遊戯帝ウィジャボード
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
コミカライズ1~4巻発売中です。
それはとある日のこと。
俺は下町の薄暗い路地裏を通って、一件のお店に向かっていた。
ノックをし、ドアを開ける。
ほこり臭いニオイが立ちこめ、思わず咳き込む。
狭い店内に色んな道具が雑多に並べられている。ろくに値札も貼っていない、店主のぞんざいな性格が窺える。
「けほっ。……ホアンさん、いますー?」
その店主に、入り口から声を掛ける。
その人物はカウンターで、コーヒー片手に新聞を読んでいたようだった。
「珍しい、お客かね。おお! アサヒくんじゃないか! 息災かね?」
中肉中背で初老ほどの年齢、丸メガネをかけ帽子を目深に被った男性が声を掛けてくる。
言葉を選ばず言うと、インチキ占い師みたいな風体だ。
しかし実はこの人、俺の恩人なのである。
この店はホアンさんが営む質屋。
俺が異世界にやって来た日、この店でスマホを担保に当面の資金を手に入れたのだ。
店の棚を見ると、目立つところに俺のスマホが置かれている。
ホアンさんは物珍しいこのスマホをオーパーツ扱いし、2000マニーも払ってくれた。
おかげで初期装備や宿の資金に最初の頃は困らなかったものだ。
ド○クエ初期作でいう王様ポジションなのだ、ホアンさんは。
いや、さすがにそれは褒めすぎか。
「ゴーレム級に昇級したんだろう? アタシの目に狂いはなかったね…やる男だと思ってたよ、うんうん」
「はは、そりゃどうも。なんか掘り出し物とかあります?」
「良いことを聞いてくれた!」
ホアンさんがカウンターの前に瓶を置く。
花瓶のように、先が狭くなっている形状をしている。
いや形状云々より、なんだろう、奇っ怪な負のオーラがプンプンと漂っているのだが……
「幻の霊薬が詰まっている! ……と言われている、この魔法の瓶だ!」
「め、めっちゃ妖しげなオーラ出てません? ホントに霊薬?」
俺は躊躇した。
「なかなか買い手が付かなくて困ってたんだ。今なら1980マニーの大特価! お店を助けると思ってどう!?」
今の俺にとって1980マニーはそこまで大金ではない。
採取クエストを2〜3件、討伐クエストを1件でもこなせば手に入る額だ。
「ホアンさんにはお世話になったからなぁ……わかりました、買います」
俺は店を後にし、人気のない公園へとやって来た。
石段に腰掛け、魔法の瓶とやらをくまなく調べる。
「幻の霊薬か……レベルアップアイテムとか? まさか呪いのアイテムじゃないよな?」
瓶の入り口にあるコルクを抜き、封を開ける。
カッと光が差す。
「え?」
その光に飲み込まれるように、俺の身体は瓶へと吸い込まれてしまった。
街に残されたのは、俺が買った瓶だけであった。
☆
「あいったあ!」
高いところから尻から落ち、俺は声を上げた。
「いつつ……な、なんだここ?」
周囲を見渡すと、そこは闇だけが広がる異空間のようであった。
例えて言うなら、精神と時の部屋の暗い場所版みたいな……
あるものと言えば、中央に置かれたテーブルとふたつの椅子だけだ。
テーブルの上には、何やらボードゲームのようなものが置かれている。
ああ、他にもあった。
周囲にゴロゴロ転がっている人骨だ。
「じ、人骨!? 人の骨じゃねえか!?」
俺は青ざめた。
なにここ、SAWシリーズの撮影場所跡!?
「うふふ……ようこそ、新たな挑戦者…」
「!?」
何者かの気配を感じ、剣を抜きそちらを見る。
そこには、ヤギの頭蓋骨のようなマスクを被り、黒いローブに身を包んだ身の丈3メートルほどの異形がいた。
「私の名は遊戯帝ウィジャボード……脱出を賭けた死のゲーム会場へようこそ……!」
「やっぱり呪いのアイテムじゃねえかああああ!!!」
俺は頭を抱えた。