだろう。
問題は後者だ。
ソフィがトラブルメーカーなのは周知の事実ではあったが、よもやグローリアまで筋金入りのそれだったとは。
「と、とにかく落ち着いて進もう。トラップに気を付けて! な!」
また勝手にバクシンされて、トラップのボタンを踏み抜かれては困る。
「はい、勇者さま」
「クオンはわたくしが付いていないと心配な子…早く合流してあげたいですわ」
それ、逆です。
でも俺の身が危ないので、早く合流したいには全面同意。
ある程度先へ進むと、道が二手に分かれていた。
「道が二手に分かれてるな」
「そんなときこそ、私の杖占いです!」
「うわ、久々に出たな!」
杖を地面に垂直に立てて、倒れた方向に進むという原始的な方法だ。
ソフィ曰く、神の思し召しらしいけれど。
杖を立てる。
杖がゆっくりと倒れる。
倒れた拍子に、ポチッとトラップを押してしまう。
横の壁からガーゴイルの顔の像が出てきて、俺にだけピンポイントで火炎を放射してくる。
「あっつ! あっつ!」
「逆張りでこっちへ進むというのはどうかしら!?」
グローリアが杖占いとは逆側に進もうとし、また息を吸うようにトラップを踏む。
天井からドバーッと大量の水が降り注いでくる。何故かまた、俺にだけピンポイントで。
「ごぼごぼごぼ!」
下は大火事、上は洪水。
これなーんだ……とか言ってる場合じゃねえぞ!
なにこの俺にだけ目掛けたピタゴ○スイッチ!?
しかもスイッチ踏んだ二人とも、俺が酷い目に遭っているのに気付いていない始末。
さらにダンジョンを進む俺たち三人。
早くマヤ姉たちと合流したい……俺の身が持たない。
「もうすぐ最奥のようですわ」
「ここまで平穏に来られましたね」
「平穏じゃないんだが……」
壁にレバーがあった。
「なんのレバーでしょう、これ?」
疑問を口にしたと同時に、そのレバーを引くソフィ。
「秒で引くな!? わぷぷっ!?」
俺にだけ向かって、霧状のガスが噴射される。
うっ、猛烈に眠気が……
これ…は…睡眠……ガ……ス……
☆
朝陽が仰向けにゆっくりと倒れる。
「まあ! アサヒが眠ってしまいましたわ!」
「よほど疲れていたんでしょうね」
自分のせいとは気付かぬソフィ。
朝陽はとても幸せそうに眠っていた。
その寝顔を見て、ゴクリと息を呑む二人。
「……かわいい」
同時にボソッと呟く。
そして同時に顔を赤らめる。
「ち、違いますわ! かゆい…そう、かゆい! 背中がかゆいと言いましたの!」
「わ、私は、えーっと…かわいた! そう、喉が渇いたなーと! あはは!」
互いに誤魔化し合う。
「どうしましょう。早くクオンたちと合流せねばなりませんし、起こします?」
「いえいえ、勇者さまはお疲れなんですよ」
ソフィはおもむろに座り始めた。
そして自らの膝に、朝陽の頭を乗せて上げる。膝枕だ。
「私の膝枕でゆっくり休ませてあげます…ふふ」
「ど、どさくさに紛れて何をしてますのー!」
グローリアは顔を上気させると、ソフィを持ち上げて後方へ投げ飛ばした。
さすがパワー全振りお嬢さま、ソフィが軽々と飛んでいく。
「ひゃー!」
グローリアが息を荒げながら、朝陽に顔を近づける。
「こ、ここはひとつ、わたくしが貴族流の起こし方を…め、めめ、目覚めのキッス…! デュフフ…!」
「そっちこそドサクサにまぎれてなんですか!?」
ソフィが杖でグローリアの頭をスコーンと叩く。
「あいったですわー!」
ここから、二人の罵り合いという名のキャットファイトが始まった。
「そもそも貴女なんですの!? 気付いたらわたくしと朝陽のクランに、さも当然の顔でいて!?」
「それはこちらのセリフです! 私の方が先に勇者さまとパーティーを組む約束をしていたんですよ!」
「ウソおっしゃい! 以前は違うクランにいると聞きましたし、そちらに復帰されては!?」
「大体グローリアさん、勇者さまの力を最初疑って闘技場で戦ったりもしてたじゃないですか! 見る目無いんですよ!」
「剣を交えてこそ生まれる友情、いや友愛をご存じありませんの!? ハッ! これだから後衛職は!」
「都合良い解釈はやめて下さい、脳筋タンク!」
「はああああ!? なんですってぇぇぇ!?」
「なんですかぁぁぁ!?」
鼻面をくっつけ合うほどに接近しながら、互いに罵倒し合う二人。
その間も朝陽は、ムニャムニャと幸せそうな顔でただ寝ているのみである。
「騒々しい……我の眠りを妨げるものは誰だ……!?」
ズシンズシンという足音が聞こえてくる。
現れたのは巨躯の怪物。
牛の顔に、筋骨隆々の人型の身体。
手に携えるは、人間の身体より大きな棍棒。
それはミノタウロスであった。
「我はこのリアファルの古城を守るミノタウロス……侵入者共よ、生かして返しはせん…!」
ミノタウロスの足下では朝陽が眠ったままである。
グローリアとソフィは互いに顔を見合うと、コクリと頷いた。
「ソフィさん!」
「は、はい! 一時休戦といきましょう!」
二人は身構えた。
「足手まといにならぬよう、援護頼みますわよ!」
「そ、そちらこそ自分の役目をしっかり果たしてください!」
☆
ふわぁ……
俺はゆっくりと目を開け、身体を伸ばした。
「ん、んん、よく寝たぁ……あれ? 俺、なんでこんなところで寝て……って、なんだこりゃ!?」
周囲の惨状を見て、俺は一気に覚醒した。
見覚えのあるモンスター……ミノタウロスじゃねーか!……が倒れていて、グローリアとソフィが地面に横たわったまま満身創痍の様子。
二人ともボロボロだが、命に別状はないようだ。
「や、やれた……やってやりましたわ…わたくしたち…!」
「グローリアさん…素晴らしい戦いぶりでした…! 私もう、MPがすっからかんです……」
「ソフィさんこそ…いえ、ソフィこそ回復と支援魔法、ナイスでしたわ…」
「えへへ…グローリア…!」
二人は息も絶え絶えになりながらも、達成感に充ち満ちた顔をして、拳を付き合わせて互いの健闘を讃えていた。
「な、なんか友情が芽生えてる…?」
俺が寝ている間に何があったんだろう。
いや、そもそもなんで俺寝てたんだっけ?
「朝陽ー!」
「お嬢ー」
そこにマヤ姉とクオンがやってくる。
スーパー朝陽軍団、無事合流である。
後日。
グローリア邸に全員集合、定期ミーティングの時間だ。
しかしなぜか始まったのは、グローリアとソフィの言い争いだ。
「戦闘スキル! わたくしと肩を並べて戦うスキルがアサヒには必要なんですわ!」
これがグローリアの弁。
「回復スキル! 攻守揃ってこそ勇者さま、身を守る術も覚えるべきですよ!」
こちらがソフィの弁。
そんな二人の口論を、俺とマヤ姉とクオンはただただ傍観するのみ。
「なぜ朝陽の習得スキルで二人が口論するのだろうな」
ホントにそう。
「お嬢、また一人仲の良い友人が出来て何より」
「これでか!?」
ダンジョン探索を経て、より一層絆を深めたスーパー朝陽軍団であった……という締めでいいのだろうか。これは。