真・天魔滅衝剣
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
コミカライズ1~4巻発売中です。
俺たちは今、東の関所を舞台に、激戦を繰り広げていた。
関所の扉を破壊し、大群で押し寄せてくるモンスターたち。
それを、砦の兵士たちや他のクランの冒険者たちと共同で撃退していく。
まさにタワーディフェンスだ。
「エレガント・スプリットバスター!!」
「電光石火・六連…!」
グローリアがオークを一刀両断し、クオンが連続攻撃でゴブリンを蹴散らす。
「つ、強いぞ! あの少女たち!」
「あれが噂のスーパー朝陽軍団か! 名前はアレだが頼りになる!」
他のクランからそんな声が飛ぶ。
あの、えっと、そのクソダサクラン名を叫ぶのはやめてもらっていいですか?
恥ずかしいので。
ゴーレム級のグローリアはさすがと言うべきか、他の冒険者や兵士らと比べ、強さが頭ふたつは抜けている。
大型の敵でも臆せず一人で戦える、一対一に特化した強さだ。
それ以上に、この戦地においてキルリーダーとして活躍しているのがクオンだ。
乱戦、多対一に長けているのだろう、鮮やかに雑魚たちを蹴散らしていく。
クオンのランクを聞いたことはなかったのだが、この強さ、ゴーレム級どころかドラゴン級なのでは……?
ジークフリートさんにも遜色ないように見えるのだが。
「うぐぅ! いてえ、いてえよー!」
「衛生兵ー! 衛生兵はどこだー!?」
方方から助けを求める声が聞こえる。
戦いに不慣れな兵士や傭兵も多いのだろう。ケガを負ったことで戦意喪失したり、狼狽している者も数多くいる。
「ヒールウインド!」
癒やしの風が吹き、負傷者の傷がみるみる回復していく。
「あ、あれ? なんだこの風…」
「身体がずいぶん楽になってきた……!」
「負傷をしたら私がヒールします!」
回復魔法を使ったのはヒーラーのソフィだ。
レベルが上がったことで、いつの間にか全体回復魔法を使えるようになったらしい。
「あ、ありがてえ…!」
「聖母…聖母様じゃあ…!」
「さあ! これでケガも怖くありませんね! サボらずに前線に戻って下さい! さあさあ!」
「な、なんて扱き使う子だ……」
「聖母と言うより悪魔…?」
ソフィの二面性を知り、青くなる元負傷者たち。
すいませんね、その子ドSヒーラーなんですよ。
さて、俺こと軍場朝陽はというと、分相応にウルフやオバケキノコを相手にしていた。
これだけ乱戦になっていれば、俺が強敵相手に戦っていないこともバレまい。
オークやトロールなどの難敵は、グローリアやクオンに任せよう。
「空からワイバーンの群れが!」
空気を読まないことでお馴染みのワイバーンらが、空から襲いかかってくる。
「アサヒ! ワイバーンは任せましたわ!」
「え!? 俺!?」
「わたくしとクオンはトロール相手で手が離せませんの!」
アリバイ作りの戦闘をこなしていた俺に、突如大役が回ってくる。
「いやいや…一体だけでもキツいのに、3、4、5…5体もいるじゃん! 俺一人でやれと!?」
俺の肩を誰かがポンと叩く。
「え?」
「静かに。こちらを見るな、朝陽」
いつの間にか背後に近付いていたマヤ姉が、小声で俺に話しかけてくる。
マヤ姉もこの戦闘、強さがバレないように”それなり”の動きをずっとしていた。
それなりと言っても、冒険者や兵士に犠牲者が出ないように立ち回ってはいた。
おかげで、これだけモンスターの大群が押し寄せてきていても、いまだ戦死者ゼロだ。
その隠れた大功労者であるマヤ姉、俺に一体何の用だろう。
「朝陽。空に向かって、即興で技名を叫びながら剣を振れ」
「そ、即興で技名?」
何の話だろう。
しかしマヤ姉がやることだ、きっと何か秘策があるのだろう。
俺は剣を構え、空に向かって技名を叫んだ。
「えっと…し、真・天魔滅衝剣!!」
よく言えばテイル○オブシリーズのような、悪く言えば中二男子の黒歴史ノートに載っていそうな技名を、声高に叫ぶ。
その刹那、天が裂けて雷鳴が轟き、その衝撃波によってワイバーンの群れがみじん切りになった。
「おわあああ!?」
俺の真・天魔滅衝剣とんでもねえ!
いやもちろん、やったのはマヤ姉なのだが。
やりすぎなんだよ、俺の実姉!
もはや最終奥義なんだけど、この威力!
「す、すす、すげえ! 一網打尽だ!」
「ワイバーンの群れが消滅したぞ!!」
「スーパー朝陽軍団のリーダーだ! 彼の技だ!」
周囲の冒険者たちが叫ぶ。
「さ、さすがですわ! アサヒ!! このわたくしでも視認できぬ斬撃!」
グローリアが賞賛する。そりゃ、俺は斬撃放ってないからね。
「素晴らしいです、勇者さま! 一騎当千!」
ソフィも俺を持ち上げる。一騎当千なのはマヤ姉なんだよなぁ。
「……」
クオンは黙ってこちらを見ているだけだ。この子、全部気付いてない?
その凄惨な現場を目の当たりにし、一斉に狼狽え始めるモンスターたち。
「に、逃げろ! 勝てっこねえ!」
「だ、だが逃げたらギガノト様に背くことになるぞ!?」
「知ったこっちゃねえ! 命が大事だ!」
「うわあああああ」
モンスターたちは口々にそう言うと、こぞって関所から敗走した。
俺の真・天魔滅衝剣のおかげで万事解決である。
もういっそ、そう思うことにした。
「ありがとう! こっちの関所はもう安心だ!」
関所に配備されていた兵士が言う。
「こっちって……別の関所もあるんですか!?」
「大丈夫、西側の関所は山岳部にある自然の要塞……大群で攻めようがないから問題ないよ」
そう言って、遠く西の方を指差す。
「なら良かった」
「…………む?」
マヤ姉の顔色が少し変わったのを、俺は見逃さなかった。
「どうしたのさ、マヤ姉」
「……ふっ、朝陽は私の変化にすぐ気付くな」
「そりゃまあ、毎日見てるしね」
俺がそう言うと、マヤ姉はフッと笑みを浮かべた。
「……朝陽たちは先に帰っていてくれ。私はちょっと野暮用を思い出した」
「? ああ、わかった」
気になる言動だが、マヤ姉ならばどんな事態でも一人で解決できるだろう。
常に俺と一緒にいたがる姉が「先に帰れ」と言うならば、それはもう先に帰るべきなんだろう。
「グローリア、クオン、ソフィ。緊急のクランクエストは無事終わった。帰って祝杯といこう」
「ええ、もちろんですわ! じゃんじゃん飲み食いしますわよー!」
「お嬢、少しは自重を」
「帰りましょう、皆さん」
俺たちスーパー朝陽軍団は帰路につくことにした。
☆
同時刻。
自然の要塞と謳われた西の関所はしかし、無残にも破壊の限りを尽くされていた。
大きな門は、まるで巨大な拳で殴りつけられたように、綺麗に丸く大穴が開いている。
物見櫓や屯所は半壊し、砂ぼこりと白煙を上げている。
その関所の中央に悠然と立つ、一体の大男。
魔王六将がひとり、”百獣”のギガノトである。
「ハッ! 脆いな!」
ギガノトが居丈高に笑う。
「人間が作った砦……この百獣のギガノト様にとっては脆すぎる! この様子だと王都とやらも簡単に墜とせそうだなぁ……なあ、キルマリア?」
少し離れた後ろの壁により掛かっていたキルマリアに、ギガノトが話しかける。
「…………」
キルマリアは何も言わなかった。
その表情は、少し陰っていた。
「……さて、どうしたもんかのう…」
自分にだけ聞こえる小さい声で、そう呟くだけであった。