朝陽のために腕を振るおう
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
コミカライズ1~5巻発売中です。
美食クラン『モンストル・マルシェ』の冒険者シモフリと別れ、森の中を歩いている俺たち。
「料理でステータスが上がるとはね」
「地道にレベル上げする必要もなくなるな」
「強くなれる上に腹も満たせる……一石二鳥だよ」
「調理は私に任せてくれ。朝陽のために腕を振るおう」
先ほどもらったレシピ本を掲げる。
「どんな料理があるんだろう……ファンタジーならではの架空料理かな?」
「ちょっと読んでみないか?」
「そうだね」
好奇心を抑えきれず、俺たちは早速本を読んでみることにした。
ペラッと1ページ目をめくる。
☆
●野性味溢れるウルフ肉ステーキ
……HPを回復し、一時的に攻撃力を上昇させる
●キラービーのジューシーサクサク揚げ
……HPを回復し、毒状態も回復する
●スライムのひんやり寒天ゼリー
……MPを少量回復する
●コカトリス肉とオバケキノコのソテー
……一時的に命中力と回避を上昇させる
●ゴーレムの破片焼きビビンバ
……一時的に防御力を上昇させる
●ゴブリンテリヤキバーガー
……衰弱状態を回復する
●田舎風マンイーターサラダ
……クリティカル確率がアップする。
●ピリ辛グリフォン定食
……一時的に経験値獲得率10%アップ
●海鮮クラーケン丼
……戦闘不能状態を回復させる
☆
「モンスター飯じゃねえかぁぁぁー!!」
俺は天を仰いだ。
マヤ姉はと言うと、頬を赤らめヨダレを垂らしている。
いやそのリアクションはおかしくない!?
そこで俺はあることを思い出した。
「ハッ! 思い出した! モンストル・マルシェってクラン……前にターニャが言ってた! モンスターグルメを追究するクランって!!」
なんてものを追究してくれるんだ。
「なるほど、これを食べれば朝陽は強くなれるんだな」
「マヤ姉!?」
マヤ姉の言葉を聞いてぎょっとする。
「さっそく食材を獲ってこよう!」
「うわああ! 待ってくれぇぇぇ!」
行かせまいとマヤ姉の腰にしがみつくも、チート姉さんを止められるわけもなく、俺はズルズルと引きずられるだけであった。
程経て。
周囲にはあらゆるモンスターの死骸が転がっていた。
ウルフ、キラービー、オバケキノコ、ゴーレム、コカトリス、マンイーター、グリフォン……死屍累々である。
どれもこれも、マヤ姉が瞬殺して運んできたモンスターである。
木っ端微塵に吹き飛ばさぬよう、加減に加減を重ね、程良く殺されたモンスターたち。
その上、このあと食材にされるなど、モンスターたちが不憫すぎて泣けてくる。
「海が近ければ、クラーケンなるモンスターも獲りたかったが、まあ十分だろう」
「十分とかいうレベルじゃねえ……」
なんとかこのあと待ち受ける、”モンスター飯を食わされる”というバッドエンドを回避しないと。
「で、でもさぁマヤ姉! これだけの材料、家まで持って帰れないよね!?」
「そうだな……ひとつひとつ持って帰っていては、鮮度も落ちる」
そう言うと、マヤ姉は俊敏な動きで木々を集め、火を起こし始めた。
「ここで野営をして、もう調理してしまおう」
「行動力!!」
この姉、行動力の化身すぎる。
「こんなこともあろうかと、調理器具を持参してきていてよかった」
なぜこんなことがあると予想できていたのか、甚だ疑問である。
調理し始めて小一時間。
モンスターグルメの満漢全席が出来上がった。
「さあ! いっぱい食べて強くなれ、朝陽!」
シェフがそう言う。
「う、うーん……み、見た目は悪くないんだよなぁ……」
むしろ、さすがマヤ姉と言うべきか、とても美味しそうである。
何も言われずこの料理を出されたら、モンスターが材料とは気付かないだろう。
後ろを振り返ると、マヤ姉が期待の眼差しで俺を見守っていた。
姉が弟のために頑張って材料を獲って、頑張って作ってくれた料理……無碍に出来る俺ではない。
「こうなりゃやけだ!!」
俺はモンスター飯を口の中に次々かき込んだ。
「いい食いっぷりだぞ、朝陽!」
ちくしょう、味自体はめちゃくちゃ美味い。
モンスターたちよ……なぜ美味しく育ってしまったのか。
「はぐほぐはぐ……ほぐっ!? は、はんふぁ!?」
身体が燃えるようにアツい。
足先から頭のてっぺんまで、力が巡っていく感覚が分かる。
これがバフ効果か…!
茂みがガサガサと動く。
「む? ワイルドボアだ。ボアキングの仇を取りに来たのか?」
身構えるマヤ姉を手で制す。
「朝陽?」
「マヤ姉……ここは俺が」
ワイルドボアが俺めがけて突進してくる。
「たあああああ!」
一閃。
先ほどまで苦戦していたワイルドボアを一撃で倒す。
「おお! 強くなっているぞ、朝陽!」
マヤ姉が感嘆の声を挙げる。
「うはははは! 力がみなぎってくるー!!」
俺はテンションがぶち上がった。
中高生男子さながらの全能感が、身体中から溢れてくる。
今なら何でも出来るし、誰とのレスバトルでも勝てそうな気がする。
モンスター飯のバフ効果、これは確かに凄い!
「バフ効果が続いている内にレベル上げじゃーい!!」
俺は雑魚モンスターを狩りまくった。
「ハイになってるなぁ」
そんな様子をマヤ姉が生温かく見守ってくれていた。
翌日。
俺はベッドの上にいた。
レベル上げで重傷を負ったのではない。
全身が筋肉痛になって、動けなくなったのだ。
「ぜ、全身筋肉痛…! か、身体中バッキバキで動けない……! いてて…!」
「大丈夫か、朝陽」
マヤ姉が心配そうに覗き込んでくる。
リン○フィットをぶっ続けでやり込んだ日以来だ、こんな筋肉痛。
「げ、限界を超えて活動するってのも考えもんだ……」
バフ効果に、よもやこんな副作用があったとは。
異世界生活、まだまだ学びが多い。
「今日はゆっくり寝ているといい」
「そ、そうする…ところでマヤ姉…」
マヤ姉はなぜか、淫靡な顔をしながら手をワキワキとさせていた。
「なにその顔と、怪しい手の動き…」
「ん? この手が何かって?」
とてもイヤな予感がする。
「お姉ちゃんがマッサージで身体をほぐしてあげようと思ってな! モンスター料理よりキクぞー!」
マヤ姉がベッドの上の俺に襲いかかる。
「だあああ! 俺が動けないのをいいことにぃぃぃ!」
いつもの、シスコンによるブラコン攻撃である。
動けない俺には為す術がない。
モンスター飯はもうこりごりだー!