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お姉ちゃんと同衾しよう

 マヤねえがこんがり焼けた巨大な肉の塊片手に、話しかけてくる。

「一人でウサギを狩ったんだな! 偉いぞ、朝陽あさひ

 弟をねぎらってくれる姉。

 それより、ウサギより遥かに大きいその肉が気になる。


「ど、どうしたんだ、マヤ姉!? そのデカい肉!?」

「私の方でも食材を確保しに行っていたんだ」


 胸を張って、そう答えるマヤ姉。

 火起こし、水の確保だけでなく、食料調達まで難なくこなしてみせる姉。

 無人島に何かひとつ持って行けるとしたら、俺は姉を持っていきたい。この人、何でも出来ますやん。

 必死にキラーラビットと奮闘していた自分が何だかバカらしくも思えてくる。


「だが……」

 ボロボロになっている俺と、俺が担いでいるキラーラビットに視線を向ける。

「余計なお世話だったかな。すまない、朝陽の頑張りを無下にするようなマネを」

 マヤ姉は申し訳なさそうに視線を落とした。


「マヤ姉……」

 俺の姉は過保護だが、しかし弟の自立心にも寛容なところはある。

 けして庇護するだけではない……弟の成長も喜ばしく思える姉だ。

 だからこそ自分の出過ぎた行為によって、弟の頑張りを否定してしまったかもしれない……そう思って、後悔しているのだろう。


 そんなことはない。

 弟のことを案じてくれる姉を責めるような想いなど抱くはずがない。

「ありがとう、マヤ姉」

 だから俺は、にっと笑ってそう応えた。

 俺の笑顔に、マヤ姉も安堵の表情を浮かべる。

「このウサギや山菜は明日のゴハン用だな。さ、マヤ姉が獲ってきてくれた肉食おうぜ!」

「ああ、召し上がれ」


 日もすっかり落ちた夜の森。

 俺たちは焚き火を囲んで、姉が獲ってきた肉を頬張った。

「うっま! 脂がのっててジューシーで……噛めば噛むほど肉汁の洪水!」

「はっはっは。それだけ喜んでくれると、狩ったかいがあったというものだ」

 マヤ姉も嬉しそうに笑っている。


 いや本当、この肉マジで美味い。

 食べたことは一度もないが、A5ランクの牛肉にも匹敵する美味しさであろう。肉が溶ける。いくらでも食べられる。


「そういやこれ、何の肉なの? 牛?」

 素朴な疑問を姉に問いかける。

 こんな森に野生の牛でもいたのだろうか。

「ん? ああ、それはな……」

 マヤ姉は茂みの奥へ歩いて行くと、何かの脚を掴み、ズルズルと引っ張ってきた。


 それは身の丈10メートルはあろうかという、巨大な恐竜種のモンスターであった。

「こいつだ」

「ぶぅぅぅぅ!!」

 思わず吹き出す。

 なんちゅーモンスターをハントして、ウルトラ上手に焼いているんだ、この姉は。

 そりゃあ俺もキラーラビットを狩って食べようと思ってはいたけど、こちらは食用として市場に流通しているモンスターだ。対してこの恐竜種のモンスターは、明らかに食用ではない。むしろ人間をモリモリ食用にしてますという風貌だ。


「木々をなぎ倒し、岩をも砕く膂力だったからな……身が引き締まって美味そうだと思ったんだ。見立て通りで良かった!」

 笑顔でそう語るモンスターハンター姉さん。

「弟にモンスターを食わすなぁー!!」

 俺の魂の叫びが、日の沈んだ森の中にこだました。

 昆虫食ならぬ、モンスター食……またひとつ、異世界で新たな体験をしたのであった。


 夜も更け、眠りの時間。

 今日は色々あって疲れた……今はただ静かに眠りたい。俺は草むらに横になった。

「くしゅん!」

 夜の森は少し冷える。俺はクシャミをした。

 いや、”クシャミをしてしまった”……そう言うべきだろうか。


 闇夜にキラーンと光る、怪しげな瞳の持ち主。

 野犬か、コウモリか……いや、それは俺の実姉だった。

「そうか、冷えるか……!」

「ハッ!」

「ならばお姉ちゃんと同衾しよう! 暖め合おう!」

 寒がっている弟を暖めんと、姉が覆い被さってきた。


「ぎゃあああ! 姉が夜這いを掛けてくるぅぅぅ!」

「何を照れる! 昔はよく『オバケ怖いよ〜』と泣いて、姉の布団に潜り込んできただろう!?」

「だからいつの話をしてんのさ!?」

 それは俺が小学生低学年の頃までの話である。実際にあった自覚はバリバリあるけども。


 マヤ姉は俺の服を脱がしにかかる。え、なんで!?

「ちょ、やめ、おおおい! なんで脱がそうとすんの!?」

「なぁに、人肌越しの方がより暖まると思ってな!」

「モンスターより姉の方が怖いわー!!」

 今度は夜空に瞬く星々に、俺の叫びがこだました。


 姉との野宿は危険だ……心底そう思ったのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 現実世界での肉は、草食動物の肉は美味しく、肉食動物の肉は不味い事が多々ありますが、この世界では、無関係にしているのね
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