クラン限定クエスト
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
コミカライズ1~4巻発売中です。
とある日。
モンスターに襲われている農村を救ってくれ、というクエストを受け、俺たちは現場に向かっていた。
農作物を狙う害獣かゴブリンか……そんな風に考えていた俺のアテは完全に外れた。
そこにいたのは、身の丈4メートルほどのトロールであった。
「ト、トロール!?」
「でへへぇ、ニ、ニンゲンごときが、お、おでにかなうと、でへへ、おもってるのかぁ?」
口角泡飛ばしながらそう叫ぶトロール。
見た目通り、知性には欠けるらしい。その上で圧倒的な暴を有しているのだからタチが悪い。
だってもう、目がトンでいるんだもの。
話が通じるだけまだオークの方がマシまである。
「く、くく、くらえい!!」
力任せに振り回した豪腕を、すんでのところで交わす。
背後にあった納屋が簡単に半壊する。
「ひ、ひえ…なんつー怪力……!」
さらにトロールは裏拳で攻撃してくる。
「ぐっ!」
なんとか防御したが、5メートルほど吹き飛ばされる。デタラメなパワーだ。
「いつつ……」
よもやトロールがいるとは。
いや、だからこその”クラン限定クエスト”だったのか。
「でりゃあああですわ!!」
「続きます、お嬢」
「わ、私がヒールで援護します!」
グローリア、クオン、ソフィ……いまや同じクランの仲間だ。
彼女たちもトロールと対峙する。
「私がまず攪乱します。スキル『影縫い』」
トロールの周囲を目にも止まらぬ速さで動き回りながら切り刻み、足を止める。
「ぶちかましますわよ! 『グレイスフルストライク』!!」
脳筋お嬢さまのグローリアが力任せに剣を振るう。
「勇者さま! 『ヒール』です!」
「あ、ありがとう、ソフィ」
先ほどトロールから受けた一撃が癒やされていく。
まさに総力戦という感じだ。今までにない感覚、パーティーバトルという感じがする。
「い、いだくない! へいき、おで! ニンゲンよわい! おで、つよい!」
トロールは意にも介さない様子で、家屋や木々をなぎ倒しながら暴れている。
「トロールのぶ厚い脂肪に阻まれて、攻撃が通りませんわ!」
「ジリ貧ですね……」
グローリアとクオンの攻撃も満足に通らないとは、なんというタフな相手か。
「勇者さま! 補助魔法で防御力を上げますので、やっちゃってください! 『プロテクト』!」
ソフィが俺の物理防御力を勝手に上げてくる。
「お、俺に特攻しろと!?」
最近はトラブルメーカー的ムーブが少なくなってきたかなと思わせて、この鬼畜ヒーラー、ここ一番で仕掛けて来やがった!
あんな図体でかい相手、俺にどうこうできるわけないだろ!
……と言いたいところだが、俺が弱いことはクランのメンバーにもいまだに内緒なのだ。逃げるわけにはいかない。
「く、くっそー! こうなりゃやけだ!」
俺はトロールに向かって走ると、無駄と分かっていながらもそのタップタプの腹に剣を振るった。
「でへへ! いだくな……」
だが次の瞬間、トロールの巨躯が横に真っ二つに裂けた。
「は!? ト、トロールが横に裂けた……!?」
上半身と下半身がキレイに分離し、地面に横たわる。
数秒遅れて、やっと断面から噴水のように勢いよく血が噴き出す。
トロール自身も自分に何が起こったのか分かっていないらしい。
目をぱちくりとさせ「!?、!?」と戸惑いながら、その後静かに事切れた。
「ええ……!?」
その壮絶な死に様に、むしろ俺が引いている。
「や、やりましたわ!」
「さすがです! 勇者さま!」
「ナイスです、アサヒ氏」
グローリアとソフィが喝采を上げる。クオンも淡々と賛辞を送る。
いまだ戸惑っているのは、剣を振るった当人であるはずの俺だ。
しかし俺は、今の一連に思い当たるフシがあった。
俺の斬撃に合わせて、それも周囲にそうと悟られぬよう、トロールを一撃で倒せる人物……
俺は背後を見た。
前線からあえて身を引いて後方に待機し、こちらに手を掲げている我が実姉……マヤ姉だ。
その掌からはかすかにバチバチッと電撃がほとばしっている。
マヤ姉がやったのだ。
俺は小さくグッと親指を立てる。マヤ姉もさりげなく親指を立てる。
「クランクエスト、今回も上手くいったな」
聞こえはしなかったが、マヤ姉が口元を微かに動かしそう呟いている。
だいぶゴリ押しだったけどね!?
クランのメンバーに俺の弱さがバレないよう、クラン限定クエストを完遂する。
今日もまた、滞りなくそのミッションをクリアすることが出来たようだ。