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朝陽のために腕を振るおう

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。

コミカライズ1~5巻発売中です。

 美食クラン『モンストル・マルシェ』の冒険者シモフリと別れ、森の中を歩いている俺たち。


「料理でステータスが上がるとはね」

「地道にレベル上げする必要もなくなるな」

「強くなれる上に腹も満たせる……一石二鳥だよ」

「調理は私に任せてくれ。朝陽のために腕を振るおう」


 先ほどもらったレシピ本を掲げる。

「どんな料理があるんだろう……ファンタジーならではの架空料理かな?」

「ちょっと読んでみないか?」

「そうだね」

 好奇心を抑えきれず、俺たちは早速本を読んでみることにした。

 ペラッと1ページ目をめくる。





●野性味溢れるウルフ肉ステーキ

 ……HPを回復し、一時的に攻撃力を上昇させる


●キラービーのジューシーサクサク揚げ

 ……HPを回復し、毒状態も回復する


●スライムのひんやり寒天ゼリー

 ……MPを少量回復する


●コカトリス肉とオバケキノコのソテー

 ……一時的に命中力と回避を上昇させる


●ゴーレムの破片焼きビビンバ

 ……一時的に防御力を上昇させる


●ゴブリンテリヤキバーガー

 ……衰弱状態を回復する


●田舎風マンイーターサラダ

 ……クリティカル確率がアップする。


●ピリ辛グリフォン定食

 ……一時的に経験値獲得率10%アップ


●海鮮クラーケン丼

 ……戦闘不能状態を回復させる





「モンスター飯じゃねえかぁぁぁー!!」


 俺は天を仰いだ。

 マヤ姉はと言うと、頬を赤らめヨダレを垂らしている。

 いやそのリアクションはおかしくない!?


 そこで俺はあることを思い出した。

「ハッ! 思い出した! モンストル・マルシェってクラン……前にターニャが言ってた! モンスターグルメを追究するクランって!!」

 なんてものを追究してくれるんだ。


「なるほど、これを食べれば朝陽は強くなれるんだな」

「マヤ姉!?」

 マヤ姉の言葉を聞いてぎょっとする。

「さっそく食材を獲ってこよう!」

「うわああ! 待ってくれぇぇぇ!」

 行かせまいとマヤ姉の腰にしがみつくも、チート姉さんを止められるわけもなく、俺はズルズルと引きずられるだけであった。


 程経て。


 周囲にはあらゆるモンスターの死骸が転がっていた。

 ウルフ、キラービー、オバケキノコ、ゴーレム、コカトリス、マンイーター、グリフォン……死屍累々である。

 どれもこれも、マヤ姉が瞬殺して運んできたモンスターである。


 木っ端微塵に吹き飛ばさぬよう、加減に加減を重ね、程良く殺されたモンスターたち。

 その上、このあと食材にされるなど、モンスターたちが不憫すぎて泣けてくる。

「海が近ければ、クラーケンなるモンスターも獲りたかったが、まあ十分だろう」

「十分とかいうレベルじゃねえ……」


 なんとかこのあと待ち受ける、”モンスター飯を食わされる”というバッドエンドを回避しないと。

「で、でもさぁマヤ姉! これだけの材料、家まで持って帰れないよね!?」

「そうだな……ひとつひとつ持って帰っていては、鮮度も落ちる」


 そう言うと、マヤ姉は俊敏な動きで木々を集め、火を起こし始めた。

「ここで野営をして、もう調理してしまおう」

「行動力!!」

 この姉、行動力の化身すぎる。

「こんなこともあろうかと、調理器具を持参してきていてよかった」

 なぜこんなことがあると予想できていたのか、甚だ疑問である。


 調理し始めて小一時間。

 モンスターグルメの満漢全席が出来上がった。


「さあ! いっぱい食べて強くなれ、朝陽!」

 シェフがそう言う。

「う、うーん……み、見た目は悪くないんだよなぁ……」


 むしろ、さすがマヤ姉と言うべきか、とても美味しそうである。

 何も言われずこの料理を出されたら、モンスターが材料とは気付かないだろう。


 後ろを振り返ると、マヤ姉が期待の眼差しで俺を見守っていた。

 姉が弟のために頑張って材料を獲って、頑張って作ってくれた料理……無碍に出来る俺ではない。


「こうなりゃやけだ!!」


 俺はモンスター飯を口の中に次々かき込んだ。

「いい食いっぷりだぞ、朝陽!」

 ちくしょう、味自体はめちゃくちゃ美味い。

 モンスターたちよ……なぜ美味しく育ってしまったのか。


「はぐほぐはぐ……ほぐっ!? は、はんふぁ!?」


 身体が燃えるようにアツい。

 足先から頭のてっぺんまで、力が巡っていく感覚が分かる。

 これがバフ効果か…!


 茂みがガサガサと動く。

「む? ワイルドボアだ。ボアキングの仇を取りに来たのか?」

 身構えるマヤ姉を手で制す。

「朝陽?」

「マヤ姉……ここは俺が」

 ワイルドボアが俺めがけて突進してくる。


「たあああああ!」


 一閃。

 先ほどまで苦戦していたワイルドボアを一撃で倒す。


「おお! 強くなっているぞ、朝陽!」

 マヤ姉が感嘆の声を挙げる。

「うはははは! 力がみなぎってくるー!!」

 俺はテンションがぶち上がった。

 中高生男子さながらの全能感が、身体中から溢れてくる。

 今なら何でも出来るし、誰とのレスバトルでも勝てそうな気がする。

 モンスター飯のバフ効果、これは確かに凄い!


「バフ効果が続いている内にレベル上げじゃーい!!」

 俺は雑魚モンスターを狩りまくった。

「ハイになってるなぁ」

 そんな様子をマヤ姉が生温かく見守ってくれていた。



 翌日。

 俺はベッドの上にいた。


 レベル上げで重傷を負ったのではない。

 全身が筋肉痛になって、動けなくなったのだ。

「ぜ、全身筋肉痛…! か、身体中バッキバキで動けない……! いてて…!」

「大丈夫か、朝陽」

 マヤ姉が心配そうに覗き込んでくる。

 リン○フィットをぶっ続けでやり込んだ日以来だ、こんな筋肉痛。


「げ、限界を超えて活動するってのも考えもんだ……」

 バフ効果に、よもやこんな副作用があったとは。

 異世界生活、まだまだ学びが多い。

「今日はゆっくり寝ているといい」

「そ、そうする…ところでマヤ姉…」


 マヤ姉はなぜか、淫靡な顔をしながら手をワキワキとさせていた。

「なにその顔と、怪しい手の動き…」

「ん? この手が何かって?」

 とてもイヤな予感がする。


「お姉ちゃんがマッサージで身体をほぐしてあげようと思ってな! モンスター料理よりキクぞー!」

 マヤ姉がベッドの上の俺に襲いかかる。

「だあああ! 俺が動けないのをいいことにぃぃぃ!」

 いつもの、シスコンによるブラコン攻撃である。

 動けない俺には為す術がない。


 モンスター飯はもうこりごりだー!

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